2025年10月31日金曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その8

ジグソーパズルの下段の中央に、
首の後ろに右手を当てているエドワード・ジョージ・アームストロング医師が、赤枠で囲まれている。
<筆者撮影>


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)


(7)(21)エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong)


ロンドン・ハーリーストリート(Harley Street → 2015年4月11日付ブログで紹介済)の開業医のエドワード・ジョージ・アームストロングは、高名な元判事のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave → 2025年10月20日付ブログで紹介済)、体育教師(games mistress)のヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne → 2025年10月21日付ブログで紹介済)、元陸軍中尉(Lieutenant)のフィリップ・ロンバード(Philip Lombard → 2025年10月28日付ブログで紹介済)、信仰心の厚い老婦人のエミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent → 2025年10月29日付ブログで紹介済)や退役した老将軍(General)のジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon Macarthur → 2025年10月30日付ブログで紹介済)とは異なり、列車ではなく、車で現地へと向かう途中だった。


ハーリーストリート60番地を示す
非常に凝った外壁の装飾
<筆者撮影>

ハーリーストリート沿いの建物
<筆者撮影>

その建物外壁のアップ写真
<筆者撮影>


エドワード・ジョージ・アームストロング医師の車モーリス(Morris)は、サマーセット州(Somerset)の東隣りに位置するウィルトシャー州(Wiltshire)のソールズベリー(Salisbury)平野を走っていた。


エドワード・ジョージ・アームストロング医師は、オーウェン氏(Mr. Owen)なる人物から、びっくりするような金額の小切手が同封された手紙を受け取っていた。オーウェン氏によると、妻の健康を心配しているのだが、彼女は神経が過敏な上に、医者の診察を嫌がっているため、彼女に気付かれないように、病気の診断をしてほしい、とのことだった。

エドワード・ジョージ・アームストロング医師の経験では、自分が診察する女性の半分は、退屈しているだけで、身体はどこも悪くなく、今回のオーウェン氏の依頼は仕事として悪くなかった。彼としては、8月の朝にロンドンを離れて、デヴォン州海岸の沖合いの島である兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)で何日か過ごせるのは、嬉しかった。


兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>


十年前、いや、十五年前だったか、あの事件のあと何とか立ち直れたのは、ラッキーだった。あのときは本当にあぶなかった! もう少しで、なにもかも失うところだったじゃないか。ショックで目が覚めた。酒は、きっぱりやめた。いやはや、それにしても本当にあぶなかった…。

耳をつんざかんばかりのクラクションの音が響きわたり、大型スーパー・スポーツカー、ダルメインが、時速八十マイルの猛スピードで追い抜いていった。アームストロング医師は、あやうく垣根に突っこむところだった。いなか道をむこうみずに突っぱしる、暴走族の若者だ。アームストロングは、ああいう若者が大きらいだった。またも、あぶないところだったじゃないか。いまいましいったらない!

(青木 久惠訳)


ジグソーパズルの下段の中央に、首の後ろに右手を当てているエドワード・ジョージ・アームストロング医師が、赤枠で囲まれている。また、その右斜め上には、兵隊島に建つ邸宅の玄関から外へと出て、テラスを降りた後、エドワード・ジョージ・アームストロング医師が走り去る姿が見られる。


赤枠で囲まれたエドワード・ジョージ・アームストロング医師の右斜め上には、
兵隊島に建つ邸宅の玄関から外へと出て、テラスを降りた後、
彼が走り去る姿が見られる。
<筆者撮影>


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた執事と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と使用人夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

エドワード・ジョージ・アームストロング医師は、アルコールを摂取した後、患者のルイーザ・メアリー・クリース(Louisa Mary Clees)の手術を執刀して、死に至らせたと告発された。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と使用人夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、エドワード・ジョージ・アームストロング医師は、6番目の被害者となる。


Four little soldier boys going out to sea; A red herring swallowed one and then there were Three.

(4人の子供の兵隊さんが、海へ出かけた。一人が燻製の鰊(ニシン)に呑みれて、残りは3人になった。)


原作の場合、

夜中、屋敷から外へ出て行ったエドワード・ジョージ・アームストロングの追跡が失敗に終わり、

屋敷に戻って来たフィリップ・・ロンバードとウィリアム・ヘンリー・ブロアの2人は、

食堂へ行って、兵隊人形の数が3個に減っていることを確認。-

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


*被害者:エドワード・ジョージ・アームストロング

*告発された罪状:アルコールを摂取した後、患者のルイーザ・メアリー・クリースの手術を執刀して、死に至らせたと告発された。

*犯罪発生時期:1925年3月14日

*死因:溺死


原作の場合、海岸の二つの岩の間に、
エドワード・ジョージ・アームストロングの溺死体が挟まれているのが、
フィリップ・・ロンバードとヴェラ・エリザベス・クレイソーンの2人によって発見されている。
エドワード・ジョージ・アームストロングの溺死体は、満ち潮で打ち上げられたのである。-

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


なお、「red herring」とは、本来の問題点から皆の注意を他に逸らして、論点をすり替える論理的誤謬を指す用語で、推理小説においては、登場人物(警察や探偵等を含む)や読者を誤った結論へと導くために使用される虚偽の証拠や情報等のことを言う。


つまり、夜中に、エドワード・ジョージ・アームストロング医師が部屋から抜け出して、外へ出て行ったため、フィリップ・・ロンバードとウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore - 元警部)の2人が、「エドワード・ジョージ・アームストロングが、一連の殺人を行った犯人だ。」と考えて、彼の後を追うが、これは、登場人物である彼らと読者を誤った結論へと導いていることを、作者であるアガサ・クリスティーが「red herring」と言う用語を使って、匂わせているものと思われる。


2025年10月30日木曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その7

ジグソーパズルの中段の一番左端に、
愛する妻レスリーに思いを馳せるジョン・ゴードン・マッカーサーが、
赤枠で囲まれている。
<筆者撮影>

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)


(6)(16)ジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon MacArthur)


退役した老将軍(General)のジョン・ゴードン・マッカーサーは、高名な元判事のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave → 2025年10月20日付ブログで紹介済)、体育教師(games mistress)のヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne → 2025年10月21日付ブログで紹介済)、元陸軍中尉(Lieutenant)のフィリップ・ロンバード(Philip Lombard → 2025年10月28日付ブログで紹介済)や信仰心の厚い老婦人のエミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent → 2025年10月29日付ブログで紹介済)とは異なるルートで、オークブリッジ駅(Oakbridge Station)へと向かっていた。

ジョン・ゴードン・マッカーサーが乗った列車は、丁度、デヴォン州(Devon)の州都であるエクセター(Exeter)の駅に入るところで、当該駅で乗り換える必要があった。


ジョン・ゴードン・マッカーサーは、オーウェン(Owen)なる人物に、デヴォン州海岸の沖合いの島である兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)へと招待されていた。

オーウェンなる人物によると、ジョン・ゴードン・マッカーサーの古い友人も招待されている、とのことだった。


兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>


将軍には、このオーエンなる人物がいったい何者なのか、どうもはっきりしなかった。スプーフ・レガードの友達のようだし - それにジョニー・ダイアの友達でもあるらしい。

”- 閣下の古いご友人も、一人二人お見えになります - 昔話に花を咲かせられるのも、よろしいかと”

うむ、昔話をしたら、さぞかし楽しかろう。将軍はこの頃、周囲の人間が自分を避けているような気がしてならなかった。あの噂のせいにきまっておる! やれやれ、なんてしつこいんだ - もう三十年近く前のことではないか! アーミテッジのやつがしゃべったにちがいない。あの青二才め! いったいなにをつかんだのだろう。いや、よそう、こんなことをくよくよ気にしても始まらない。誰でも、ふとそんな気がすることがある - 変な目で見られているような、そんな気が -

それじゃともかくとして、この兵隊島は、将軍も自分の目で見たいと思っていた。噂が噂を呼んでいる島だ。海軍省か陸軍省、あるいは空軍が手に入れたという話は、噂ばかりとは言えないようだし…

エルマー・ロブソンという若いアメリカ人の富豪が、そこに邸宅を建てたのは事実だ。大金をかけたと聞いている。とほうもなく贅沢なものらしい…。

(青木 久惠訳)


ジグソーパズルの中段の一番左端に、愛する妻レスリー(Lesley)に思いを馳せるジョン・ゴードン・マッカーサーが、赤枠で囲まれている。また、直ぐ下には、兵隊島の先端に一人ポツンと座り、水平線をジッと見つめている彼の姿が見られる。


兵隊島に建つ邸宅の一番左端には、
兵隊島の先端に一人ポツンと座り、水平線をジッと見つめている
ゴードン・マッカーサーの姿が見られる。
<筆者撮影>


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた執事と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と使用人夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

ジョン・ゴードン・マッカーサーは、戦地において、自分の部下で、妻レスリーの愛人だったアーサー・リッチモンド(Arthur Richmond)を故意に死地へ赴かせたと告発された。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と使用人夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、エミリー・キャロライン・ブレントは、3番目の被害者となる。


Eight little soldier boys travelling in Devon; One said he’d stay and then there were Seven.

(8人の子供の兵隊さんが、デヴォン州を旅した。一人がそこに住むと言って、残りは7人になった。)



退役した老将軍であるジョン・ゴードン・マッカーサーは、
海岸において、自分の罪状を悔いている際、
鉛入りの護身用ステッキか何かで後頭部を殴打され、
頭蓋骨折のため、3番目
の犠牲者となる。
画面左下の場面において、右側から、ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(秘書)、
トマス・ロジャーズ(執事)、
ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(元判事)、
ウィリアム・ヘンリー・ブロア(元警部)、ジョン・ゴードン・マッカーサー(遺体)、
フィリップ・ロンバード(元陸軍中尉)、エドワード・ジョージ・アームストロング(医師)、
そして、
エミリー・キャロライン・ブレント(老婦人)が立っている。-

HarperCollins Publishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。

*被害者:ジョン・ゴードン・マッカーサー

*告発された罪状:戦地において、自分の部下で、妻レスリーの愛人だったアーサー・リッチモンドを故意に死地へ赴かせた。

*犯罪発生時期:1917年1月14日

*死因:鉛入りの護身用ステッキか何かによる後頭部殴打に基づく頭蓋骨折


ジョン・ゴードン・マッカーサーの死亡に伴い
テーブルの上に置かれた兵隊の人形の数が8個から7個へと減っていた。-
HarperCollins Publishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


2025年10月29日水曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その6

ジグソーパズルの上部のやや右側に、
赤い服を着た正装したエミリー・キャロライン・ブレントが顔の前で両手を合わせている場面が、
赤枠で囲まれている。
<筆者撮影>

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)

(5)(24)エミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent)

信仰心の厚い老婦人のエミリー・キャロライン・ブレント(65歳)は、高名な元判事のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave → 2025年10月20日付ブログで紹介済)、体育教師(games mistress)のヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne → 2025年10月21日付ブログで紹介済)や元陸軍中尉(Lieutenant)のフィリップ・ロンバード(Philip Lombard → 2025年10月28日付ブログで紹介済)と同じく、ロンドンのパディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)12時40分発の列車に乗り、オークブリッジ駅(Oakbridge Station)へと向かっていた。

パディントン駅のコンコースとそれを覆うガラス屋根
<筆者撮影>

ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、一等喫煙車に乗っていたが、エミリー・キャロライン・ブレントが乗っていたのは、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンやフィリップ・ロンバードと同じ三等車だった。ただし、彼女は、別の車両(禁煙者)に乗車していた。


エミリー・キャロライン・ブレントは、デヴォン州(Devon)海岸の沖合いの島で旅館を開業しようとしている U. N. O. と言う人物から招待されて、兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)へと赴く途中だった。

U. N. O. と名乗る人物によると、数年前の8月、ベルヘイヴンの旅館において、エミリー・キャロライン・ブレントに会ったことがある、とのことだった。


兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>


名前は何だったのかしら。名字の部分がいやに読みづらかった。”ひどくくずした字でサインする人が多いから、困るわ” エミリー・ブレントはいらいらした。

ベルヘイヴンで出会った人たちを思い浮かべてみた。ミス・ブレントはそこに、二夏続けて行ったのだ。感じのいい、中年女性がいたっけ - たしか、ミス - ミスなんとか - ああ、なんて名前だったかしら。お父さんが聖堂参事会員だったと言っていたけれど - ほかにもミセス・オルトンとか - オーメンとか - いえ、そうじゃなくて、たしかオリヴァーだったわ! そう、オリヴァーよ。

兵隊島! そう言えば、その島の話が新聞にのっていたわねえ。映画スターがどうのこうの - それとも、大富豪のアメリカ人の話だったかしら。

そういう場所は、きっと値段もぐんと安いのにちがいない。島というのは、万人向けではない。島と聞けば、ロマンティックと思うけれど、実際に住んでみれば、不便とわかり、すぐに売りに出されるのだ。

”とにかく、夏休みをただですごせるんだから”と、エミリー・ブレントは思った。

収入が大幅に減ったうえに、投資の配当金ももらえないことが多かったから、本当に耳よりな話だった。とはいえ、ミセス・オリヴァーのことが - ミスだったかしら - もうちょっと思いだせると、いいんだけれどねえ!

(青木 久惠訳)


ジグソーパズルの上部のやや右側に、赤い服を着た正装したエミリー・キャロライン・ブレントが、顔の前で両手を合わせている場面が、赤枠で囲まれている。また、兵隊島に建つ邸宅の2階の一番右端が、エミリー・キャロライン・ブレントの部屋で、その窓辺に佇む彼女の姿が見られる。


兵隊島に建つ邸宅の2階の一番右端が、エミリー・キャロライン・ブレントの部屋で、
その窓辺に佇む彼女の姿が見られる。
<筆者撮影>


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた執事と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と使用人夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

エミリー・キャロライン・ブレントは、以前、ビアトリス・テイラー(Beatrice Taylor)と言う娘を使っていたが、誰の子か判らない子を身ごもったため、彼女を解雇。また、ビアトリス・テイラーの両親も、娘の不始末を許さなかったので、彼女は、川に身を投げて、自分の命を絶っている。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と使用人夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、エミリー・キャロライン・ブレントは、5番目の被害者となる。


Six little soldier boys playing with a hive; A bumble-bee stung one and then there were Five.

(6人の子供の兵隊さんが、蜂の巣に悪戯をした。一人が蜂に刺されて、残りは5人になった。)


信仰心の厚い老婦人であるエミリー・キャロライン・ブレントは、
他のゲスト達が朝食の後片付けをしている最中、食堂に一人残っていた。
その時、
皮下注射器に入った青酸カリが入った皮下注射器を首筋に刺されて、5番目の犠牲者となる。 -
HarperCollins Publishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


*被害者:エミリー・キャロライン・ブレント

*告発された罪状:以前、ビアトリス・テイラー(Beatrice Taylor)と言う娘を使っていたが、誰の子か判らない子を身ごもったため、彼女を解雇。また、ビアトリス・テイラーの両親も、娘の不始末を許さなかったので、彼女は、川に身を投げて、自分の命を絶っている。

*犯罪発生時期:1931年11月5日

*死因:皮下注射器に入った青酸カリによる中毒死



エミリー・キャロライン・ブレントの死亡に伴い、
テーブルの上に置かれた兵隊の人形の数が6個から5個へと減っていた。
画面左側から、ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(秘書)、フィリップ・ロンバード(元陸軍中尉)、
ウィリアム・ヘンリー・ブロア(元警部)、エドワード・ジョージ・アームストロング(医師)、
そして、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(元判事)
の5人
が立っている。-

HarperCollins Publishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


2025年10月28日火曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その5

ジグソーパズルの上部のやや左側に、
正装したフィリップ・ロンバードが左手に拳銃を構えている場面が、赤枠で配置されている。
<筆者撮影>

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)

(4)(25)フィリップ・ロンバード(Philip Lombard)

元陸軍中尉(Lieutenant)のフィリップ・ロンバードは、高名な元判事のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave → 2025年10月20日付ブログで紹介済)や体育教師(games mistress)のヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne → 2025年10月21日付ブログで紹介済)と同じく、ロンドンのパディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)12時40分発の列車に乗り、オークブリッジ駅(Oakbridge Station)へと向かっていた。

パディントン駅のコンコースとそれを覆うガラス屋根
<筆者撮影>


ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、一等喫煙車に乗っていたが、フィリップ・ロンバードが乗っていたのは、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンと同じ三等車で、それも彼女の向かいの席に座っていたのである。


フィリップ・ロンバードは、ユダヤ人のアイザック・モリス(Issac Morris)から内密の仕事を依頼されて、兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)へと赴く途中だった。


兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>


それにしても今度の仕事は、いったいどういうことなんだ。ロンバードは不思議でならなかった。あのチビのユダヤ人、やたら謎めいたことを言っていたなあ。

「ロンバード大尉さん、いやならいやで、いいんですよ。」

そう言われて、ロンバードは考えながら言った。

「百ギニーかい」

彼は百ギニーなんて金のうちに入らないような、軽い調子でそう言った。あと一回まともな食事をしたら、財布の中はすっからかんだというのに! でもあのユダヤ人にはそのことが、ちゃんとわかっていたにちがいない。しゃくにさわるのは、そこだ。こと金に関する限り、やつらの目は絶対にごまかせない - すべて、お見とおしだ!

ロンバードは軽い調子のまま、続けた。

「それ以上はなにも教えてもらえないわけかい」

アイザック・モリスは、小さなハゲ頭をきっぱりふった。

「そうです。いまお話ししたことだけです。この話を持ってきたお客さんの話だと、ロンバード大尉さん、あんたはピンチに強いという評判だとか。デヴォン州スティクルヘイヴンに行ってもらえるんなら、百ギニーお払いするように、言いつかっています。オークブリッジ駅まで列車で行ってもらえば、迎えの者がスティクルヘイヴンまで車で送ります。そこから兵隊島には、モーターボートですね。島に着いたら、お客さんの指図に従ってください」

ロンバードはだしぬけに質問した。

「期間は?」

「長くても、一週間以上にはなりません」

短い口ひげをひねって、ロンバード大尉は言った。

「わかっているんだろうね - 不正なことは、いっさいお断りなんだよ」

そう言いながらロンバードは、相手を、チラッと見た。真面目くさって答えるモリスのユダヤ人らしい厚ぼったい唇に、薄笑いがかすかににじんだ。

「不正なことをするように言われたら、もちろんその場で引いてもらって、かまいませんよ」

ネコっかぶりめ、笑いやがった! ロンバードの過去の行動から推して、不正かどうかなんて、ろくに気にしないことを見すかしたような、笑い方だった。

ロンバード自身の唇も、ニヤリと笑いくずれた。

たしかに危ない橋を渡ったことも、一度や二度あったっけな。でもいつも、なんとか切り抜けた。彼があまりこだわらないのは、本当のことだった…

四の五の言う気はない。兵隊島とやら、けっこうおもしろそうじゃないか…

(青木 久惠訳)


兵隊島に建つ邸宅の入口の上にある窓の向こうの廊下を、
右手にロウソクを持ち、左手に拳銃を構えた正装のフィリップ・ロンバードが進んでいる姿が描かれている。
<筆者撮影>


ジグソーパズルの上部のやや左側に、正装したフィリップ・ロンバードが、左手に拳銃を構えている場面が、赤枠で囲まれている。また、兵隊島に建つ邸宅の入口の上にある窓の向こうの廊下を、右手にロウソクを持ち、左手に拳銃を構えた正装のフィリップ・ロンバードが進んでいる姿が見られる。


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州(Devon)の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた執事と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と使用人夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

フィリップ・ロンバードは、東アフリカにおいて先住民族から食料を奪った後、彼ら21人を見捨てて死なせたと告発された。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と使用人夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、フィリップ・ロンバードは、9番目の被害者となる。


Two little soldier boys sitting in the sun; One got frizzled up and then there was One.

(2人の子供の兵隊さんが、日光浴をしていた。一人が焼け焦げになって、残りは1人になった。)


画面中央に立つ水色の服を着た人物が、ヴェラ・エリザベス・クレイソーン。
彼女の左側に横たわる黄色いシャツに焦げ茶色のズボンの人物が、フィリップ・ロンバードで、
彼女の右側に横たわる緑色のスーツを見た人物が、
医師のエドワード・ジョージ・アームストロングである。
アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。

*被害者:フィリップ・ロンバード

*告発された罪状:東アフリカの部族民21名を死に追いやったと告発された。

*犯罪発生時期:1932年2月のある日



原作の場合、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、フィリップ・ロンバードから拳銃を奪い取ると、

彼が飛び掛かった際、反射的に引き金を引いて、彼の心臓を打ち抜いてしまう。

つまり、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが、フィリップ・ロンバードに向けて発射した拳銃は、1発のみ。

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版の場合、
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、フィリップ・ロンバードに向けて、
拳銃を3発発射しているので、原作とは内容が異なる。


*死因:射殺

海岸において、エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong - 医師)の溺死体を発見したヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、フィリップ・ロンバードから拳銃を奪い取ると、彼が飛び掛かった際、反射的に引き金を引いて、彼の心臓を打ち抜いてしまう。つまり、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが、フィリップ・ロンバードに向けて発射した拳銃は、1発のみ。