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ハドスン夫人の姉からの電報を受けたシャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの二人は、直ぐに馬車でウォータールー駅(Waterloo Station → 2014年10月19日付ブログで紹介済)へ向かい、昼12時の列車でコンウォール州(Cornwall)へと出発した。
ハドスン夫人の姉であるフローラ・キャンベル(Mrs. Flora Campbell)の家は、ティンタジェル(Tintagel)の町から2-3マイル程離れたところにあった。
実は、ホームズが駅で切符を買っている間に、見知らぬ背の低い男がワトスンに近付いて来て、今日のテレグラフ紙を渡すと、人混みの中に姿を消してしまったのである。
ワトスンからそのことを聞いたホームズが新聞を調べたところ、広告欄のページに変な記載があった。
“Mr. Fermat to Mr. Shomel : it’s your move ; your pawn is in deep water and speed is of essence.”
(注)
ピエール・ド・フェルマー(Pierre de Fermat:1607年ー1665年)
フランスの裁判官で、数学者でもあった人物。「フェルマーの定理」で知られており、「数論の父」と呼ばれている。
誰かが新聞の広告欄を使って、チェスゲームをしているようだ。ホームズは、ワトスンに対して、「これは、自分(Mr. Shomel)に対するメッセージだ。」と断言した。しかし、一体、誰が?
ホームズとワトスンがハドスン夫人の姉の家を訪れると、彼女は、「ホームズ宛に電報を出していない。」と答えた。ハドスン夫人自身の所在を尋ねられると、「She(Martha)’s out at Tintagel.」と話した。ハドスン夫人は、ティンタジェルの町に出かけたついでに、ティンタジェル城(Tintagel Castle)の見物をしているようだ。
ティンタジェルの町へと引き返したホームズとワトスンであったが、ティンタジェル城にハドスン夫人の姿は全く見当たらなかった。
ホームズがティンタジェル城に残るハドスン夫人の足跡を辿った結果、満潮が迫る海岸の洞窟の奥に、手足を縛られたハドスン夫人を発見したのである。
無事に救出したハドスン夫人から聞いた証言をベースに、ホームズは、「ハドスン夫人の手足を縛って、海岸の洞窟の奥に運んだ犯人は、ジョージ・シンプソン(George Simpson)だ。」と断定した。
ホームズによると、ジョージ・シンプソンは、「犯罪界のナポレオン(Napoleon of crime)」と呼ばれたジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)の部下として、イーストエンド(East End)で暗躍していた、とのこと。数年前に、ホームズは、ジョージ・シンプソンを捕まえて、ニューゲート監獄(Newgate Prison)へと送ったが、どうやら、既に脱獄済のようだった。
ホームズの話を聞いたワトスンは、彼に対して、「一体、誰が今回の事件の背後に居るのか?(Who … who do you think is behind all of this ?)」と尋ねると、長い沈黙の後、ホームズは答えた。まるで、彼の声は、遠くから聞こえてくるようだった。
「幽霊だよ、ワトスン。幽霊だ。(A ghost, Watson - a ghost.)」
ワトスンが、更に尋ねる。
「墓場から死者が甦ったのか?(I wonder, do ghosts rise from the dead ?)」
すると、ホームズが、あの有名なセリフを繰り返す。
「Once you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, is the truth.」
そして、最後に付け加えたのである。
「そうさ、ワトスン、モリアーティー教授は、生きていたんだ。(Yes, Watson, Professor Moriarty has returned from the dead.)」と。
モリアーティー教授は、自分と同じ数学者であるピエール・ド・フェルマーの名前を使って、自分をチェスゲームに引き込もうとしていると、ホームズは考えていた。
ホームズと同じく、スイスのマイリンゲン(Meiringen)にあるライヘンバッハの滝壺(Reichenbach Falls)から復活したモリアーティー教授は、先日、彼らの元を訪れたメリーウェザー嬢(Miss Merriweather)が保有する「インドの星(The Star of India)」と呼ばれる青いサファイアに狙いを定めた。
「インドの星」は、正当な持ち主ではない人物の手に渡ると、死をもたらすと言い伝えてられていたのである。(The Star of India, it is said to bring death upon a wrongful owner.)
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