2021年6月20日日曜日

ダニエル・スタシャワー作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 心霊体(エクトプラズム)の男」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Ectoplasmic Man by Daniel Stashower) - その3

1989年に扶桑社から扶桑社ミステリーシリーズの一冊として出版された
日本語版の文庫本の表紙
カバーデザイン: 富永 寿 氏
        イラストレーション: 大山 求 氏

日本語版のタイトルは、「シャーロック・ホームズ・ミステリー
ロンドンの超能力男」となっている。
なお、原題は、「The Adventure of The Ectoplasmic Man」である。

読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆半(2.5)

シャーロック・ホームズと同時代の実在の人物で、脱出マジックで鳴らしたハリー・フーディーニ(Harry Houdini:1874年ー1926年)を主要人物として登場させている。彼の脱出マジックがあまりにも素晴らしいが故に、彼が無実の罪で逮捕され、ホームズが彼を救い出すというストーリーになっている。

本作品の作者であるダニエル・スタシャワー(Daniel Stashower:1960年ー)が作家兼マジシャンなので、ハリー・フーディーニを主要登場人物として起用した理由は明白ではあるが、ただ、ホームズの相手役が「切り裂きジャック(Jack The Ripper)」、「ジキル博士とハイド氏(D. Jekyll and Mr. Hyde)」、「フランケンシュタイン(Frankenstein)が創り上げた人造人間」、「ドラキュラ(Dracula)」や「オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)」等のケースと比べると、残念ながら、やや面白みに欠ける。


(2)物語の展開について ☆☆☆(3.0)

英国政府官邸の金庫室からの重要書類盗難をメインにして、それに付随して発生する殺人事件を、ホームズとジョン・ワトスンが調査するというように、物語は展開する。ただ、ストーリー展開としては、物語の終盤部分を除くと、普通で、話の盛り上がりについても、少ない。


(3)ホームズ/ワトスンの活躍について ☆☆☆半(3.5)

鉄壁を誇る英国政府官邸の金庫室内に賊がどうやって侵入したのか、ドイツ人のマジシャンであるクレッピーニ(Kleppini - 架空の人物)がどのようにして難攻不落のアリバイを確保できたのか、そして、ヴァレンカ伯爵夫人(Countess Valenka:英国王太子の昔の愛人 - 架空の人物)を殺害したのは誰なのかを、ホームズは最後に解き明かしてみせる。

特に、2番目の謎については、物語の序盤部分において、ヒントがある会話の中に出てきていたが、個人的には、やや掟破りのような印象が強く、あまりいただけない気がする。


(4)総合評価 ☆☆☆(3.0)

本作品において、密室となった英国政府官邸の金庫室からの盗難、アリバイ崩しや殺人犯捜し等、メインとなるテーマがいろいろと入っていて、作者の頑張りはそれなりに評価できるものの、ストーリー展開が平凡で、話の盛り上がりにややかけていて、今一つ高評価につながらない。特に、アリバイ確保に関しては、やや禁じ手に近い手段が用いられており、納得感が得られないと思う。

世紀の脱出王であるハリー・フーディーニを主要人物として登場させてはいるが、物語全体としては、成功しているとは、あまり言えない。ただし、物語終盤におけるホームズ達による犯人の追跡劇は、活劇風で、なかなか楽しめる。



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