2022年12月7日水曜日

コナン・ドイル作「ボヘミアの醜聞」<グラフィックノベル版>(A Scandal in Bohemia by Conan Doyle )- その1

英国の MX Publishing 社から2014年に出版された
ペトル・コペル作画による
「ボヘミアの醜聞」(グラフィックノベル版)の表紙 -
画面上段:「Sherlock Holmes」の文字の中に、
「ボヘミアの醜聞」に登場するアイリーン・アドラー(Irene Adler)が
描かれている。
画面下段(手前):左側から、「ボヘミアの醜聞」に登場する
フォン・クラム伯爵(Count von Kramm - 実際には、ボヘミア国王)、
シャーロック・ホームズ、ジョン・H・ワトスン、
そして、ベイカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)の
カートライト(Cartwright)が描かれている。
画面下段(奥):「まだらの紐」に登場する
ヘレン・ストーナー(Helen Stoner)、
グリムズビー・ロイロット博士(Dr. Grimesby Roylott)、
そして、ロイロット博士が飼っているチーターが描かれている。

今回は、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」のグラフィックノベル版を紹介したい。

本グラフィックノベル版は、元々、チェコ共和国(Czech Republic)ヴィソチナ州トシェビーチ郡の都市トシェビーチ出身のイラストレーターであるペトル・コプル(Petr Kopl:1976年ー)が1998年に雑誌に発表した作品が、2013年に単行本化された後、2014年に英国の MX Publishing 社から英訳版が発行された。


なお、ペトル・コプルによるシャーロック・ホームズ作品のグラフィックノベル版について、全部で3作の英訳版が英国内で出版されている。


(1)「ボヘミアの醜聞」

(2)「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」(1901年ー1902年)

(3)「最後の事件(The Final Problem)」(1893年 → 2022年5月1日 / 5月8日 / 5月11日付ブログで紹介済)


ペトル・コプルは、他にも、アイルランド人の小説家であるブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1912年)によるゴシック小説 / ホラー小説「吸血鬼ドラキュラ(Dracula)」(1897年)やコナン・ドイルによる SF 小説「失われた世界(The Lost World)」(1912年)等のグラフィックノベル版も発表しており、これらの登場人物を上記の3作品の中に登場させることで、各作品が同じ世界で進行しているような構成を採っている。


「ボヘミアの醜聞」のグラフィックノベル版の場合、話の途中に、「まだらの紐(The Speckled Band)」が挿入されているため、全体で約150ページの分量となっている。


英国の MX Publishing 社から2014年に出版された
ペトル・コペル作画による
「ボヘミアの醜聞」(グラフィックノベル版)の裏表紙


なお、コナン・ドイル作「ボヘミアの醜聞」は、シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、最初(1番目)に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1891年7月号に、また、「まだらの紐」は、8番目に発表された作品で、同誌の1892年2月号に掲載された。

両作品は、1892年に発行されたホームズシリーズの第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」に収録されている。


コナン・ドイルの原作によると、「ボヘミアの醜聞」事件は、1888年3月20日に、また、「まだらの紐」事件は、1883年4月初めに発生したと明記されているが、ペトル・コプルによるグラフィックノベル版の場合、1880年の冬から1881年の春にかけて発生したものと設定されている。

また、コナン・ドイルの原作上、後のジョン・H・ワトスン夫人となるメアリー・モースタン(Mary Morstan)が依頼人として登場する「四つの事件(The Sign of the Four)」事件(1890年)は、1888年9月に発生したものと考えられており、「ボヘミアの醜聞」事件よりも後であるが、ペトル・コプルによるグラフィックノベル版の場合、メアリー・モースタンは、既にワトスン夫人となっている。


2022年12月6日火曜日

キャロル・ブッゲ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / トーア寺院に出没する幽霊」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Haunting of Torre Abbey)- その3

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2018年に出版された
キャロル・ブッゲ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / トーア寺院に出没する幽霊」の裏表紙(部分)

霧が深い10月のある晩、デヴォン州(Devon)トーキー(Torquay)に所在する元修道院だったトーア寺院(Torre Abbey)に住むチャールズ・ケアリー卿(Lord Charles Cary)から至急の電報を受け取ったシャーロック・ホームズは、ジョン・H・ワトスンを伴い、パディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)発午後6時45分の最終列車で、トーキーにあるトアベイ駅(Tor Bay Station)へと向かった。トーア寺院は、トアベイ駅から、馬車で直ぐの場所にあった。

老齢の執事グレイスン(Grayson)は、既に就寝中のため、チャールズ・ケアリー卿本人が、ホームズとワトスンの二人を出迎えた。彼によると、「妹のエリザベス(Elizabeth)が、10月5日(水)の夜に続いて、再度、首のない修道士の姿を見た。」とのことだった。


急いでロンドンを出て来たため、まだ食事を済ませていなかったので、料理人のサリー・グビンズ(Sally Gubbins)に出してもらった食事(長ネギとジャガイモのスープ)を済ませたワトスンは、精神的に不安定になっているエリザベスのために、鎮静剤を取りに、玄関ホールへと戻る。

サリー・グビンズには、ウィリアム(William)という12歳の息子が居るが、知恵遅れの子供だった(He’s not quite right in the head.)ため、ケアリー家の簡単な雑用をこなすことしかできなかった。


玄関ホールへ戻る途中、今までに感じたことがない寒気が、ワトスンの体を走るのを感じた。そして、その寒気のために、ワトスンの身体が固まってしまった。玄関ホールには、自分だけではなく、自分以外の何か、それも、悪意のようなものが存在しているようだった。

ワトスンは、勇気を奮い起こして、深呼吸をすると、身体を捉えていた呪縛が突然解けた。手足を動かすことができるようになったワトスンは、玄関ホールに置いてあった自分の鞄から鎮静剤を取り出すと、皆が居る場所へと急いで戻った。


皆が居る場所に戻ると、ワトスンは、水が入ったグラスに鎮静剤を入れると、エリザベスに渡す。彼女が鎮静剤入りの水を飲む際、彼女の左手首の内側(掌側)に、白い傷痕があることが、ワトスンは気になった。そのことに気付いたエリザベスは、鎮静剤が入ったグラスの水を飲み干すと、慌てて左手首を隠すのであった。


その後、ホームズとワトスンは、割り当てられた各々の部屋へ退いた。

疲れたワトスンは、ベッドの上に寝転ぶと、直ぐに寝入ってしまった。暫くすると、ワトスンは、自分の頬に風があたっているように感じた。あるいは、何かが自分の頬に触れているような気がした。

そして、何処からか、隙間風が吹き込んできているような寒気を感じたワトスンは、目を覚ました。すると、彼のベッドの横に、自分以外の何か、つまり、首のない修道士が立っていたのである。身体中に恐怖心が走ったワトスンは、叫び声を上げると、気を失ってしまった。

再度、ワトスンが目を覚ますと、首のない修道士の姿は、掻き消えていた。


続いて、屋敷内の皆が、エリザベスが上げる叫び声を耳にする。

皆がエリザベスの元に駆け付けると、エリザベスは、「今度は、騎士(Cavalier)の姿を見た。」と告げる。エリザベスの話を聞いたチャールズ・ケアリー卿は、「それは、私達の先祖で、17世紀に居たヒューゴ・ケアリー(Hugo Carey)に違いない。」と答えるのであった。


チャールズ・ケアリー卿は、ホームズとワトスンに対して、ケアリー家の言い伝えの内容を説明した。


・ヒューゴ・ケアリーは、冷酷な殺人者で、ケアリー家に降り掛かる呪いの源であること

・ケアリー家の者が騎士の姿を見かけた場合、ケアリー家の誰かが必ず恐ろしい死を迎えること


エリザベス・ケアリー、チャールズ・ケアリー卿、そして、ワトスンが見た首のない修道士とは、14世紀後半からトーア寺院に現れる幽霊なのか、それとも、悪意のある何者かの仕業なのか?

今夜、エリザベスが見た騎士も、チャールズ・ケアリー卿が話す通り、ケアリー家の先祖であるヒューゴ・ケアリーの幽霊なのだろうか?

また、「首のない修道士」や「騎士」が姿を見せるのは、何の目的があってのことか?


これらの不可解な謎に対して、ホームズは挑むことになる。


2022年12月5日月曜日

アガサ・クリスティー マープル 2023年カレンダー(Agatha Christie - Marple - Calendar 2023)- 「予告殺人(A Murder is Announced)」

ビル・ブラッグ氏が描く
ミス・マープルシリーズの長編第4作目である
「予告殺人」の一場面

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の HarperCollinsPublishers 社から出ているミス・ジェーン・マープル(Miss Jane Marple)シリーズのペーパーバック版の表紙を使った2023年カレンダーのうち、5番目を紹介したい。


(5)「予告殺人(A Murder is Announced)」(1950年)


「予告殺人」は、1950年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第4作目である。


チッピングクレグホーン村(Chipping Cleghorn)の地元紙朝刊「ギャゼット(Gazette)」の広告欄に、非常に変わった連絡が掲載された。「殺人をお知らせ致します。10月29日の金曜日、午後6時半にリトルパドックス館においてです。(A murder is announced and will take place on Friday, October 29th, at Little Paddocks, at 6:30 pm.)」と。

チッピングクレグホーン村の郊外にあるリトルパドックス館(Little Paddocks)の女主人であるレティシア・ブラックロック(Letitia Blacklock)は、この広告を見て困惑する。一方で、当日、好奇心旺盛な村の人々が、続々とリトルパドックス館に集まって来て、何が起きるのか、とても心待ちにしていた。


そして、時計が午後6時半を告げた時、室内の明かりが突然消えると、部屋の扉が開いて、懐中電灯を持った男が姿を現した。村の人々が何かの余興だと思った時、銃声が響く。

部屋の扉が閉まり、明かりが灯ると、そこには、突然部屋に侵入して来た男の死体が横たわっていたのである。レティシア・ブラックロックの親友であるドーラ・バンナー(Dora Bunner)によると、死んでいた男は、村の近くのメデナムウェルズ(Medenham Wells)にある「ロイヤルスパホテル(Royal Spa Hotel)」に勤める従業員のルディー・シャーツ(Rudi Scherz)とのこと。


警察が呼ばれ、クラドック警部(Inspector Craddock)が、その場に居合わせた村の人々を一人ずつ調べていく。状況としては、自殺、あるいは、事故のように思われるが、クラドック警部としては、どちらにも納得がいかなかった。


クラドック警部にとって非常に幸運なことに、死亡したルディー・シャーツが勤めていたホテルには、探偵好きな独身の老婦人ミス・マープルが、リューマチの湯治のため、滞在していたのである。

ミス・マープルの手腕を高く評価している警察の上層部から、クラドック警部は、事件の真相解明のために、ミス・マープルに協力を求めるよう、指示される。クラドック警部からの依頼を受けたミス・マープルは、驚くべき事件の真相を明らかにするのであった。



カレンダーには、リトルパドックス館内の明かりが突然消えて、部屋の扉が開き、拳銃を持った謎の男(ルディー・シャーツ)が部屋に侵入して来たシーンが描かれている。画面中央に描かれた暖炉の上の時計は、午後6時半を指している。
同じく、画面中央の壁には、拳銃を持ったルディー・シャーツの影が映っているが、リトルパドックス館内の明かりは消えており、ルディー・シャーツ自身が懐中電灯を持っている(→ 懐中電灯を間に挟んで、ルディー・シャーツ自身は、壁に相対している)ので、彼の影が壁に映ることは、現実的にはありえないものの、これは、当該場面を劇的に表現する上での御愛嬌と言える。

2016年9月15日に、アガサ・クリスティー没後40周年に際して、
英国のロイヤルメール(Royal Mail)が発行した記念切手6種類のうちの
1枚である「予告殺人」 -
厳密には、記念切手のように、
ルディー・シャーツの影が、壁に映ることはありえない。

HarperCollinsPublishers 社から出版されている「予告殺人」のペーパーバック版の表紙には、ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)によるイラストが、薔薇の花束が活けられた花瓶の形に切り取られているものが使用されている。


2022年12月4日日曜日

アガサ・クリスティー作「チムニーズ館の秘密」<グラフィックノベル版>(The Secret of Chimneys by Agatha Christie )- その2

数年ぶりに英国の土を踏んだアンソニー・ケイドは、
ロンドンのブリッツホテルに宿泊したが、
スティルプティッチ伯爵(Count Stylptitch)の回顧録を手に入れたい人物が、
次々とアンソニーの前に姿を現わす。


南アフリカの町ブラワヨ(Bulawayo - 現在のジンバブエ共和国南西部に所在する都市)にある旅行社に案内役として勤務しているアンソニー・ケイド(Anthony Cade - 愛称:トニー(Tony))は、旧友のジェイムズ・マグラス(James McGrath - 愛称:ジミー(Jimmy))に、偶然、再会する。その際、アンソニー・ケイドは、ジェイムズ・マグラスから、2つの依頼を受けた。


(1)

パリにおいて、暴漢達に襲われている最中、ジェイムズが助けた人物で、最近亡くなったヘルツォスロヴァキア(Herzoslovakia)の元総理であるスティルプティッチ伯爵(Count Stylptitch)の回顧録を、ロンドンのある出版社に届けること


(2)

ヴァージニア・レヴェル(Virginia Revel)という女性に、彼女自身のスキャンダル絡みの手紙を返すこと


ジェイムズに劣らぬ冒険家であったアンソニーは、ジェイムズの申し出には、興味を唆られるだけの謎を秘めていたので、取引に応じることに決めた。スティルプティッチ伯爵の関係者から提示されていた1千ポンドの報酬のうち、250ポンドの分け前をもらう条件で、ジェイムズからの依頼を引き受けたアンソニーは、ロンドンへと向かい、出発した。


数年ぶりに英国の土を踏んだアンソニー・ケイドは、ジェイムズ・マグラスの名前を用いて、ロンドンのブリッツホテル(Blitz Hotel)に宿泊した。すると、アンソニーは、次々に怪しげな客の来訪を受けるのであった。


アンソニー・ケイドの前に姿を見せた最初の人物は、
ヘルツォスロヴァキア王政支持派のロンドン代表であるロロプレッティジル男爵だった。


1人目は、ヘルツォスロヴァキア王政支持派のロンドン代表であるロロプレッティジル男爵(Baron Lolopretizyl)であった。

ロロプレッティジル男爵によると、現在、英国政府による支持の下、ミカエル・オボロヴィッチ王子(Prince Michael Obolovitch)の即位計画が進んでいる、とのこと。従って、政治的に重大なスキャンダルが記されていると思われるスティルプティッチ伯爵の回顧録が出版の上、世間に公表されると、その計画に支障を来たす恐れがあった。そのため、ロロプレッティジル男爵は、アンソニーに対して、1500ポンドで回顧録を譲ってほしいと頼んだが、アンソニーは、「一度引き受けた仕事は、最後まで遂行する義務がある。」と答え、ロロプレッティジル男爵の申し出を断った。


2番目にアンソニー・ケイドの前に姿を見せたのは、
ヘルツォスロヴァキア王政反対派であるレッド・ハンド党の党員だった。


2人目は、ヘルツォスロヴァキア王政反対派であるレッド・ハンド党(The Comrades of the Red Hand)の党員だった。

彼は、ピストルを用い、アンソニーを脅迫して、スティルプティッチ伯爵の回顧録を奪おうとしたが、アンソニーは、彼を撃退する。


最後には、アンソニー・ケイドが宿泊したブリッツホテルの給仕である
ジュセッペ・マヌエリが、彼の部屋へ忍び込んで来た。

3人目で、最後の人物は、(ブリッツ)ホテルの給仕であるジュセッペ・マヌネリ(Giuseppe Manuelli)だ。

深夜、ジュセッペがアンソニーの部屋に忍び込んで来たが、目を覚ましたアンソニーは、ジュセッペと格闘したものの、取り逃がしてしまった。スティルプティッチ伯爵の回顧録は無事だったが、ヴァージニア・レヴェルの手紙は、奪われてしまった。


アンソニー・ケイドの部屋から手紙を盗み出した
ブリッツホテルの給仕であるジュセッペ・マヌエリは、
それを持って、ヴァージニア・レヴェルの元を訪れて、恐喝を行なった。


翌日、ヴァージニア・レヴェルの元を、ジュセッペ・マヌネリが、アンソニーから奪った手紙を持参し、恐喝者として訪れた。ジュセッペから見せられた手紙の内容を見て、自分の身に覚えがないヴァージニア・レヴェルは、恐喝者とのやりとりを楽しみつつ、彼に手持ちの小金(現金)を渡すと、もう一度来るように言い渡すと、一旦帰らせた。


ヴァージニア・レヴェルの従兄弟で、
英国外務省の高官であるジョージ・ロマックスが、彼女の元を訪れ、
スティルプティッチ伯爵の回顧録を保有しているアンソニー・ケイドを、
チムニーズ館においてもてなすよう、依頼する


ジュセッペ・マヌネリと入れ替わるように、ヴァージニア・レヴェルの従兄弟で、英国外務省の高官であるジョージ・ロマックス(George Lomax)が、彼女の元を訪れた。

ヘルツォスロヴァキアにおいて発見されたと噂される油田の利権獲得のために、ミカエル・オボロヴィッチ王子擁立を支持する英国政府としても、スティルプティッチ伯爵の回顧録は、その計画を頓挫させかねないもので、その存在は軽視できなかった。

そこで、ジョージ・ロマックスは、以前、ヘルツォスロヴァキア大使館に勤務していた亡き夫と一緒に、同国に滞在していたことがあるヴァージニア・レヴェルに対して、スティルプティッチ伯爵の回顧録を保有しているジェイムズ・マグラス(実際には、アンソニー・ケイド)を、チムニーズ館(Chimneys)においてもてなすよう、依頼するのであった。


こうして、スティルプティッチ伯爵の回顧録を付け狙う人物達が、チムニーズ館へと集結する。


フランスの作家であるフランソワ・リヴィエール(Francois Riviere:1949年ー)が構成を、そして、スイスの SF 作家兼グラフィックアーティストであるローレンス・スーナー(Laurence Suhner:1968年ー)が作画を担当したアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「チムニーズ館の秘密(The Secret of Chimneys)」(1925年)のグラフィックノベル版は、いろいろな登場人物が入り乱れるにもかかわらず、46ページの分量の中に、うまくまとめられている。


2022年12月3日土曜日

ロバート・ルイス・スティーヴンスン作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」<グラフィックノベル版>(The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde by Robert Louis Stevenson )- その2

ロバート・ルイス・スティーヴンスン作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」の
グラフィックノベル版の扉絵

エディンバラ(Edinburgh)生まれの英国の小説家、詩人で、かつ、エッセイストであるロバート・ルイス・スティーヴンスン(Robert Louis Stevenson:1850年ー1894年)作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件(The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde)」(1886年)をベースに、Andrzej Klimowski (Mr.)と Danusia Schejbal (Ms.) の両名が構成と作画を担当し、英国の Metro Media Ltd. から、Self Made Hero シリーズの一つとして、2009年に出版されたグラフィックノベル版は、以下のようにして始まる。


舞台は、19世紀のロンドンに設定されている。

ある日曜日、弁護士のゲイブリエル・ジョン・アタースン(Gabriel John Utterson)と彼の従兄弟で

あるリチャード・エンフィールド(Richard Enfield)の二人は、習慣の散歩をしていた。彼らが繁華街の裏通りに入ると、リチャード・エンフィールドが不気味な二階建ての建物を指さすと、数ヶ月前に彼自身が遭遇した出来事について、ゲイブリエル・ジョン・アタースンに語り出す。



ある明け方に近い頃(午前3時頃)、リチャード・エンフィールドが自宅に戻ろうと歩いていると、醜悪な顔をしたエドワード・ハイド(Edward Hyde)という男が、ぶつかって転んだ少女を平然と踏みつけたまま、立ち去ろうとする現場に出くわしたのである。驚いたエンフィールドは、立ち去ろうとするハイドを引き止めた。

踏み付けられた少女の家族達がハイドに詰め寄ると、ハイドは「必要な金額を言え。」と答える。エンフィールドが、ハイドに対して、100ポンドを支払うように要求すると、ハイドは問題の建物の中に入り、10ポンドの現金と90ポンドの小切手を持って出て来た。

ハイドが持って来た小切手は、ゲイブリエル・ジョン・アタースン顧客で、友人でもあるヘンリー・ジキル博士(Dr. Henry Jekyll)によって署名されていたのである。



リチャード・エンフィールドの話を聞いたゲイブリエル・ジョン・アタースンは、「ジキル博士の財産を狙ったハイドが、何かを理由にして、ジキル博士を恐喝しているのではないか?」と危惧した。

何故ならば、ジキル博士は、最近、「ヘンリー・ジキルが死亡、もしくは、失踪した場合、友人で、かつ、恩人でもあるエドワード・ハイドが、全ての財産を相続する。」という内容の遺言状を作成の上、保管を依頼していたため、アタースンは困惑していたからである。



2週間後、ジキル博士の屋敷で開催された晩餐会が終わった後、ゲイブリエル・ジョン・アタースンは、1人残り、ハイドのことについて、ジキル博士に問い質した。

すると、ジキル博士は、顔面蒼白となったものの、「遺言状の内容を変更することはできない。その気になれば、いつでもハイドを追い払うことはできる。だから、この話は、もう終わりだ。」と告げるのであった。



ヘンリー・ジキル博士とエドワード・ハイドの二人は、一体、どういった関係なのか?ゲイブリエル・ジョン・アタースンが危惧する通り、ジキル博士は、ハイドに恐喝されているのだろうか?



Andrzej Klimowski (Mr.)と Danusia Schejbal (Ms.) の両名が構成と作画を担当したロバート・ルイス・スティーヴンスン作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」のグラフィックノベル版は、全編(120ページ)、白黒で描かれており、原作の怪奇色を非常にうまく体現している。


2022年12月2日金曜日

キャロル・ブッゲ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / トーア寺院に出没する幽霊」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Haunting of Torre Abbey)- その2

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2018年に出版された
キャロル・ブッゲ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / トーア寺院に出没する幽霊」の裏表紙

霧が深い10月のある晩、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の居間の燃えさかる暖炉の火を前にしたシャーロック・ホームズが、ジョン・H・ワトスンに対して、デヴォン州(Devon)トーキー(Torquay)に所在する元修道院だったトーア寺院(Torre Abbey)に住むチャールズ・ケアリー卿(Lord Charles Cary)から受け取った手紙の内容を説明していた。


彼からの手紙には、以下のようなことが書かれていた。


チャールズ・ケアリー卿は、現在、オックスフォード(Oxford)において、医学を学んでいるのだが、緊急の電報を受け取り、10月7日(金)の夜、急いで実家のトーア寺院へと戻った。

ケアリー家は、既に2世紀にわたり、トーア寺院に住んでいるのだが、先代のケアリー卿であるヴィクター・ケアリー(Victor Cary - チャールズの父親)が最近亡くなった(トーア湾(Torre Bay)へ泳ぎに行った際、海で溺死)ため、ケアリー家には、現在、チャールズ・ケアリー卿しか、男性は居らず、彼がトーア寺院に戻ると、母親のレディー・マリオン・ケアリー(Lady Marion Cary)と妹のエリザベス・ケアリー(Elizabeth Cary)の二人は、今にも気を失いそうな状態だった。


トーア寺院に戻ったチャールズ・ケアリー卿の問い掛けに対して、母親と妹は、驚くべき話をする。

2日前の10月5日(水)の夜、妹のエリザベスが、自分の寝室で眠っていると、玄関ホールでネズミが走り回る音を聞いたように感じた。ベッドから降りた彼女は、火をつけたロウソクを持って、玄関ホールへ出ると、そこに首のない修道士が居たのである。首のない修道士の姿を見た彼女は、直ぐに気を失ってしまい、気がついた時には、その姿はどこにもなかった。

娘から話を聞いた母親のレディー・マリオン・ケアリーは、息子のチャールズ・ケアリー卿宛に、緊急の電報を打ったのであった。


軽い夕食をとったチャールズ・ケアリー卿は、塔の3階(3rd Floor)にある自室へと下がる。そこからは、かつて僧院の裏庭で、現在は、ケアリー家の中庭となっている場所を見下ろせる部屋だった。

ある音を聞いて、チャールズ・ケアリー卿が、窓のカーテンを開けて、中庭を見下ろすと、そこには、首のない修道士が立っていた。チャールズ・ケアリー卿が階段を駆け降りて、中庭まで出てみると、残念ながら、修道士の姿は既に掻き消えていた。


ホームズがワトスンに説明を行っていると、ハドスン夫人が、ちょうど受け取った電報を届けに来た。

それは、今話題となっていたチャールズ・ケアリー卿本人からの電報で、「FEAR WE ARE ALL IN DANGER (STOP) PLEASE COME AT ONCE (STOP) SIGNED BY CHARLES CARY」と書かれており、ホームズに対して、デヴォン州のトーキーへの早急な来訪を請うものだった。

至急の電報を受け取ったホームズは、ワトスンを伴い、パディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)発午後6時45分の最終列車で、トーキーにあるトアベイ駅(Tor Bay Station)へと向かった。トーア寺院は、トアベイ駅から、馬車で直ぐの場所にあった。


老齢の執事グレイスン(Grayson)は、既に就寝中のため、チャールズ・ケアリー卿本人が、ホームズとワトスンの二人を出迎えた。彼によると、「妹のエリザベスが、再度、首のない修道士の姿を見た。」とのことだった。

急いでロンドンを出て来たホームズとワトスンの二人は、まだ食事を済ませていなかったため、チャールズ・ケアリー卿が食事を準備しようとしたが、料理人のサリー・グビンズ(Sally Gubbins)は、自分の台所を汚されることを嫌い、起き出して来て、ホームズとワトスンにスープを供した。


食事を済ませたワトスンは、再度、首のない修道士の姿を見たことで、精神的に不安定になっているエリザベスのために、鎮静剤を取りに、玄関ホールへと戻る。

玄関ホールへ戻る途中、今までに感じたことがない寒気が、ワトスンの体を走るのを感じた。そして、その寒気のために、ワトスンの身体が固まってしまった。玄関ホールには、自分だけではなく、自分以外の何か、それも、悪意のようなものが存在しているようだった。

ワトスンは、勇気を奮い起こして、深呼吸をすると、身体を捉えていた呪縛が突然解けた。手足を動かすことができるようになったワトスンは、玄関ホールに置いてあった自分の鞄から鎮静剤を取り出すと、皆が居る場所へと急いで戻った。


玄関ホールにおいて、ワトスンが感じたドス黒い悪意のような存在は、一体、何だったのだろうか?チャールズ・ケアリー卿の妹エリザベスが二度見た首のない修道士の幽霊が、三たび、姿を現したのか?


2022年12月1日木曜日

アガサ・クリスティー マープル 2023年カレンダー(Agatha Christie - Marple - Calendar 2023)- 「スリーピングマーダー(Sleeping Murder)」

ビル・ブラッグ氏が描く
ミス・マープルシリーズの長編第12作目で、最後の作品である
「スリーピングマーダー」の一場面

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の HarperCollinsPublishers 社から出ているミス・ジェーン・マープル(Miss Jane Marple)シリーズのペーパーバック版の表紙を使った2023年カレンダーのうち、4番目を紹介したい。


(4)「スリーピングマーダー(Sleeping Murder)」


「スリーピングマーダー」は、1976年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第12作目で、かつ、最後の作品である。


新婚のグエンダ・ハリデイー・リード(Gwenda Halliday Reed - 21歳)は、夫のジャイルズ(Giles Reed)より一足先に、ニュージーランドを出発して、英国を訪れると、イングランドの南海岸で新居探しを始めた。

まもなく、ディルマス(Dillmouth)においてヴィクトリア朝風のヒルサイド荘(Hillside)を見つけて、一目で気に入った彼女は、早速、その家を購入すると、業者を呼んで、改装工事を進めた。改装工事の間、彼女は、子供部屋だった場所で寝起きをした。

グエンダにとって、ヒルサイド荘は初めての家の筈にもかかわらず、何故か、家の隅々まで全て知り尽くしているような感じがして、次第に不安の思いに囚われていく。更に、業者が古い戸棚を開けると、そこには、彼女が思っていたような模様の壁紙が現れたのである。


その後、夫ジャイルズの従兄弟で、ロンドンに住むレイモンド・ウェスト(Raymond West)夫妻からの招待に応じて、グエンダはロンドンへと出向く。

彼女は、ウェスト夫妻とレイモンドの伯母であるミス・マープルと一緒に、芝居「モルフィ公爵夫人(The Duchess of Malfi)」の観劇に出かけた際、劇中で「女の顔を覆え。目が眩む。彼女は、若くして亡くなった。(Cover her face; mine eyes dzzle; she died young)」という台詞を聞いた途端、グエンダは、悲鳴を上げると、劇場から逃げ出してしまう。

自分が狂ったのではないかと思い悩むグエンダは、ミス・マープルに対して、これまでに起きたことを全て、正直に打ち明けた。何故ならば、彼女は、芝居「モルフィ公爵夫人」の台詞を聞いた際、ヒルサイド荘において、ある男が、ヘレン(Helen)という名前の金髪の女性の首を締めながら、同じ言葉を漏らしていたことを思い出したのである。


グエンダは、元々、父親が駐在していたインドで生まれたが、母親が亡くなったため、幼い頃から、ニュージーランドに居る母方の伯母に預けられ、育てられた。父親は、母親が無くなった数年後に、他界していた。

グエンダからの話を聞いたミス・マープルは、グエンダが、父親と彼の後妻と一緒に、英国に住んでいたのではないかと示唆して、それが事実であることを突き止める。グエンダの母親の死後、インドから英国へと戻る途中、父親はヘレン・ハリディー(Helen Halliday - 旧姓:ケネディー(Kennedy))と出会い、船上でのロマンスを経て、英国到着後に結婚し、二人は、ヘレンが生まれ育ったディルマスに家(ヒルサイド荘)を借りて住んでいた。グエンダは、18年前のまだ幼い頃、ヒルサイド荘を訪れたことがあったのである。


グエンダは、自分の頭に浮かぶ恐怖のイメージと劇の台詞について、考え込む。果たして、ヘレンを絞殺する男のイメージは、本当の記憶なのだろうか?彼女の夫であるジャイルズが、ニュージーランドから英国に到着したので、グエンダは、彼と一緒に、この謎を更に調べていこうと決心したのであった。



カレンダーには、画面奥から、ヒルサイド荘、グエンダ・ハリディー・リード、そして、テラスの先にある庭に埋められたヘレン・ハリディーの死体が、斜めに結ばれるように描かれている。

HarperCollinsPublishers 社から出版されている「スリーピングマーダー」のペーパーバック版の表紙には、ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)によるイラストが、毒薬が入った瓶の形に切り取られているものが使用されている。