2023年6月14日水曜日

アガサ・クリスティー作「書斎の死体」<英国 TV ドラマ版>(The Body in the Library by Agatha Christie )- その2

ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)が描く
ミス・マープルシリーズの長編第2作目「書斎の死体」の一場面
(筆者が購入した「アガサ・クリスティー マープル 2023年カレンダー」から抜粋)


英国の TV 会社 ITV 社が制作したアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「書斎の死体(The Body in the Library → 2022年11月22日付ブログで紹介済)」(1942年)の TV ドラマ版である「Agatha Christie’s Miss Marple」の第1話(第1シリーズ)「書斎の死体」の場合、アガサ・クリスティーの原作に比べると、物語の展開上、以下の違いが見受けられる。


(1)

<原作>

「奥様、奥様!書斎に死体があります!」

メイドのメアリー(Mary)が発するヒステリックな第一声で、ドリー・バントリー(Mrs. Dolly Bantry)は目を覚ますと、退役軍人である夫のアーサー・バントリー大佐(Colonel Arthur Bantry)を起こす。こうして、邸宅ゴシントンホール(Gossington Hall)における平和で穏やかな秋の朝は、メイドの叫び声で打ち破られるのであった。

バントリー大佐が書斎に駆け付けてみると、暖炉の前の敷物の上に、銀色のスパンコールを散りばめたイヴニングドレス姿の、背の高いプラチナブロンドの若い女性の絞殺死体が横たわっていた。ところが、大佐には、殺されている女性の身元に心当たりがなかった。

このように、アガサ・クリスティーの原作の場合、衝撃的な展開で、物語の幕が上がる。

<TV ドラマ版>

ゴシントンホールの書斎において、メイドのメアリーがプラチナブロンドの若い女性の絞殺死体を発見する前に、


・ロンドン - 7年前のコンウェイ・ジェファーソン(Conway Jefferson)邸で起きたV2ロケットの着弾

・セントメアリーミード村(St. Mary Mead) - テーブルの上に置かれた軍人の写真を見つめるミス・ジェイン・マープル


の2つのシーンが挿入されている。

なお、ミス・マープルのシーンは、非常に意味深な内容であるが、第1話の「書斎の死体」で明かされることはなく、第2話(第1シリーズ)の「牧師館の殺人(Murder at the Vicarage)」において、明らかにされる。


(2)

<原作>

大富豪のコンウェイ・ジェファーソンが、妻(マーガレット(Margaret))、息子(フランク(Frank))と娘(ロザモンド(Rosamund))の3人を亡くした上に、彼自身も両足を失ったのは、飛行機事故によってである。

<TV ドラマ版>

第二次世界大戦に出征していた息子のフランクと義理の息子のマーク・ギャスケル(Mark Gaskell)が一時帰国した1944年の秋、ロンドンの邸宅において、フランクの誕生日パーティーを催していた際、ドイツ軍が放ったV2ロケットが邸宅の近くに着弾したため、邸宅が吹き飛ばされて、大富豪のコンウェイ・ジェファーソンは、妻、息子と娘の3人を亡くした上、彼自身も両足を失ったと言う設定に変更されている。


(3)

<原作>

大富豪のコンウェイ・ジェファーソンが飛行機事故に遭ったのは、バントリー夫妻が住むゴシントンホールの書斎において、プラチナブロンドの若い女性の絞殺死体が発見される事件よりも、8年前である。

<TV ドラマ版>

ロンドンにある大富豪のコンウェイ・ジェファーソンの邸宅の近くに、ドイツ軍が放ったV2ロケットが着弾して、邸宅が吹き飛ばされたのは、バントリー夫妻が住むゴシントンホールの書斎において、プラチナブロンドの若い女性の絞殺死体が発見される事件よりも、7年前である。


(4)

<原作>

自宅ゴシントンホールの書斎において、プラチナブロンドの若い女性の絞殺死体を発見したアーサー・バントリー大佐は、直ぐに警察に連絡を行い、メルチェット大佐(Colonel Melchett)とスラック警部(Inspector Slack)が派遣されてくる。

一方、妻のドリー・バントリーは、人間の本質を鋭く見抜く眼力を持つ旧友のミス・マープルに、助けを求める。

<TV ドラマ版>

TV ドラマ版の場合、登場人物からスラック警部は割愛されているため、プラチナブロンドの若い女性の絞殺死体を発見されたゴシントンホールへと派遣されるのは、メルチェット大佐のみである。


(5)

<原作>

大富豪のコンウェイ・ジェファーソンが宿泊しているマジェスティックホテル(Majestic Hotel)において、ジョゼフィン・ターナー(Josephine Turner - 愛称:ジョージー(Josie))、ルビー・キーン(Ruby Keene)とレイモンド・スター(Raymond Starr)の3人は、プロのダンサー(宿泊客達にダンスを見せる)であるとともに、ダンスホステス(宿泊客達と一緒に、ダンスをする)の役割も持っている。

<TV ドラマ版>

ルビー・キーンとレイモンド・スターの2人は、原作と同様に、プロのダンサーとダンスホステスの役割を果たしているが、ジョゼフィン・ターナーの場合、足首を挫いている関係上、本来のプロのダンサーとダンスホステスの役割に加えて、宿泊客達と一緒にブリッジをするブリッジホステスの役割も果たしている。

実際、ルビー・キーンが謎の失踪を遂げた当夜、ジョゼフィン・ターナーは、コンウェイ・ジェファーソン、アデレード・ジェファーソン(Adelaide Jefferson - コンウェイ・ジェファーソンの義理の娘)とマーク・ギャスケルの3人と一緒に、ホールのテーブルでブリッジをしていた。


(6)

<原作>

大富豪のコンウェイ・ジェファーソンは、サー・ヘンリー・クリザリング(Sir Henry Clithering - 元警視総監)に連絡をとり、事件の捜査を依頼する。ホテルへと出向いて来たサー・ヘンリー・クリザリングは、そこで旧友のミス・マープルに出会い、彼女の推理能力を高く評価している彼は、彼女に本件の捜査に加わるように頼んだ。

<TV ドラマ版>

TV ドラマ版の場合、登場人物からサー・ヘンリー・クリザリングは割愛されているため、原作のようなシーンは存在していない。

従って、ミス・マープルとドリー・バントリーの二人は、マジェスティックホテルに宿泊の上、独自の捜査をどんどん進めていく。


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