2025年6月21日土曜日

ロンドン ヘンリーストリート(Henry Street)

アベニューロード(Avenue Road)沿いに建つ邸宅(その1)


英国の作家であるミシェル・バークビー(Michelle Birkby)作の長編第2作目に該る「ベイカー街の女たちと幽霊少年団(The Women of Baker Street → 2025年5月2日 / 5月24日 / 5月29日 / 6月4日付ブログで紹介済)」(2017年)の場合、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の家主であるハドスン夫人(Mrs. Hudson - マーサ・ハドスン(Martha Hudson))は、腹部の閉塞症のため、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)で緊急手術を受けるところから、物語が始まる。


画面中央のアベニューロードを間にして、
左側がロンドン中心部のシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)に、
右側がロンドン・カムデン区(London Borough of Camden)に属している。


同病院の特別病棟内のベッドの上で目を覚ましたハドスン夫人は、モルヒネと麻酔薬の投与により、目が覚めた後も頭にまだ霞がかかったようになっていた。

その時、ハドスン夫人は、病室のとりわけ暗い一角に、うごめく影のかたまりを見た。ハドスン夫人が目を凝らしていると、影のかたまりは、彼女のベッドの裾を横切り、彼女の斜向かいにあるベッドへと向かった。朦朧とする意識のなか、ハドスン夫人は、その影のかたまりがそのベッドの上に覆いかぶさるのを目撃した後、突如、深い眠りへ引きずり込まれると、意識が遠のく。

翌朝、ハドスン夫人が再度目覚めると、シスターと若い医師が、彼女の斜向かいの空っぽのベッドの側に立って、話し合いをしているのが聞こえた。昨夜、ハドスン夫人が目撃した通り、影のかたまりが覆いかぶさっていたベッドの女性は、今朝、亡くなっているのが見つかったのである。




それから数日後の夜、ハドスン夫人は、消灯後、眠りに落ちたが、午前3時頃、悪夢に襲われて、目が覚めた。目が覚めたものの、何故か、身体が全く動かず、また、助けを呼ぼうにも声も出なかった。

すると、入院初日の晩と全く同じことが起きる。病室の隅の黒いかたまりから、人の形をしたものがすうっと出て来たのだ。そして、エマ・フォーダイス(Emma Fordyce - ミランダ・ローガン(Miranda Logan)の正面に居る患者 / 歳を召していて、あちこち悪いところがあるみたいだが、老いを楽しんでいる様子 / 過去に非凡な面白い体験をしていて、思い出話を他の人に聞かせるのが大好き)が眠るベッドの側に立った。その時、エマ・フォーダイスが目を覚まして、はっと息をのんだ後、悲鳴を上げようとしたが、その人影は、いきなり側にあった枕を掴むと、彼女の顔に押し付けた。エマ・フォーダイスは激しく暴れた、次第に抵抗が弱くなり、最後は、ぐったりとして動かなくなった。

ハドスン夫人は、入院初日に続き、2つ目の殺人現場を目撃したことになる。


アベニューロードは、リージェンツパークの北側、
そして、プリムローズヒル(Primrose Hill)の左側(西側)を
南北に延びる通りである。


一方、ワトスン夫人(Mrs. Watson)となったメアリー・ワトスン(Mary Watson - 旧姓:モースタン(Morstan))は、ベイカーストリート221B の給仕のビリー(Billy)経由、ベイカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)のウィギンズ(Wiggins)から聞いた話が気になっていた。

それは、「幽霊少年団(The Pale Boys)」のことだった。

(1)夜間だけ、街角に姿を見せる。

(2)街灯の明かりには決して近付かない。

(3)往来の激しい大通りには、足を踏み入れない。

(4)全員、青白い顔をして、闇に溶け込みそうな黒づくめの服装をしている。

(5)薄暗い道端や人気の無い路地を彷徨く。

(6)何年経っても、歳をとらないし、飲んだり食べたりもしない。

(7)彼らの姿を見た者は、死んでしまう。

(She told me the tale of the Pale Boys. Boys who came onto the street only at night. They never came into the light. They never went onto the Main Street. They had pale faces, and all black clothes, and they melted into the shadows. They walked in dark corners and deserted alleyways. They never grew old, and never ate or drank and if you saw them, you would die.)


アベニューロード沿いに建つ邸宅(その2)


セントバーソロミュー病院を退院したハドスン夫人と同席するメアリー・ワトスンは、セントバーソロミュー病院の特別病棟内で発生した殺人事件とロンドン市内姿を現す「幽霊少年団」の2つの謎を追うことになった。


ハドスン夫人とメアリー・ワトスンは、まず最初に、ハドスン夫人と同室だったエリナー・ランガムエリナー・ランガム(Eleanor Langham - ベティー・ソランド(Betty Soland)の正面に居る患者 / 心臓病のため、最近手術を受けたばかり / ベッドの脇にある椅子が定位置で、大抵の時間は、ただ椅子に腰掛けて、周りの様子を眺めている)が住むパークロード(Park Road → 2025年6月11日付ブログで紹介済)沿いに建つ家を訪ねた。


英国の Pam Macmillan 社から2017年に出版された
ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」
ペーパーバック版内に付されている
セントバーソロミュー病院の特別病棟の見取り図


一旦、ベイカーストリート221B へと戻って来た2人は、セントバーソロミュー病院で亡くなったサラ・マローン(Sarah Malone - ハドスン夫人の左側に居る患者 / かなり深刻な容体で、死期が迫っている / 始終ぶつぶつと何かを呟いている)の家へ行くために、辻馬車を使って、その日2度目の外出をした。


アベニューロード沿いに建つ邸宅(その3)


Again following Sherlock’s rules, we got off a few streets away from our final destination. As we strolled to Sarah’s house, taking the opportunity to see if we were being followed, or if anyone else had got there first, I looked around. We were on Henry Street, near the north end of the park.

 ‘I thought I knew this area,’ I said to Mary. ‘I used to own several houses here.’

 ‘Boarding houses?’

 ‘ No, these were mostly homes I rented out. That was one of mine. And that one.’ I gestured to a three-storey dove-grey house, set back from the road, surrounded by a garden. It was one of the stylish, huge houses built during the Regency for newly rich families to entertain, but the family that had owned it had long ago lost their money, and the house. I had bought it very cheaply, though I had never really been able to find tenants for such a place. It had been a neat, clean house when I owned it. Now the ’To Let’ board was lying in the ragged garden, covered by brown decaying leaves, and the house was dishearteningly silent.


アベニューロード沿いに建つ邸宅(その4)


馬車を降りる際も、ホームズさんのやり方にならって目的地から二、三本離れた通りを選んだ。そこからサラ・マローンの家まで歩く途中、あたりの様子をうかがって、尾行している者はいないか、ここへ先回りした者はいないか、注意深く確認した。わたしたちはリージェンツ・パークの北のはずれに近いヘンリー街に来ていた。

「このあたりには詳しいのよ」わたしはメアリーに言った。「昔、何軒か家を持っていたから」

「そこも下宿屋だったの?」

「いいえ、貸家にしていたわ。あれがそのうちの一軒。それから、あれも」わたしは三階建ての紫がかった灰色の家を指した。通りから引っこんだ、まわりを庭に囲まれた場所にある。ジョージアン時代後半のデザイン様式、リージェンシー・スタイルで造られた、客をもてなす新興階級向けの瀟洒な邸宅だ。界隈には同じような大きな家が建ち並んでいる。だが、なかには財産を失って家を手放す所有者もいた。わたしはその家をずいぶん前にかなりの安値で買い取ったのだが、適当な借主はなかなか見つからなかった。購入時は立派でぴかぴかだった家も、現在は枯葉が降り積もった荒れ放題の庭に”貸家”の札がしょんぼりとうずくまっているありさま。建物全体が寂しげに沈黙している。

(駒月 雅子訳)


アベニューロード沿いに建つ邸宅(その5)


ハドスン夫人とメアリー・ワトスンの2人は、サラ・マローンの家へ行くために、シャーロック・ホームズの流儀に習って、リージェンツパーク(Rengent’s Park → 2016年11月19日付ブログで紹介済)の北の外れに近いヘンリーストリート(Henry Street)辺りを歩いているが、現在の住所表記上、ロンドン市内に、ヘンリーストリートは存在していないので、おそらく、架空の住所だと思われる。

なお、別の場所ではあるものの、ロンドン市内に、ヘンリーロード(Henry Road)と言う通りは存在している。


ちなみに、画像上、リージェンツパークの北側から北へ延びるアヴェニューロード(Avenue Road)沿いに建つ邸宅の写真を便宜的に使用している。


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