2025年4月30日水曜日

ジョン・ディクスン・カー作「死時計」(Death-Watch by John Dickson Carr)- その1

日本の出版社である東京創元社から創元推理文庫として出版された
ジョン・ディクスン・カー作「死時計」の表紙
カバーイラスト:山田 雅史


今回は、ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)作「死時計(Death-Watch)」について、紹介したい。


「死時計」は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カーが1935年に発表した推理小説で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が登場するシリーズ第5作目に該る。


日本の出版社である東京創元社から創元推理文庫として出版された
ジョン・ディクスン・カー作「盲目の理髪師」(新訳版)の表紙
  カバーフォーマット:本山 木犀
カバーデザイン:折原 若緒
カバーイラスト:榊原 一樹


なお、「死時計」の前作で、ギディオン・フェル博士シリーズの第4作目に該るのは、「盲目の理髪師(The Blind Barber → 2018年11月17日 / 11月24日付ブログで紹介済)」(1934年)。また、「死時計」の次作で、ギディオン・フェル博士シリーズの第6作目に該るのは、「三つの棺(The Three Coffins 英題: The Hollow Man → 2020年5月3日 / 5月23日 / 6月13日 / 6月20日付ブログで紹介済)」(1935年)。「三つの棺」は、ジョン・ディクスン・カーによる数ある密室ミステリーの中でも、最高峰と評されている不朽の名作である。


日本の出版社である早川書房からハヤカワミステリ文庫として出版された
ジョン・ディクスン・カー作「三つの棺」の表紙
カバーデザイン: 山田雅史

原作を既に読んだ人にはお判りになるかと思うが、
推理小説として、この表紙の内容は、非常に掟破りの内容を言える。


歴史学者であるメルスン教授(Professor Melson)は、ロンドンに出て来て、友人であるギディオン・フェル博士と会い、2人でホルボーン通り(Holborn)を歩いていた。それは、9月4日、風が吹くひんやりした夜の12時近くだった。

ギディオン・フェル博士とメルスン教授の2人は、劇場で映画を観た帰りで、メルスン教授が宿泊する予定のリンカーンズ・イン・フィールズ(Lincoln’s Inn Fileds → 2016年7月3日付ブログで紹介済)へと向かっていた。メルスン教授は、当初、ブルームズベリー地区(Bloomsbury)に宿泊しようとしたが、生憎と、どこも満員だったため、居心地が悪そうではあったものの、リンカーンズ・イン・フィールズ15番地(15 Lincoln’s Inn Fields)に寝室兼居間を見つけていた。

その日の午後、メルスン教授は、フォイルズ書店(Foyles)において、中世ラテン語の写本辞書を見つけており、これは正真正銘の掘り出し物のため、ギディオン・フェル博士は、メルスン教授の宿でそれを見せてもらおうと考えていたのである。


隣りを歩くギディオン・フェル博士の様子を見たメルスン教授は、彼に対して、「何か新しい犯罪事件が起こったのですか?」と尋ねた。すると、ギディオン・フェル博士は、ハッキリとはしない口振りながらも、スコットランドヤードのディヴィッド・ハドリー主任警部(Chief Inspector David Hadley)から聞いた話を語り始める。

それは、1週間程前に、ガムリッジデパートの貴金属宝石売場において発生した事件で、売場監督が突然何者かの片腕を掴むと、辺りには混乱、乱闘、そして、喚き声が満ちた。そして、売場監督がバッタリと倒れて、彼の身体の下に血が流れ始めた。彼の身体をひっくり返してみると、刃物で腹部を大きく切り裂かれているのが判った。残念ながら、売場監督は既に死亡していた。

周囲の証言から、売場監督は万引き犯を捕まえようとして、それを逃れようとする万引き犯に殺害されたものと思われた。厄介なことに、万引き犯が女性だったと言うこと以外には、手掛かりもない上に、彼女の人相も全く判らなかった。


「何か貴重なものでも盗られたんですか?」と尋ねるメルスン教授に対して、ギディオン・フェル博士は、「懐中時計が1個だ。」と告げる。ギディオン・フェル博士の声は、妙な響きを帯びていた。更に、メルスン教授が尋ねると、ギディオン・フェル博士の答えは、彼を驚かせるものだった。

売場監督を殺害した上に、万引き犯の女性がガムリッジデパートの貴金属宝石売場から盗んだ懐中時計は、有名な時計師(clockmaker)であるジョハナス・カーヴァー(Johannus Carver)が所蔵していたもので、彼はリンカーンズ・イン・フィールズ16番地(16 Lincoln’s Inn Fields)に住んでいる、とのこと。なんと、リンカーンズ・イン・フィールズ16番地は、メルスン教授の宿であるリンカーンズ・イン・フィールズ15番地の隣りの建物なのだ。


これは、偶然の一致なのだろうか?


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