2024年5月24日金曜日

ニコラス・サーコム作「ボヘミアの混乱」(A Balls-up in Bohemia)- その2

患者への往診の帰途、
ジョン・H・ワトスンは、あることを相談するために、
ベーカーストリート221Bの
シャーロック・ホームズの元を訪れたが、
ハドスン夫人の姉で、男性、特に、ワトスンのことを毛嫌いしている
ターナー夫人は、彼を建物内に入れようとはしなかった。
画面手前から、ワトスン、ターナー夫人、そして、ホームズ。
(Illustration by Emily Snape)


作家で、映画 / テレビのプロデューサーでもあるニコラス・サーコム(Nicholas Sercombe)による「シャーロック・ホームズの不適切な箇所が削除されていない冒険(The Unexpurgated Adventures of Sherlock Holmes)」の第1作目に該る「ボヘミアの混乱(A Balls-up in Bohemia)」(2019年)の場合、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)による原作「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」対比、基本的に、事件の展開は、同じである。


ただし、ニコラス・サーコム作「ボヘミアの混乱」とコナン・ドイル作「ボヘミアの醜聞」の間には、以下の差異がある。


(1)

<原作>

事件発生時の1888年3月20日、既に結婚していたジョン・H・ワトスンは、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)を出て、シャーロック・ホームズとは別に暮らしていた。ただし、ワトスンの妻が誰で、どこに住んでいるのかについては、全く言及されていない。

<本作品>

ワトスンは、「四つの署名(The Sign of the Four)」事件で知り合ったメアリー・モースタン(Mary Morstan)と結婚して、サウスケンジントン地区(South Kensington)のクリーンズバリープレイス(Queensbury Place)に住んでいると、具体的に記されている。


(2)

<原作>

患者への往診の帰り道、ベーカーストリート221Bの前を通りかかったワトスンは、懐かしさを感じて、ホームズの元を訪れている。

<本作品>

原作と同じではあるが、実は、ワトスンには、どうしてもホームズに相談したい件があり、彼の元を訪れたのである。


(3)

<原作>

ベーカーストリート221Bの大家は、ハドスン夫人(Mrs. Hudson)であるが、ホームズとワトスンに簡単な食事を用意したのは、ハドスン夫人ではなく、ターナー夫人(Mrs. Turner)だった。ただし、ハドスン夫人とターナー夫人の関係性については、全く言及されていない。

<本作品>

ターナー夫人は、ハドスン夫人の姉で、ハドスン夫人の不在地中、ターナー夫人がベーカーストリート221Bの管理をしている。

ターナー夫人は、男性全般、特に、ワトスンを毛嫌いしており、ホームズの元を訪れたワトスンを、当初、ベーカーストリート221B内に入れようとしなかった。


ターナー夫人の態度に腹を立てたワトスンは、彼女のことを、「フランケンシュタインの花嫁(the bride of Frankenstein)」ではなく、「フランケンシュタインの母親(the mother of Frankenstein)」だと、文句を言っている。

英国の小説家メアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィン・シェリー(Mary Wollstonecraft Godwin Shelley:1797年ー1851年)が小説「フランケンシュタイン、或いは、現代のプロメテウス(Frankenstein; or, the Modern Prometheus.)」を出版したのは、1818年3月なので、事件発生時の1888年3月20日、ワトスンがフランケンシュタインのことを知っていても、全く問題ない。

ターナー夫人のことについて、ワトスンが「フランケンシュタインの花嫁」と言及しているが、これは、著者であるニコラス・サーコム(Nicholas Sercombe)が、米国のユニヴァーサル映画が制作した SF ホラー映画「フランケンシュタインの花嫁(Bride of Frankenstein)」を念頭に置いているからだと思われる。ただ、この映画は、1935年に公開されているため、ワトスンが「フランケンシュタインの花嫁」と言う表現を使うのは、やや違和感がある。


ジョン・H・ワトスンは、
シャーロック・ホームズに対して、
メアリー・モースタンが男性だったことを告白する。

画面左側の人物がワトスンで、画面右側の人物がホームズ。
(Illustration by Emily Snape

(4)

<本作品>

ホームズのフルネームが、「シャーロック・ヌーゲント・ジュリウス・ホームズ(Sherlock Nugent Julius Holmes)」であることが明かされる。

<原作>

ホームズのフルネームについては、明かされていない。


(5)

<本作品>

結婚したメアリー・モースタンが、実は、男性であることが判ったワトスンは、ホームズに対して、如何にすれば、彼女と離婚できるのかを相談するために、彼の元を訪れたのである。

ワトスンは、メアリー・モースタンに離婚を申し出たものの、慰謝料として、5000ポンドを要求された。ところが、ワトスンが手持ちの全財産を掻き集めても、45ポンドにしかならなかった。

<原作>

当然のことながら、上記のようなことはない。


画面手前の左側の人物がアイリーン・アドラーで、
画面手前の右側の人物が牧師に変装したシャーロック・ホームズ。
画面奥の中央にに居る人物がジョン・H・ワトスンで、
ホームズの合図に従って、発煙筒を放り投げている。
(Illustration by Emily Snape


(6)

<原作>

牧師の変装をし、喧嘩に巻き込まれて、負傷したことを装ったホームズが、アイリーン・アドラー(Irene Adler)が住むセントジョンズウッド地区(St. John’s Wood)内のブライオニーロッジ(Briony Lodge)に入り込んだ後、ワトスンは、ホームズからの合図を受けて、窓から発煙筒を投げ込む手筈だった。

<本作品>

牧師の変装をしたホームズが、喧嘩に巻き込まれて、本当に負傷したと早合点したワトスンが、「自分は医師だ!」と申し出て、手当のために、ホームズとアイリーン・アドラー達と一緒に、ブリオニーロッジの中に入ってしまう。

そこで、ワトスンは、已む無く、室内で発煙筒を取り出して、室内に煙を充満させることになった。


翌朝、ボヘミア王を伴って、
シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンは、
アイリーン・アドラーが住むブライオニーロッジへと駆け付けたが、
彼女は、夫のゴドフリー・ノートン(Godfrey Norton)と一緒に、
欧州大陸へと旅立った後であった。
画面手前から、ワトスン、ボヘミア王、そして、ホームズ。
(Illustration by Emily Snape

(7)

<原作>

なんとか事件が無事に解決した後、ホームズは、ボヘミア王(King of Bohemia)から、報酬として、アイリーン・アドラーの写真を得る。

<本作品>

なんとか事件が無事に解決した後、ホームズは、ボヘミア王から、報酬として得るのは、アイリーン・アドラーの写真ではなく、ボヘミア王が持っている別の写真である。どういった写真なのかについては、不適切な内容のため、ここでは割愛する。

ホームズが立ち去った後、ワトスンは、ボヘミア王とうまく交渉して、ボヘミア王の高価な指輪と5000ポンドをちゃっかりと手に入れた。

こうして、ワトスンは、メアリー・モースタンと無事離婚でき、ホームズとの共同生活へと戻ることができたのである。ただし、ホームズは、このことを知らない。


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