2021年6月5日土曜日

コナン・ドイル作「ソア橋の謎」<小説版>(The Problem of Thor Bridge by Conan Doyle ) - その1

日本の出版社である角川書店が発行する「ヤングエース」においてコミカライズされた
「シャーロック」のシーズン1第1話に該る「ピンク色の研究」の冒頭 -
18歳の青年であるジェイムズ・フィルモアが、友人に対して、
「雨傘を取りに戻る。」と告げたまま、その行方が判らなくなり、
その後、彼の服毒死体が発見される場面


「シャーロック(Sherlock)」は、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)原作のシャーロック・ホームズシリーズを翻案して、舞台をヴィクトリア朝時代のロンドンから21世紀のロンドンに置き換え、自称「コンサルタント探偵」のシャーロック・ホームズが、同居人かつ相棒であるジョン・ヘイミッシュ・ワトスンと一緒に、スマートフォンやインターネット等の最新機器を駆使して、事件を解決する様を描くTVドラマで、英国 BBC が制作の上、2010年7月から BBC1 で放映されている。


「シャーロック」のシーズン1第1話に該る「ピンク色の研究(A Study in Pink)」は、以下のように始まる。


アフガニスタン紛争(2001年10月ー)に軍医として従軍していたジョン・ヘイミッシュ・ワトスン(John Hemish Watson)は、肩を負傷して、英国へと帰国した。その後、彼は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされ、その影響で、歩く際には、杖を手放せないようになっていた。


その頃、ロンドンにおいて、謎の連続自殺事件が発生していた。バックグラウンドが全く異なる3人の人物が、服毒自殺を行ったのである。

・10月12日 - サー・ジェフリー・パターソン(Sir Jeffrey Patterson):会社経営者

・11月26日 - ジェイムズ・フィリモア(James Phillimore):18歳の青年

・1月27日 - ベス・ダヴェンポート(Beth Davenport):内閣の下級大臣(Junior Minister)


連続自殺事件の第2の被害者であるジェイムズ・フィリモアは、友人に対して、「雨傘を取りに戻る。」と告げたきり、その行方が判らなくなってしまった。その後、彼の服毒死体が見つかったのである。


連続自殺事件の第2の被害者は、コナン・ドイル作「ソア橋の謎(The Problem of Thor Bridge)」の冒頭で語られた未解決事件における被害者の名前と同じである上に、失踪した経緯についても、コナン・ドイルの原作と一緒である。



コナン・ドイルの原作である「ソア橋の謎」は、次のように始まる。


チャリングクロス(→ 2016年5月25日付ブログで紹介済)にあるコックス銀行(クレイグス(Craig's Court) → 2014年12月28日付ブログで紹介済)の貴重品保管庫のどこかに、旅行に伴う傷みがひどいブリキの文書箱が預けられている。文書箱の蓋には、「元インド軍所属、医学博士ジョン・H・ワトスン」という私の名前が書かれている。文書箱には大量の書類が詰まっていて、それらのほとんどは、シャーロック・ホームズが様々な折りに手がけた奇妙な事件に関する数々の記録である。それらの事件のいくつかは、少なからず興味深いものだが、完全な失敗で終わっている。最終的な解決の部分が欠けている訳で、そのままの形で語っても仕方がない。解答がない問題は、研究者にとっては面白いのかもしれないが、気楽に読書をしようとする人を怒らせることになるのは間違いない。これらの未解決の話の中には、ジェイムズ・フィリモア氏の事件が含まれている。彼は、雨傘を取りに自宅へ戻ったのだが、そのまま姿を消してしまい、それ以降、彼の行方は不明のままである。


Somewhere in the vaults of the bank of Cox and Co., at Charing Cross, there is a travel-worn and battered tin despatch-box with my name, John H. Watson, MD, Late Indian Army, painted upon the lid. It is crammed with papers nearly all of which are records of cases to illustrate the curious problems which Mr. Sherlock Holmes had at various times to examine. Some, and not the least interesting, were complete failures, and as such will hardly bear narrating, since no final explanation is forthcoming. A problem without a solution may interest the student, but can hardly fail to annoy the casual reader. Among these unfinished tales is that of Mr James Phillimore, who, stepping back into his own house to get his umbrella, was never more seen in this world.



上記の通り、「シャーロック」の「ピンク色の研究」では、コナン・ドイルの原作において言及された「語られざる事件」に関しても、ストーリー内にうまく取り込んでいるのである。


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