2021年6月19日土曜日

<第700回> キャロル・カーナック作「妨害されたスキー旅行」(Crossed Skis by Carol Carnac) - その2

大英図書館(British Library)から
British Library Crime Classics シリーズの一つとして
2020年に出版された
キャロル・カーナック作「妨害されたスキー旅行」(1952年)の裏表紙


ブリジット・マナーズ(Bridget Manners)他、スキー旅行一行が、ドーヴァー(Dover)において、フランスへと向かう船を待っている頃、ハイゲート地区(Highgate)に住む妹夫婦を訪ねて、週末を過ごしたメーベル・ステイン夫人(Mrs. Mabel Stein)は、バスでロンドン市内へと戻って来て、ブルームズベリー地区(Bloomsbury)のサザンプトンロウ(Southampton Row)で下車した。ステイン夫人は、近くのレッドライオンスクエア(Red Lion Square)に家があり、小学校の教師2人を含む4人に部屋を間貸ししていた。小学校の教師2人(Mr. Bell / Mr. Rawlinson)は実家に帰省済で、他の2人(Mr. Stephen - 会社員 / Mr. Gray - 新聞記者)も、新年パーティーのため、出払っている筈だった。

自宅へと戻る途中、息子のシド(Syd)と会ったステイン夫人が見たのは、炎に包まれている自宅だった。ステイン夫人の自宅は、この辺りでは、第二次世界大戦(1939年ー1945年)時のロンドン大空襲(1940年)で破壊されなかった唯一の建物だったが、自宅から出火した火災により、消防士達による必死の消火活動も虚しく、甚大な被害を蒙ったのである。


突然の出火により燃えたステイン夫人の自宅であったが、当初、全員が出払っていたため、人的な被害はないと思われたものの、消防士達が家内を捜索した結果、2階の部屋において、男性が1人死亡しているのが見つかった。

ステイン夫人によると、2階の部屋を間借りしていたのは、新聞記者で、20代半ば位のグレイ氏で、彼女が知る限りでは、アイルランド出身とのことだったが、それ以上詳しい内容は判らなかった。

部屋の内にアルコールの瓶の欠片が見つかったため、被害者はかなり泥酔していたものと推測されたが、失火原因となったコイン式のガスストーブに顔を押し付けたまま焼死したため、身元の確認が非常に困難なことに加えて、死因に不審な点があった。


火災現場の検証に立ち会ったスコットランドヤード E Division のブルック警部(Inspector Brook)が現場周辺を調べてみると、建物の玄関脇の地面に、スキーのストックの跡が見つかった。グレイ氏の部屋には、スキー用具がなかったことから、火災発生前に何者かがグレイ氏の部屋を訪れており、建物の玄関脇にスキー用具を置いていたのではないかと推測された。グレイ氏と思われる焼死に、更に不審な点が出てきた。


ブルック警部からの報告を受けて、帰省中の小学校教師の一人であるベル氏の家を訪ねたスコットランドヤード犯罪捜査課(CID)のジュリアン・リヴァース主席警部(Chief Inspector Julian Rivers)は、彼から「偶然、映画館でグレイ氏を見かけた際、友人らしき人とドイツ語で流暢に話をした上、スキーの話題で盛り上がっていたが、後でグレイ氏に対してスキーの話題をそれとなく出してみると、本人は「スキーをしたことは、全然ない。」と答えたため、信用できない人物だと思っていた。」という証言を得たのである。


グレイ氏を焼死にみせかけて殺害した犯人は、あるいは、第三者を自分にみせかけて殺害したグレイ氏は、スキー用具を携えて、どこへ姿を消したのだろうか?

火災現場のレッドライオンスクエア近辺からスキー用具を携えた男性を乗せたタクシーが見つかり、その男性は、まずウォータールー駅(Waterloo Station → 2014年10月19日付ブログで紹介済)へと向かい、そこから別のタクシーで更にヴィクトリア駅(Victoria Station → 2015年6月13日付ブログで紹介済)へと移動したことが判明した。

スコットランドヤードがヴィクトリア駅の窓口に問い合わせた結果、当日、全員で15名のスキー旅行客一行がオーストリアへと出発したことが判った。犯人は、このスキー旅行客一行の中に紛れて、ヨーロッパ大陸へと逃亡しようとしているのではないかと思われた。果たして、それは、一体、誰なのか?

リヴァース主席警部は、部下のランシング警部(Inspector Lancing)を伴って、オーストリアへと急行するのであった。


英国における探偵小説の黄金期にほぼ該る1930年代初頭から1950年代末期にかけて活躍した英国の女流推理作家であるエディス・キャロライン・リヴェット・ロラック(Edith Caroline Rivett Lorac:1894年ー1958年)が1952年に「キャロル・カーナック(Carol Carnac)」名義で発表した「妨害されたスキー旅行(Crossed Skis)」の物語は、基本的に、(1)英国から、フランス / スイス経由で、オーストリアへと向かうブリジット・マナーズ他、全員で16名のスキー旅行客と(2)英国側で捜査を行うスコットランドヤードの話が交互に進んで行くが、如何せん、登場人物の数があまりにも多過ぎる。

まず、スコットランドヤード側については、リヴァース主席警部、ランシング警部とブルック警部の3人が登場しているが、物語の展開的には、主人公であるリヴァース主席警部ともう1人の2人に整理した方が良かったと思う。

そして、スキー旅行客側に関しては、顔見せだけで終わっているような登場人物が数名居て、物語の進行としては、人数をかなり減らした方がスッキリとした筈である。

実際のところ、犯人の候補は、最初の段階で半分になった後、ブリジット達が知っている人物を消去法で除くと、自動的に2人程に絞り込まれてしまう。

犯人を特定する証拠については、作者のエディス・キャロライン・リヴェット・ロラックが文章中にかなりうまく、かつ、さりげなく書いている努力は認めるものの、物語のかなり早い段階で、犯人の候補が絞り込まれてしまうので、スキー旅行客側の話を読んでいても、何か起きるのではないかというようなサスペンスもなく、非常に残念である。


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