2021年6月3日木曜日

コナン・ドイル作「最後の挨拶」<小説版>(His Last Bow by Conan Doyle )」

「ストランドマガジン(Strand Magazine)」の
1917年9月号に掲載された
コナン・ドイル作「最後の挨拶」の挿絵(その2) -
画面手前右は、アイルランド系米国人のスパイである
アルタモントに変装していたシャーロック・ホームズで、
画面手前左は、アルタモントの運転手に変装していたジョン・ワトスン。
そして、画面奥は、ホームズに縛り上げられた
ドイツ人のスパイであるフォン・ボルク。


米国の SF 作家 / ファンタジー作家のフィリップ・ホセ・ファーマー(Philip Jose Farmer:1918年ー2009年)作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 無双の貴族(The further adventures of Sherlock Holmes / The Peerless Peer)」に登場するドイツ人スパイであるフォン・ボルク(Von Bork)は、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)によるシャーロック・ホームズシリーズの「最後の挨拶(His Last Bow)」に初登場している。


「最後の挨拶」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、44番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1917年9月号に、また、米国では、「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1917年9月22日号に掲載された。

また、同作品は、同年(1917年)に発行されたホームズシリーズの第4短編集「シャーロック・ホームズ 最後の挨拶(His Last Bow)」に収録された。その際、タイトルに、「シャーロック・ホームズの軍務(The War Service of Sherlock Holmes)」、そして、「シャーロック・ホームズのエピローグ(An Epilogue of Sherlock Holmes)」という副題が付け加えられている。


時は、第一次世界大戦開戦直前の1914年8月2日午後9時。

英国エセックス州(Essex)のハリッジ(Harwich - 北海(North Sea)に面した港町)にある屋敷において、ドイツ人スパイであるフォン・ボルクは、ドイツ大使館の書記局長であるフォン・ヘルリンク伯爵(Baron Von Herling)と面談していた。フォン・ボルクは、スポーツマンのため、英国人受けもよく、それを利用して、英国の情報、特に軍事情報を収集し、ドイツ本国へと送るスパイ網の中心人物を務めていた。そして、フォン・ボルクは、英国におけるスパイ活動の実績を取りまとめて、翌日、英国を引き払い、ベルリンへと引き上げる予定だった。


フォン・ボルクとの打ち合わせを終えて、フォン・ヘルリンク伯爵が屋敷を去った後、運転手付きの自動車で、アルタモント(Altamont)が、フォン・ボルクの元を訪れた。アルタモントは、アイルランド系米国人のスパイで、英国を毛嫌いしており、フォン・ボルクのスパイ活動に協力していた。アルタモントは、非常に優秀で、フォン・ボルクは、彼の能力を高く評価していた。

アルタモントは、約束通り、英国海軍の暗号簿(signal book)を入手して、それが入った包みを持参したのである。


屋敷に到着したアルタモントは、フォン・ボルクに対して、自分のスパイ仲間が次々と英国側に逮捕されていることを伝えるとともに、自分の身にも逮捕の危険が迫っていることを訴えた。話を聞いたフォン・ボルクは、アルタモントに対して、オランダのロッテルダム経由、米国のニューヨークへと逃げることを勧めた。

そして、フォン・ボルクは、アルタモントから暗号簿が入った包みを受け取ると、それを開けてみた。ところが、堤の中に入っていたのは、暗号簿ではなく、「蜜蜂の飼育法(Practical Handbook of Bee Culture)」という本であった。

訳が分からず、驚くフォン・ボルクであったが、アルタモントは、すかさずクロロホルムを嗅がせて、フォン・ボルクを眠らせると、彼を縛り上げた。なんと、アルタモントの正体は、諮問探偵業から引退していたシャーロック・ホームズで、車の運転手は、ジョン・ワトスンであった。

「ストランドマガジン(Strand Magazine)」の
1917年9月号に掲載された
コナン・ドイル作「最後の挨拶」の挿絵(その3) -
画面右側から、シャーロック・ホームズ、
フォン・ボルク、そして、ジョン・ワトスンが描かれている。


本作品は、発表順としては、最後ではないものの、ホームズシリーズの時系列としては、最後に該っているため、事実上、ホームズとワトスンが活躍する最後の事件と言える。


また、本作品は、発表順としては、ホームズシリーズの中で、初めて三人称で記述されている。他に、三人称で書かれている作品は、「マザリンの宝石(The Mazarin Stone)」(発表時期:1921年10月 / 事件発生時期:1903年夏)だけである。


ちなみに、作者のコナン・ドイルは、「最後の事件(The Final Problem)」(発表時期:1893年12月 / 事件発生時期:1891年4月 - 5月)を発表した後、ホームズシリーズを(一旦)終了させているが、本作品の発表後に、再度、ホームズシリーズの終了を宣言している。実際には、皆さん御存知の通り、本先品後も、第5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿(The Casebook of Sherlock Holmes)」(1927年)に収録される12短編が発表されることになる。


0 件のコメント:

コメントを投稿