2025年12月12日金曜日

そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その23

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。


ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、
兵隊島に建つ邸宅内のキッチンにおいて、
お湯を沸かすために、薬缶に水を入れようとしている。
<筆者撮影>

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、
赤地に白い斑点があるスカーフを頭に巻き、サングラスをかけて、水着姿で砂浜に座っている。
<筆者撮影>


今回は、ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne / 体育教師(games mistress)→ 2025年10月21日付ブログで紹介済)に関連した3個の手掛かりが、その対象となる。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)


(32)海草(A ribbon of seaweed)


兵隊島に建つ邸宅の2階にある
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンの部屋の天井から、海草がぶら下がっている。
<筆者撮影>


他の招待客達が朝食の後片付けをしている最中、食堂に一人残っていたエミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent / 信仰心の厚い老婦人 → 2025年10月29日付ブログで紹介済)が、青酸カリが入った皮下注射器を首筋に刺されて、5番目の犠牲者となった日の夜、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、男性の招待客4人を応接間に残して、自分の部屋へ戻る。自分の部屋に入った時、じっとり湿った冷たい手が喉に触れた感じを覚えた彼女は、叫び声を上げた。応接間から男性の招待客4人が駆け付けたところ、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが溺死者の手だと思ったのは、天井からぶら下がっている海草だった。


六時二十分になった。ヴェラはそこに座っていることに、もう耐えられなかった。部屋にもどって、ずきずきする頭とこめかみを冷たい水でひやそう。

立ちあがって、ドアに向かって歩きだした。,

思いだしてもどり、箱からローソクを一本取る。ローソクに火をつけて、蠟を小皿にたらす。それにローソクをしっかり立てる。そして部屋を出て、男性四人を室内に残してドアを閉めた。ヴェラは階段をのぼり、自分の部屋に向かって廊下を歩いた。

ドアを開けたとたん、ヴェラは足をとめ、じっと立った。

小鼻がヒクヒクふるえた。

海 … セント・トリデニックの海のにおい。

そう、あのにおいだわ。間違えるはずがない。そりゃあ、ここは島なんだから、海のにおいはもちろんする。でも、このにおいは違う。これは、あの日、あの海岸でかいだにおい - 潮が引いて、岩に張りついた海草が、日に焼かれて乾いていた。


<中略>


そう、そうよ - 確かだわ - ヒューゴーは、すぐそばにいるのかしら。いえ、そうじゃない。部屋の中で待っている … 。

ヴェラは一歩入った。窓から流れこんだすきま風が、ローソクの炎をとらえた。炎が揺れて、消えた … 。

真っ暗になり、とたんにヴェラはこわくなった … 。

”ばかな”と、ヴェラ・クレイソーンは自分をしかった。”大丈夫にきまっているでしょ。ほかの人たちは一階にいる。四人全員が一緒にいる。この部屋には誰もいないのよ。いるはずがない。自分で勝手に想像しているだけよ”

しかし、あのにおい - セント・トリデニックの海岸のにおい … あれは、想像じゃない。本物だ。

それに、部屋の中に誰かいる … 音がした - たしかに音がした … 。

耳をすまして、そこに立っていると - じっとり湿った冷たい手が、ヴェラの喉に触れた - 海のにおいのする、濡れた手が … 。


ヴェラは悲鳴を上げた。悲鳴を上げ続けた - あまりの恐ろしさに、助けを求めて、必死で叫び続けた。

イスが倒れ、ドアが開いた。男たちが階段を駆けのぼってくる。だがヴェラの耳には、下の音は聞こえなかった。ヴェラの頭にはすさまじい恐怖しかない。

そのときドアのむこうの廊下で明かりがまたたいて、ヴェラは正気を取りもどした - ローソクだ - 男たちが部屋に駆けこんできた。

「いったい、どうした」「なにがありましたか」「なんだ、どうした」

ヴェラは身体をふるわせて、一歩前に出た。そして床に倒れた。

ヴェラはなにをされているのか、ぼんやりとしかわからなかった。誰かがかがみこんで、ヴェラの頭を膝の間に押しつけている。脳貧血を起こしたヴェラの頭に、血をもどそうとしているのだ。

そして突然、「おい、あれを見ろ!」と、叫ぶ声がした。ヴェラの意識がはっきりした。目を開けて、頭を持ちあげた。ローソクを持つ男たちが見ているものが、目に入った。

天井から幅の広い海草がヒラヒラとぶらさがっている。ヴェラがじっとり冷たい手を思ったのは - 自分を絞め殺そうとしてよみがえった溺死者の手と思ったのは、海草だった!

(青木 久惠訳)


(39)ロープ(A coil of rope)


兵隊島に建つ邸宅の2階にある
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンの部屋のクローゼット(右側)の上に、ロープの束が置かれている。
<筆者撮影>


海岸において、エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong / ロンドン・ハーリーストリート(Harley Street → 2015年4月11日付ブログで紹介済)の開業医  → 2025年10月31日付ブログで紹介済)の溺死体を発見したヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、フィリップ・ロンバード(Philip Lombard / 元陸軍中尉(Lieutenant))から拳銃を奪い取ると、彼が飛び掛かった際、反射的に引き金を引いて、彼の心臓を打ち抜いてしまう。

生き残った彼女は、邸宅に戻ると、自分の部屋へ行き、天井のフックからぶら下がっているロープの輪で、自ら首を括って、自殺を遂げるのであった。


なお、ロープについては、物語の中盤、フィリップ・ロンバード、エドワード・ジョージ・アームストロングとウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore /元警部(Detective Inspector)→ 2025年11月2日付ブログで紹介済)の3人が、兵隊島(Soldier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)に潜んでいる自分達以外の第三者を見つけ出すために、島内を捜索する際にも、使用している。


兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>


ヒューゴーが二階でわたしを待っている …。

”小さな兵隊さんがあとに残されたら”最後の行はなんだったかしらね。結婚がどうとかだった - 違ったかな。

部屋の前まで来ていた。中でヒューゴーが待っている … 絶対にそうだ。

ヴェラはドアを開けた … 。

思わず、息をのんだ … 。

あれは、なに - 天井のフックからぶらさがっているのは - ロープ - しかも、先にちゃんと輪に届くように、イスが置いてある - あのイスをければ … 。

ヒューゴーは、そうしてほしいと思っているのか … 。

そして、そう、それが童謡の最後の行だった。

”自分で首をくくって、そして、誰もいなくなった … 。

小さな陶器の人形が、ヴェラの手から落ちた。ヴェラは気がつかない。人形はそのままコロコロ転がって、暖炉の椅子に当たって割れた。

ヴェラはロボットのように前に進んだ。ここで、終わりなんだわ - 喉に濡れて冷たい手(もちろん、シリルの手だ)が触れた場所で … 。

”シリル、岩まで泳いでいいわよ …”

人を殺すなんて、あれだけのこと - わけなかった!

でも、そのあと、いつまでも思い出す - 忘れられない … 。

ヴェラはイスの上に上がった。前を見つめる目は、夢遊病者の目だった … 輪に首を入れた。

ヒューゴーがそこで見守っている - ヴェラがすべきことをするのを -

ヴェラはイスをけった。

(青木 久惠訳)


(44)ヴェラ・エリザベス・クレイソーンの水着(Vera’s bathing dress)


兵隊島に建つ邸宅の2階にある
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンの部屋の椅子(右側)の肘掛け部分に、水着が掛けられている。
<筆者撮影>


他の招待客達が朝食の後片付けをしている最中、食堂に一人残っていたエミリー・キャロライン・ブレントが、青酸カリが入った皮下注射器を首筋に刺されて、5番目の犠牲者となった日の午後、残された5人の招待客達は、身体と部屋のチェックを、順次行った。

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンの場合、持参した水着を着て、部屋を出ると、男性の招待客4人が室内を捜索している間、部屋の外で待っていた。


「ご満足ですか」と、ロンバードがきいた。

彼は裸だった。身体も部屋も、ほかの三人によってくまなく調べられた。ヴェラ・クレイソーンは廊下に出て、待っていた。

捜索は整然と進められた。アームストロング、判事、ブロアも代わるがわる、同じ検査を受けた。

四人の男性はブロアの部屋を出て、ヴェラのところに行った。話したのは判事だった。

「クレイソーンさん、理解してもらえると思うが、例外は作れない。なんとしてもピストルを見つけなければならない。水着を持参していると思うが -」

ヴェラはうなずいた。

「では、部屋に入って水着を着て、ここに出てきてもらえないだろうか」

ヴェラは部屋に入って、ドアを閉めた。一分もしないうちに、ぴったりした絹の水着姿で出てきた。

判事は満足そうにうなずいた。

「すまないね、クレイソーンさん。では、われわれが部屋を調べるから、あんたはここで待っていてください」

ヴェラは、廊下でしんぼう強く待っていた。やがて男性たちが出てきた。ヴェラはまた部屋に入り、着替えをした。そして、待っている四人のところに戻ってきた。

(青木 久惠訳)


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州(Devon)の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた執事と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と執事 / 料理人夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、シリル・オギルヴィー・ハミルトン(Cyril Ogilvie Hamilton - 家庭教師をしていた子供)を殺害したと告発されたのである。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と執事 / 料理人夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年11月15日付ブログで紹介済)」に準えて、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、最後の被害者となる。


One little soldier boy left all alone; He went and hanged himself … And then there were None.

(1人の子供の兵隊さんが、後に残された。彼は自分で首を括って、そして、誰もいなくなった。)


ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、天井のフックからぶら下がっているロープの輪で、

自ら首を括って、自殺を遂げる。その際、最後の人形が、彼女の手から落ちる。-

Harper Collins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。
グラフィックノベル版の内容は、原作通り。


*被害者:ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*告発された罪状:シリル・オギルヴィー・ハミルトンを殺害したと告発された。

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、シリル・オギルヴィー・ハミルトンに対して、彼が望む通り、岩まで泳がせたのである。また、溺れた彼を助けようと、彼女は、彼の後を追ったものの、泳いでいるふりをした。

シリル・オギルヴィー・ハミルトンが溺死した後、ヒューゴ(Hugo - シリル・オギルヴィー・ハミルトンの叔父 / 事件当日、外出していた)は、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンに対して、見ず知らずの他人を見るような視線を向けた。その後、ヒューゴとヴェラ・エリザベス・クレイソーンの恋愛関係は、終わりを迎えている。

*犯罪発生時期:1935年8月11日


フィリップ・ロンバード(Philip Lombard)を射殺した後、

屋敷に戻ったヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、食堂に立ち寄り、

テーブルの上に置かれた3体の人形のうち、2体を取って、窓から外へ放り投げる。

そして、3体目の人形を手に取る。-

Harper Collins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。
グラフィックノベル版の内容は、原作通り。


*死因:絞首(縊死)

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、天井のフックからぶら下がっているロープの輪で、自ら首を括って、自殺を遂げる。その際、最後の人形が、彼女の手から落ちる。


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