今回は、ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)作「軽率だった夜盗」(A Guest in the House / The Incautious Burglar)」について、紹介したい。
「軽率だった夜盗」は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カーが1940年に発表した推理小説で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)シリーズの短編である。
「軽率だった夜盗」は、英国の場合、ハミッシュ・ハミルトン社(Hamish Hamilton)から1963年に、また、米国の場合、ハーパー社(Harper)から1964年に出版された「奇跡を解く男(The Men Who Explained Miracles)」に収録されている。
「軽率だった夜盗」は、1940年に「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」に掲載された際、「A Guest in the House」と言うタイトルだったが、「奇跡を解く男」に収録される際に、「The Incautious Burglar」へ改題された。
日本の場合、日本の出版社である東京創元社が1970年に編集した「カー短編全集2 妖魔の森の家(The Third Bullet, The House in Goblin Wood and Other Stories)」に収録された。
ケント州(Kent)の荒涼たる平原を見下ろす丘の上に建つクランレイ荘が、物語の舞台となる。
ある夜、午後11時を過ぎると、屋敷に滞在する客を除く訪問客が帰り、以下のメンバーが山荘に残った。
(1)マーカス・ハント(Marcus Hunt - 企業家 / 投資家で、クランレイ荘の主人)
(2)ハリエット・ディヴィス(Harriet Davis - マーカス・ハントの姪)
(3)アーサー・ロルフ(Arthur Rolfe - 美術商)
(4)デリク・ヘンダースン(Derek Henderson - 美術批評家)
(5)ルイス・バトラー(表面上は、ハリエット・ディヴィスの友人であるが、実際には、スコットランドヤード犯罪捜査部(C. I. D.)の警部補)
マーカス・ハントは、クランレイ荘において、レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン(Rembrandt Harmenszoon van Rijn:1606年ー1669年 / ネーデルラント連邦共和国(現オランダ王国)の画家)の絵画を2枚、そして、アンソニー・ヴァン・ダイク(Anthony van Dyck:1599年ー1641年 / バロック期のフランドル出身の画家)の絵画を1枚を所蔵しており、これら3枚は、莫大な値打ちを持つ名画だった。
マーカス・ハントは、元々、これら3枚を2階の寝室の隣りにある鍵がかかる部屋で保管していたが、何故か、階下の庭に面した食堂の壁に移動させたのである。食堂から、フランス窓経由、容易に庭へ出ることができた。
不思議なことに、マーカス・ハントは、これら3枚に対して、保険を掛けていなかった。更に、奇妙なのは、彼はクランレイ荘内に設置されていた夜盗避けの警報装置を一つ残らず撤去してしまったのである。
まるで、マーカス・ハントは、盗みに入られることを待っているかのようだった。
にもかかわらず、彼は、スコットランドヤードに依頼して、内々でルイス・バトラー警部補を派遣してもらい、クランレイ荘内に張り込ませていた。
上記の通り、マーカス・ハントの行動には、全く一貫性がなかった。果たして、彼は何を考えているのか?
そして、夜中の午前2時過ぎ、夜盗が現れた。フランス窓のガラスを切り取り、開けると、食堂へと侵入。壁に掛かった額縁からレンブラント作「帽子をかぶった老婆」を抜き取ると、画布を丸く巻こうとした。その作業に熱中するあまり、夜盗は、室内にもう一人の人物が居ることに少しも気付かなかった。
金属製の物体が転げ落ちる音を聞いた皆が2階から階下の食堂へ駆け付けると、銀の食器類が散乱する中、食器棚の前に、夜盗がセーターとズボンを血で汚したまま、仰向けに倒れており、全く動かなかった。食器棚の中にあった果物鉢の果物ナイフで、肋の辺りを刺されて、既に死亡していた。
ルイス・バトラー警部補が死体の側へ歩み寄り、油染みた鳥打ち帽を脱がせ、冠っていた黒布のマスクを外したところ、なんと、夜盗の正体は、クランレイ荘の主人であるマーカス・ハントだった。彼自身の山荘に所蔵されている名画を盗み出す最中に、胸を刺されて殺害されると言う奇怪な様相を呈していた。
「自分の所有物を自分が盗みに入る」と言う一見馬鹿げた行動ではあるが、何らかの理由があったに違いない。
ルイス・バトラー警部補の上司であるデイヴィッド・ハドリー警視(Superintendent David Hadley)から依頼を受けたギディオン・フェル博士が現地へと赴き、この奇怪な事件の謎を解き明かすのである。
ギディオン・フェル博士が登場するこの短編をベースにして、ジョン・ディクスン・カーは、カーター・ディクスン(Carter Dickson)名義で、ヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)を探偵役とするシリーズ長編第13作目に該る「仮面荘の怪事件 / メッキの神像 (The Gilded Man)」を執筆して、1942年に発表している。
「仮面荘の怪事件(東京創元社)/ メッキの神像(早川書房)」については、次回、紹介したい。

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