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ヴァインストリートの西側入口から 東側の行き止まりを見たところ <筆者撮影> |
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東京創元社から創元推理文庫として出版された ジョン・ディクスン・カー作「アラビアンナイトの殺人」の表紙 (カバー:山田 維史) |
天下の奇書アラビアンナイトの構成にならって、スコットランドヤードのお歴々である(1)ヴァインストリート署勤務のジョン・カラザーズ警部(Inspector John Carruthers - アイルランド人)、犯罪捜査部(CID)のデイヴィッド・ハドリー警視(Superintendent David Hadley / イングランド人)と(3)副総監であるハーバート・アームストロング卿(スコットランド人)が、三人三様の観察力と捜査法を駆使して、この事件を解説する。
彼らの話の聞き手は、南フランスで4ヶ月間の休暇を楽しんで、アデルフィテラス1番地(1 Adelphi Terrace → 2018年11月25日付ブログで紹介済)の自宅に戻ったばかりのギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)だった。
まず最初に、ヴァインストリート署勤務のジョン・カラザーズ警部による陳述が始まる。
非常識の最初の現われは、ホスキンズ巡査部長の口から聞かされました。念のためにくりかえして起きますが、ホスキンズは現職の巡査部長ですから、いろいろととりあつかう事件も多いことでしょうが、気違いが塀の上ではねまわるなどという光景は、そうめったに出っくわすものではありますまい。だいたいあのヴァイン・ストリートという界隈は、酔っぱらいの多い地区で、ことに白ネクタイの連中が羽目をはずして騒ぎまわる晩などは、相当彼を手こずらせる事件も起きがちです。それにしても、両頬にまっ白いひげをはやしているのが相手とは、ホスキンズとしても珍しいことだったにちがいありません。
<宇野 利泰訳>
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ヴァインストリート1番地(1 Vine Street)の建物入口 - 右側がヴァインストリートで、左側がスワローストリート。 <筆者撮影> |
ヴァインストリート署勤務のジョン・カラザーズ警部による陳述の中に出てくるヴァインストリート(Vine Street)は、ロンドンの中心部であるシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のメイフェア地区(Mayfair)内にある通りである。
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「Nicholson - Super Scale - London Atlas」から ピカデリーサーカス周辺の地図を抜粋。 |
ピカデリー通り(Piccadilly - ピカデリーライン(Piccadilly Line)とベイカールーライン(Bakerloo Line)の2線が乗り入れる地下鉄ピカデリーサーカス駅(Piccadilly Circus Tube Station)とピカデリーラインが停まる地下鉄ハイドパークコーナー駅(Hyde Park Corner Tube Station → 2015年6月14日付ブログで紹介済)を東西に結ぶ幹線道路 → 2025年7月31日付ブログで紹介済)とリージェントストリート(Regent Street - 地下鉄ピカデリーサーカス駅(Piccadilly Circus Tube Station)とベイカールーライン、セントラルライン(Central Line)およびヴィクトリアライン(Victoria Line)の3線が乗り入れる地下鉄オックスフォードサーカス駅(Oxford Circus Tube Station)を南北に結ぶ幹線道路)を南北に結ぶスワローストリート(Swallow Street)と言う小道があり、ヴァインストリートの西側は、スワローストリートの中間あたりから始まり、東側は行き止まりとなる路地である。
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ヴァインストリートからスワローストリートの南側を見たところ <筆者撮影> |
ヴァインストリートの場合、スワローストリート経由で、ピカデリー通りへと繋がるが、ピカデリープレイス(Piccadilly Place)と言う路地を使えば、ヴァインストリートからピカデリー通りへと直接出ることも可能。
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ヴァインストリートからスワローストリートの北側を見たところ <筆者撮影> |
この通り沿いに、「The Vine(葡萄 / 葡萄の木)」と言う店名のパブが18世紀にあったため、それに因んで、ヴァインストリートと名付けられた。
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ヴァインストリート(画面左奥へ延びる通り)、 スワローストリート(画面手前右側へ延びる通り)と ピカデリープレイス(画面奥右側へ延びる通り)に囲まれた建物は、 取り壊された後、現在、建替え中。 <筆者撮影> |
ジョン・ディクスン・カー作「アラビアンナイトの殺人」において述べられているとおり、18世から20世紀にかけて、ヴァインストリート沿いには、ヴァインストリート警察署(Vine Street Police Station)が存在しており、酔っぱらいの多い地区だったため、世界で最も多忙な警察署となった。
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ヴァインストリート1番地(1 Vine Street)の建物を見上げたところ - 右側がヴァインストリートで、左側がスワローストリート。 <筆者撮影> |
なお、第9代クイーンズベリー侯爵ジョン・ショルト・ダグラス(John Sholto Douglas, 9th Marquess of Queensberry:1844年ー1900年)の三男で、作家 / 詩人 / 翻訳家のロード・アルフレッド・ブルース・ダグラス(Lord Alfred Bruce Douglas:1870年ー1945年)は、アイルランド出身の詩人 / 作家 / 劇作家で、シャーロック・ホームズシリーズの作者さー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の友人でもあったオスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド(Oscar Fingal O’Flahertie Wills Wilde:1854年ー1900年)と同性愛の関係にあったため、ヴァインストリート警察署において逮捕されている。
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ナショナルポートレートギャラリー (National Portrait Gallery)で販売されている オスカー・ワイルドの写真の葉書 (Napoleon Sarony / 1882年 / Albumen panel card 305 mm x 184 mm) |
ヴァインストリートは、元々、もっと長い通りであったが、1816年から1819年にかけて、リージェントストリートが敷設され、リージェントストリート沿いに建物が建設されたことに伴い、行き止まりの短い路地になってしまった。

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