アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1939年に発表したノンシリーズ作品「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」を英国の BBC(British Broadcasting Corporation)が映像化した英国 TV ドラマ版の場合、アガサ・クリスティーの原作にかなり忠実に反映しているが、細かい点において、原作対比、以下のような違いがある。
今回は、2015年12月28日に放映された「エピソード3(最終エピソード)」にかかる部分の続きについて、述べたい。
(10)
<英国 TV ドラマ版>
フィリップ・ロンバード(Philip Lombard - 元陸軍大尉)とウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore - 巡査部長(Detective Sergeant)/ 原作の場合、元警部(Detective Inspector))によるエドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong)の追跡が失敗に終わった翌朝、彼ら2人とヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne - 秘書)が朝食をとっている席上、ウィリアム・ヘンリー・ブロアは、他の2人に対して、ジェイムズ・スティーヴン・ランドー(James Stephen Landor)を殺したことを認める。
<原作>
原作の場合、このような場面はない。
(11)
<原作>
ウィリアム・ヘンリー・ブロアは、ロンドン商業銀行が襲われた事件の捜査を担当しており、ジェイムズ・スティーヴン・ランドーを犯人として逮捕。その実績を買われて、ウィリアム・ヘンリー・ブロアは、昇進を果たしている。
なお、ジェイムズ・スティーヴン・ランドーは、終身刑となり、1年後にダートムーア刑務所で死亡。
<英国 TV ドラマ版>
ウィリアム・ヘンリー・ブロアは、ジェイムズ・スティーヴン・ランドーが拘留されている留置場を訪れると、留置場のドアを閉め、ジェイムズ・スティーヴン・ランドーを床に倒して、何度も踏み付ける等の暴行を加えている。この暴行によって、ジェイムズ・スティーヴン・ランドーは死亡したものと思われる。
(12)
<原作>
その日の午前中、フィリップ・ロンバードの提案に基づき、残った3人は、兵隊島(Soldier Island)の一番高いところから、鏡で日光を反射させて、対岸へ信号を送る努力を続けた。
<英国 TV ドラマ版>
フィリップ・ロンバードとヴェラ・エリザベス・クレイソーンの2人は、兵隊島の断崖で、火を燃やして、対岸へ信号を送ろうとする。
一方、ウィリアム・ヘンリー・ブロアは、火かき棒を持ち、周囲を警戒しつつ、屋敷内を歩き廻る。
(13)
<原作>
午後2時になると、腹をすかしたウィリアム・ヘンリー・ブロアは、屋敷へと戻る。フィリップ・ロンバードとヴェラ・エリザベス・クレイソーンの2人は、兵隊島の一番高いところに、そのまま残る。
暫くした後、屋敷の方から地響きと叫び声のような音が聞こえたため、フィリップ・ロンバードとヴェラ・エリザベス・クレイソーンの2人も、屋敷へと引き返す。
<英国 TV ドラマ版>
フィリップ・ロンバードとヴェラ・エリザベス・クレイソーンの2人は、断崖に到着するが、いつまで待っても、ウィリアム・ヘンリー・ブロアがやって来ない。
そのため、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを断崖に残したまま、フィリップ・ロンバードが、一人で屋敷へと引き返す。暫くした後、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンも、フィリップ・ロンバードの後を追って、屋敷へ戻る。
(14)
<原作>
フィリップ・ロンバードとヴェラ・エリザベス・クレイソーンの2人が屋敷に戻ると、東側の石のテラスにおいて、ウィリアム・ヘンリー・ブロアは、大の字になって倒れており、頭を大きな白大理石の固まりで打ち砕かれていた。
それは、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンの部屋の暖炉の上に置かれていた熊の形をした時計だった。
<英国 TV ドラマ版>
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが屋敷に戻ると、それに気付いたフィリップ・ロンバードが、彼女に対して、拳銃を向ける。
ウィリアム・ヘンリー・ブロアは、胸をナイフで刺されて、倒れており、彼の上には、白熊の毛皮が載せられていて、まるで彼は白熊に襲われたかのようだった。
(15)
<英国 TV ドラマ版>
ウィリアム・ヘンリー・ブロアが殺された後、食堂のテーブルの上に置かれた人形の数が3個から2個へ減っていた。
<原作>
原作の場合、このような場面はない。
(16)
<原作>
海岸において、エドワード・ジョージ・アームストロングの溺死体を発見したヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、フィリップ・ロンバードから拳銃を奪い取ると、彼が飛び掛かった際、反射的に引き金を引いて、彼の心臓を打ち抜いてしまう。
つまり、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが、フィリップ・ロンバードに向けて発射した拳銃は、1発のみ。
<英国 TV ドラマ版>
海岸において、エドワード・ジョージ・アームストロングの溺死体を発見したヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、フィリップ・ロンバードから拳銃を奪い取ると、彼と揉み合っている時に、彼の左膝を1発撃つ。その後、彼の胸に向けて、2発発射。彼が波打ち際に倒れた後も、彼女は、更に2発撃った。
(17)
<原作>
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、シリル・オギルヴィー・ハミルトン(Cyril Ogilvie Hamilton - 家庭教師をしていた子供)に対して、彼が望む通り、岩まで泳がせている。
また、溺れた彼を助けようと、彼女は、彼の後を追って、泳いでいるふりをする。
シリル・オギルヴィー・ハミルトンが溺死した後、ヒューゴ(Hugo - シリル・オギルヴィー・ハミルトンの叔父 / 事件当日、外出していた)は、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンに対して、見ず知らずの他人を見るような視線を向けた。その後、ヒューゴーとヴェラ・エリザベス・クレイソーンの恋愛関係は、終わりを迎えている。
<英国 TV ドラマ版>
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、シリル・オギルヴィー・ハミルトンに対して、彼が望む通り、岩まで泳がせている。
また、溺れた彼を助けようと、彼女は、海岸まで走って行くが、途中で歩き出し、ゆっくりと上着を脱ぎ、サングラスを外す。そして、背泳ぎでゆっくり進むが、途中で溺れるふりをする。
シリル・オギルヴィー・ハミルトンの検死法廷が終わった後、ヒューゴーがヴェラ・エリザベス・クレイソーンの元へとやって来て、彼女の罪状を厳しく糾弾した後、彼女の元から去って行った。
(18)
<原作>
フィリップ・ロンバードを射殺した後、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、暫くの間、放心状態にあり、陽が沈みかけて、ようやく緊張の糸が緩み、空腹と眠気を覚えた彼女は、屋敷へと戻る。
<英国 TV ドラマ版>
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、拳銃を右手に持って、海岸に倒れているところで気付く。
フィリップ・ロンバードが死んでいることを確認した彼女は、自分が助かったことを確信し、屋敷へと戻る。
(19)
<原作>
屋敷に戻ったヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、食堂に立ち寄り、テーブルの上に置かれた3個の人形のうち、2個を取って、窓から外へ放り投げる。そして、3個の人形を手に取る。
<英国 TV ドラマ版>
英国 TV ドラマ版の場合、このような場面はない。
(20)
<原作>
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、2階にヒューゴーが居るような気配を感じつつ、階段を昇る。そして、階段を登りきったところで、拳銃を落とす。
2階の部屋でヒューゴーが待っていることを確信した彼女は、自分の部屋へ入る。
<英国 TV ドラマ版>
シリル・オギルヴィー・ハミルトンの幻影に連れられて、屋敷に戻ったヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、階段を昇る。階段を登りきったところではなく、階段の途中で、拳銃を落とす。
そして、シリル・オギルヴィー・ハミルトンの幻影に見守られながら、彼女は、自分の部屋へ入る。
(21)
<原作>
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、天井のフックからぶら下がっているロープの輪で、自ら首を括って、自殺を遂げる。その際、最後の人形が、彼女の手から落ちる。
<英国 TV ドラマ版>
原作と同様に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、天井のフックからぶら下がっているロープの輪に、自ら首を一旦かける。
その時、彼女の部屋のドアが開いて、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave - 元判事)が入って来る。驚いた彼女は、椅子を蹴って、首吊りの状態になってしまうが、横倒しになった椅子の上で、辛うじてバランスを保つ。
そして、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴによる独白が始まる。
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴに対して、フィリップ・ロンバードに全ての罪をなすりつけることで決着させようと説得するが、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、彼女の足元から椅子を取り去り、彼女を縊死させる。
彼女の死亡を確認したローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、彼女の部屋から立ち去る。
(22)
<原作>
犯人のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、自分の部屋のベッドの上で、拳銃自殺を遂げる。
<英国 TV ドラマ版>
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを縊死させた後、犯人のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、食堂のテーブルでワインを飲んだ後、フィリップ・ロンバードの拳銃に弾丸(ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴが、1発所持していた)を装填し、首の下から撃って、自殺を遂げる。
(23)
<原作>
「エピローグ」の部分で、スコットランドヤードの副警視総監であるサー・トマス・レッグ(Sir Thomas Legge)とメイン警部(Detective Inspector Maine)が登場する。
<英国 TV ドラマ版>
英国 TV ドラマ版の場合、全ての物語が兵隊島で完結する関係上、スコットランドヤードの副警視総監であるサー・トマス・レッグとメイン警部は、登場しない。
(24)
<原作>
原作の場合、アイザック・モリス(Issac Morris)は、謎のオーウェン氏(=犯人のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ)に代わって、兵隊島の買取りにかかる全てを取り仕切っている。彼は、3年前に起きたベニー証券詐欺事件に関与している他、麻薬の密売にも手を出していた模様。
ロンドンを出発する前に、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、消化不良に悩むアイザック・モリスに対して、胃液に素晴らしい効き目がるカプセルを1つ渡している。このカプセルに毒が仕込まれており、アイザック・モリスは、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴによって、事前に毒殺されている。
<英国 TV ドラマ版>
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンに対して、オーウェン氏の秘書の仕事を斡旋した紹介所の所長として、アイザック・モリスが、また、彼のタイピストとして、オードリー(Audrey)が登場する。
彼ら2人が、謎のオーウェン氏(=犯人のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ)の手先だったのかどうかについては、英国 TV ドラマ版の場合、明確には描かれていない。また、彼ら2人も、法律では裁けない犯罪者で、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴによって、事前に処分されたのかどうかについても、不明。
