2025年6月10日火曜日

アガサ・クリスティー作「ゼロ時間へ」<英国 TV ドラマ版>(Towards Zero by Agatha Christie )- その1

画面奥左側から、ケイ・ストレンジ、ネヴィル・ストレンジ、
メアリー・アルディン、フレデリック・トリーヴス、トマス・ロイド、
オードリー・ストレンジ、そして、リーチ警部。
画面手前のベッドで身体を起こしているのが、
カミラ・トレシリアン夫人である。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1944年に発表したノンシリーズ作品「ゼロ時間へ(Towards Zero → 2024年11月18日 / 12月8日 / 12月9日付ブログで紹介済)」は、英国の BBC(British Broadcasting Corporation)が TV ドラマとして映像化の上、2025年3月2日、3月9日および3月16日の3夜に渡って放映されている。

なお、本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第34作目に該っている。


「ゼロ時間へ」の場合、通常の作品とは異なり、犯人が殺人の計画を策定する時間から始まって、犯行の瞬間である「ゼロ時間」へと遡っていくと言う独特の叙述法が採用されている。


昨年(2024年)、「ゼロ時間へ」の発表80周年を記念して、英国の HarperCollins Publishers 社から同作品の愛蔵版(ハードバック版)が出版されている。


2024年に英国の HarperCollins Publishers 社から出版された
アガサ・クリスティー作「ゼロ時間へ」の
愛蔵版(ハードカバー版)の表紙
(Cover design by 
HarperCollinsPublishers Ltd. /
Cover illustration : Courtesy of the Mill at Sonning Theatre) 


BBC の TV ドラマ版における主な登場人物は、以下の通り。


(1)カミラ・トレシリアン夫人(Lady Camilla Tressilian - 寝たきりの金持ちの老未亡人で、ソルトクリーク(Saltcreek)の邸宅「ガルズポイント(Gull’s Point)」に在住): Anjelica Huston

(2)メアリー・アルディン(Mary Aldin - カミラ・トレシリアン夫人のコンパニオン): Anjana Vasan

(3)ネヴィル・ストレンジ(Nevile Strange - カミラ・トレシリアン夫人の亡き夫の被後見人で、テニス選手): Oliver Jackson-Cohen

(4)オードリー・ストレンジ(Audrey Strange - ネヴィル・ストレンジの前妻): Ella Lily Hyland

(5)ケイ・ストレンジ(Kay Strange 旧姓:エリオット(Elliot)- ネヴィル・ストレンジの新妻): Mimi Keene

(6)ルイス・モレル(Louis Morel - ケイ・ストレンジの友人): Khalil Ben Gharbia

(7)トマス・ロイド(Thomas Royde - メアリー・アルディンの恋人): Jack Farthing

(8)ヘクター・マクドナルド(Hector Macdonald - ネヴィル・ストレンジの執事): Adam Hugill

(9)フレデリック・トリーヴス(Frederick Treves - カミラ・トレシリアン夫人の専任弁護士): Clark Peters

(10)シルヴィア(Sylvia - フレデリック・トリーヴスが後見人を務めている少女): Grace Doherty

(11)バレット夫人(Mrs. Barrett - カミラ・トレシリアン夫人のメイド): Jackie Clune


(12)リーチ警部(Inspector Leach - 地元警察に所属する酔っ払いの警部): Matthew Rhys

(13)ミラー巡査部長(Detective Sergeant Miller - リーチ警部の部下): Alexander Cobb


2024年に英国の HarperCollins Publishers 社から出版された
アガサ・クリスティー作「ゼロ時間へ」の
愛蔵版(ハードカバー版)の裏表紙
(Cover design by 
HarperCollinsPublishers Ltd. /
Cover illustration : Courtesy of the Mill at Sonning Theatre) 


BBC の TV ドラマ版における登場人物の場合、アガサ・クリスティーの原作対比、以下の違いがある。


(2)

<原作>

物語当初、トマス・ロイドとの間に恋愛関係はない。物語の終盤、トマス・ロイドとの間に恋愛関係が進展する可能性があることが言及されている。

<英国 TV ドラマ版>

物語の最初から、トマス・ロイドと恋愛関係にある。


(6)

<原作>

ケイ・ストレンジの友人として、エドワード・ラティマー(Edward Latimer - 愛称:テッド(Ted))が登場する。

<英国 TV ドラマ版>

エドワード・ラティマーの役割が、ルイス・モレルに置き換えられている。


(7)

<原作>

物語当初、メアリー・アルディンとの間に恋愛関係はなく、従姉妹であるオードリー・ストレンジに対して、長年の間、想いを寄せている。物語の終盤、メアリー・アルディンとの間に恋愛関係が進展する可能性があることが言及されている。

<英国 TV ドラマ版>

物語の最初から、メアリー・アルディンと恋愛関係にある。


(8)

<原作>

原作には登場しない。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版用に新たに設けられた人物である。


(9)

<原作>

カミラ・トレシリアン夫人の古くからの友人かつ弁護士ではあるが、同夫人の専任弁護士ではない。

また、原作の場合、トリーヴス氏(Mr. Treves)と呼ばれており、名前については、言及されていない。

<英国 TV ドラマ版>

カミラ・トレシリアン夫人の専任弁護士として、以前から様々な件を処理している人物である。

また、英国 TV ドラマ版の場合、原作とは異なり、フレデリック(Frederick)と言う名前が与えられている。


(10)

<原作>

原作には登場しない。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版用に新たに設けられた人物である。


(12)

<原作>

原作の場合、スコットランドヤードに所属するジェイムズ・リーチ警部(Inspector James Leach)で、バトル警視(Superintendent Battle)の甥でもある。

<英国  TV ドラマ版>

地元警察に所属する警部で、バトル警視の甥でもない。


(13)

<原作>

原作に登場するのは、ジョーンズ巡査部長(Sergeant Jones)である。

<英国 TV ドラマ版>

ジョーンズ巡査部長の役割が、ミラー巡査部長に置き換えられている。


英国 TV ドラマ版の場合、原作の終盤において非常に重要な役割を果たすアンガス・マクハーター(Angus MacWhirter - 自殺しそこねた男性)と事件を解決するバトル警視の2人が登場していない。


2025年6月9日月曜日

ロンドン プリンスアルバートロード(Prince Albert Road)

リージェンツパークの北側を通る
プリンスアルバートロードの西端

英国の作家であるミシェル・バークビー(Michelle Birkby)作の長編第2作目に該る「ベイカー街の女たちと幽霊少年団(The Women of Baker Street → 2025年5月2日 / 5月24日 / 5月29日 / 6月4日付ブログで紹介済)」(2017年)の場合、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の家主であるハドスン夫人(Mrs. Hudson - マーサ・ハドスン(Martha Hudson))は、腹部の閉塞症のため、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)で緊急手術を受けるところから、物語が始まる。



同病院の特別病棟内のベッドの上で目を覚ましたハドスン夫人は、モルヒネと麻酔薬の投与により、目が覚めた後も頭にまだ霞がかかったようになっていた。

その時、ハドスン夫人は、病室のとりわけ暗い一角に、うごめく影のかたまりを見た。ハドスン夫人が目を凝らしていると、影のかたまりは、彼女のベッドの裾を横切り、彼女の斜向かいにあるベッドへと向かった。朦朧とする意識のなか、ハドスン夫人は、その影のかたまりがそのベッドの上に覆いかぶさるのを目撃した後、突如、深い眠りへ引きずり込まれると、意識が遠のく。

翌朝、ハドスン夫人が再度目覚めると、シスターと若い医師が、彼女の斜向かいの空っぽのベッドの側に立って、話し合いをしているのが聞こえた。昨夜、ハドスン夫人が目撃した通り、影のかたまりが覆いかぶさっていたベッドの女性は、今朝、亡くなっているのが見つかったのである。


英国の Pam Macmillan 社から2017年に出版された
ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」
ペーパーバック版内に付されている
セントバーソロミュー病院の特別病棟の見取り図


それから数日後の夜、ハドスン夫人は、消灯後、眠りに落ちたが、午前3時頃、悪夢に襲われて、目が覚めた。目が覚めたものの、何故か、身体が全く動かず、また、助けを呼ぼうにも声も出なかった。

すると、入院初日の晩と全く同じことが起きる。病室の隅の黒いかたまりから、人の形をしたものがすうっと出て来たのだ。そして、エマ・フォーダイス(Emma Fordyce - ミランダ・ローガン(Miranda Logan)の正面に居る患者 / 歳を召していて、あちこち悪いところがあるみたいだが、老いを楽しんでいる様子 / 過去に非凡な面白い体験をしていて、思い出話を他の人に聞かせるのが大好き)が眠るベッドの側に立った。その時、エマ・フォーダイスが目を覚まして、はっと息をのんだ後、悲鳴を上げようとしたが、その人影は、いきなり側にあった枕を掴むと、彼女の顔に押し付けた。エマ・フォーダイスは激しく暴れた、次第に抵抗が弱くなり、最後は、ぐったりとして動かなくなった。

ハドスン夫人は、入院初日に続き、2つ目の殺人現場を目撃したことになる。


プリンスアルバートロードの北側(その1)

一方、ワトスン夫人(Mrs. Watson)となったメアリー・ワトスン(Mary Watson - 旧姓:モースタン(Morstan))は、ベイカーストリート221B の給仕のビリー(Billy)経由、ベイカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)のウィギンズ(Wiggins)から聞いた話が気になっていた。


プリンスアルバートロードの北側(その2)


それは、「幽霊少年団(The Pale Boys)」のことだった。

(1)夜間だけ、街角に姿を見せる。

(2)街灯の明かりには決して近付かない。

(3)往来の激しい大通りには、足を踏み入れない。

(4)全員、青白い顔をして、闇に溶け込みそうな黒づくめの服装をしている。

(5)薄暗い道端や人気の無い路地を彷徨く。

(6)何年経っても、歳をとらないし、飲んだり食べたりもしない。

(7)彼らの姿を見た者は、死んでしまう。

(She told me the tale of the Pale Boys. Boys who came onto the street only at night. They never came into the light. They never went onto the Main Street. They had pale faces, and all black clothes, and they melted into the shadows. They walked in dark corners and deserted alleyways. They never grew old, and never ate or drank and if you saw them, you would die.)


プリンスアルバートロードの北側(その3)-
画面の右側に、運河とリージェンツパークがある。

セントバーソロミュー病院を退院したハドスン夫人と同席するメアリー・ワトスンの元へ、ベイカーストリート不正規隊の面々が、「幽霊少年団」に関する報告に訪れた。


プリンスアルバートロードの南側(その1)

’So,’ Mary said, ‘everyone show me on the map where you saw the Pale Boys.’

They gathered round, trying to match the carefully drawn lines to the crowded, filthy, battered streets they knew. More than a few arguments broke out as they matched road for road, or tried to find an alleyway that didn’t exist on any map.

Eventually, we had a pattern. The sightings all seemed to be concentrated in the streets at the north end of Regent’s Park, near Albert Road.


プリンスアルバートロードの南側(その2)

「みんな、いい?」メアリーが全員に呼びかけた。「”幽霊少年団”を見た場所を地図上で指して教えてちょうだい」

少年たちは一斉に地図を取り囲み、おびただしい数の線から自分が知っているごみごみしたみすぼらしい通りを見つけだそうとした。地図に載っていないごく小さな路地は大通りを目印に根気よく探さなければならないので、けっこう手間がかかる。一度ならず言い争いが起きた。

そうこうしているうちに全員の報告が終わり、共通点が浮かびあがってきた。目撃例はリージェンツ・パークの北側を通るアルバート・ロードのあたりに集中していた。

(駒月 雅子訳)


プリンスアルバートロードの南側(その3)

「幽霊少年団」の目撃例が集中している「アルバート・ロード」とは、厳密には、「プリンスアルバートロード(Prince Albert Road)」と言う名前で、実在する通りである。


リージェンツパークの北側を通る道路が、プリンスアルバートロードである。


プリンスアルバートロードは、リージェンツパーク(Regent’s Park → 2016年11月19日付ブログで紹介済)を囲む通りの一つで、


*リージェンツパークの北側: プリンスアルバートロード

*リージェンツパークの東側: アルバニーストリート(Albany Street)

*リージェンツパークの南側: マリルボーンロード(Marylebone Road)

*リージェンツパークの西側: パークロード(Park Road)


と言う道路配置になっている。

リージェンツパークの北側には、グランドユニオンカナル(Grand Union Canal)と言う運河が流れていて、プリンスアルバートロードは、その運河に沿って、東西に延びている。


ナショナルポートレートギャラリー(National Portrait Gallery)内で所蔵 / 展示されている
アルバート公の肖像画
(By Franz Xaver Winterhalter / Oil on canvas / 1867年 /
based on a portrait of 1859)


なお、プリンスアルバートロードは、ハノーヴァー朝(House of Hanover)の第6代女王で、かつ、初代インド女帝であるヴィクトリア女王(Queen Victoria:1819年ー1901年 在位期間:1837年ー1901年)の夫で、腸チフスのため、42歳の若さで亡くなったアルバート公(Albert Prince Consort:1819年ー1861年)に因んで、名付けられている。 


2025年6月8日日曜日

エドワード7世(Edward VII)- その4

ヴィクトリア&アルバート博物館(Victoria and Albert Museum)の
メイン入口の左側に設置されているエドワード7世像


腸チフスのため、1861年12月14日に夫のアルバート公(Albert Prince Consort:1819年ー1861年)を亡くした後、ワイト島(Isle of Wight)にある英国王室の離宮オズボーンハウス(Osborne House)やスコットランド(Scotland)アバディーンシャー(Aberdeenshire)にあるバルモラル城(Balmoral Castle)等で隠遁生活を続けるハノーヴァー朝(House of Hanover)の第6代女王で、かつ、初代インド女帝であるヴィクトリア女王(Queen Victoria:1819年ー1901年 在位期間:1837年ー1901年)に代わり、1860年代のヨーロッパ国際政治の「王室外交」と言う分野において、後にサクス=コバーグ・アンド・ゴータ朝(House of Saxe-Coburg and Gotha)の初代英国国王 / インド皇帝であるエドワード7世(Edward VII:1841年ー1910年 在位期間:1901年ー1910年)となるアルバート・エドワード(Albert Edwardは、ウェールズ公(Prince of Wales)自分の美点を遺憾なく発揮した。


ヴィクトリア&アルバート博物館のメイン入口を
下から見上げたところ


ところが、妻であるレディー・ハリエット・サラ・モーダント(Harriet Sara, Lady Mordaunt:1848年ー1906年)が非嫡出子を産んだことに伴うサー・チャールズ・モーダント準男爵(Sir Charles Mordaunt, 10th Baronet:1836年ー1897年 / 保守党の議員でもあった)の離婚訴訟の場に、アルバート・エドワードは、証人として出廷する事態となった。これは、レディー・ハリエット・サラ・モーダントがサー・チャールズ・モーダント準男爵と1866年に結婚した後も、アルバート・エドワードを含む複数の貴族達と愛人関係を続けていたからである。その結果、アルバート・エドワードは、世間からウェールズ公としての資質を疑問視され、ヴィクトリア女王が隠遁生活を続けていることも相まって、英国王室の人気は池に落ちた。


ヴィクトリア&アルバート博物館のメイン入口の上部に設置されている
ヴィクトリア女王像

しかし、アルバート・エドワードは、1871年11月から同年12月にかけて、父アルバート公崩御の要因となった腸チフスに罹患し、命の危機に瀕したが、父とは異なり、劇的に回復したため、彼の人気は復活。


ヴィクトリア&アルバート博物館のメイン入口のすぐ上に設置されている
アルバート公像


腸チフスからの回復後、アルバート・エドワードは、特定の国や人物を敵視することが減り、より宥和的な態度を示すようになった。


(1)

1873年5月に開催したウィーン万国博覧会(Expo 1873)を支援し、同地で初代ドイツ皇帝 / 第7代プロイセン王であるヴィルヘルム1世(Wilhelm I:1797年ー1888年 第7代プロイセン王在位期間:1861年ー1888年 / 初代ドイツ皇帝在位期間:1871年ー1888年)と会見して、親睦を深める。


(2)

1874年1月に訪露して、弟のアルフレッド・アーネスト・アルバート(Alfred Ernest Albert:1844年ー1900年 / ヴィクトリア女王の第4子で次男)とロマノフ朝第12代ロシア皇帝であるアレクサンドル2世(1818年ー1881年 在位期間:1855年ー1881年)の皇女マリア・アレクサンドロヴナ(1853年ー1920年)の結婚式出席、ロシア皇室との友好関係を深める。


(3)

1875年11月から1876年3月にかけてヴィクトリア女王の名代として、英領インド帝国(British Raj)を公式に訪問。


(4)

1878年5月に開催したパリ万国博覧会(Expo 1878)を支援して、英仏間の友好関係に尽力。


(5)

1881年3月にロマノフ朝第12代ロシア皇帝のアレクサンドル2世が暗殺された際、訪露して、その葬儀に出席。また、アレクサンドル2世と同様に、ロマノフ朝第13代ロシア皇帝となったアレクサンドル3世(1845年ー1894年 在位期間:1881年ー1894年)に対して、ガーター勲章(Order of the Garter)を授与することに尽力、ロシア皇室との更なる親善を図る。


上記の通り、アルバート・エドワードは、1860年代に続き、1870年代から1880年代にかけても、ヨーロッパ国際政治において、「王室外交」で活躍したものの、1890年6月に発生した「ロイヤルバカラスキャンダル(royal baccarat scandal)をめぐって訴えられ、1891年6月に再度法廷に立つ羽目に陥り、彼に対する批判が強まった。


ヴィクトリア&アルバート博物館のメイン入口の右側に設置されている
アレクサンドラ・オブ・デンマーク像 -
なお、
アレクサンドラ・オブ・デンマーク(Alexandra of Denmark:1844年ー1925年 )は、
デンマーク国王クリスチャン9世の娘(王女)で、
エドワード7世の妃である。


不幸なことは続き、年末に罹った風邪気味の中、狩猟に出かけたアルバート・エドワードの長男であるクラレンス=アヴォンデイル公爵アルバート・ヴィクター・クリスチャン・エドワード王子(Prince Albert Victor Christian Edward, Duke of Clarence and Avondle:1864年ー1892年)が、インフルエンザと肺炎を併発して、1892年1月14日に逝去。

その結果、アルバート・エドワードの後継者は、彼の次男であるヨーク公爵ジョージ・フレデリック・アーネスト・アルバート王子(Prince George Frederick Ernest Albert, Duke of York:1865年ー1936年 → 後のジョージ5世(George V  在位期間:1910年ー1936年))がなった。


アビんドンストリート(Abingdon Street)を挟んで、
国会議事堂(House of Parliament)の反対側に建つジョージ5世像

ウェールズ公としてのアルバート・エドワードの忍従は、まだまだ続くのであった。


2025年6月7日土曜日

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」<英国 TV ドラマ版>(And Then There Were None by Agatha Christie )- その2

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
「エピソード1」における1場面 -
謎のオーウェン氏に招待された面々が、兵隊島に上陸したところ。
画面右側から、
ヴェラ・エリザベス・クレイソーン、
ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ、ウィリアム・ヘンリー・ブロア、
エドワード・ジョージ・アームストロング、フィリップ・ロンバード、
ジョン・ゴードン・マッカーサー、そして、船乗りのフレッド・ナラコット。
なお、
エミリー・キャロライン・ブレントとアンソニー・ジェイムズ・マーストンの2人は、
他のメンバーを待たずに、先に兵隊島に到着済である。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1939年に発表したノンシリーズ作品「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」を英国の BBC(British Broadcasting Corporation)が映像化した英国 TV ドラマ版の場合、アガサ・クリスティーの原作にかなり忠実に反映しているが、細かい点において、原作対比、以下のような違いがある。


今回は、2015年12月26日に放映された「エピソード1」にかかる部分について、述べたい。


(1)

<原作>

物語の冒頭、トマス・ロジャーズ(Thomas Rogers:執事)とエセル・ロジャーズ(Ethel Rogers:執事の妻)を除く8人が兵隊島(Soldier Island)へと向かっている場面から始まる。

<英国 TV ドラマ版>

謎のオーウェン氏(Mr. Owen)から、トマス・ロジャーズとエセル・ロジャーズを除く8人宛に、兵隊島への招待状が送られるところから、物語が始まる。

続いて、オーウェン氏が、男性の俳優に依頼して、ウェストエンド(West End)で上演する演劇で使用すると言う名目で、10人に対する罪状告発のレコード録音が行われる。


(2)

<原作>

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave:元判事)

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne:女子校の体育教師)

*フィリップ・ロンバード(Philip Lombard:元陸軍大尉)

*エミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent:老婦人)

上記の4人は、ロンドン方面(パディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)から兵隊島の最寄りの駅であるオークブリッジ駅へと向かう。


パディントン駅のコンコースとそれを覆うガラス屋根


*ジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon MacArthur:退役将軍)

デヴォン州(Devon)の州都であるエクセター(Exeter)で列車を乗りかえて、兵隊島の最寄りの駅であるオークブリッジ駅へと向かう。


*エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong:医師)

*アンソニー・ジェイムズ・マーストン(Anthony James Marston:青年)

上記の2人は、それぞれ車で移動。


*ウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore:元警部)

デヴォン州 の港町であるプリマス(Plymouth → 2023年9月8日付ブログで紹介済)から兵隊島への船着き場へ向かう。


プリマス海軍記念館(Plymouth Naval Memorial)は、
第一次世界大戦と第二次世界大戦で亡くなった
英国と英国連邦の船員に敬意を表して、捧げられている。


オークブリッジ駅に到着した後、2台のタクシーに分乗して、兵隊島があるスティクルヘイヴンへと向かった。


(先行した1台目のタクシー:2人乗車)

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

*エミリー・キャロライン・ブレント


(5分程遅れて到着したジョン・ゴードン・マッカーサーを待った2台目のタクシー:3人乗車)

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

*ジョン・ゴードン・マッカーサー


<英国 TV ドラマ版>

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

上記の4人は、同じ列車で到着し、兵隊島への船着き場へと向かう。


*エドワード・ジョージ・アームストロング

*アンソニー・ジェイムズ・マーストン(彼は、他のメンバーを待たず、先行して兵隊島へと渡っている)

上記の2人は、それぞれ車で移動。


*ジョン・ゴードン・マッカーサー

彼は、既に船着き場で待っていた。


なお、エミリー・キャロライン・ブレントも、他のメンバーを待たず、既に兵隊島に到着済である。


(3)

<英国 TV ドラマ版>

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンに対して、オーウェン氏の秘書の仕事を斡旋した紹介所の所長として、アイザック・モリス(Issac Morris)が、また、彼のタイピストとして、オードリー(Audrey)が登場する。

<原作>

ヴェラ・エリザベス・クレイソーンに対して、オーウェン氏の秘書の仕事を斡旋した紹介所として、特に具体的な人物の名前等は言及されていない。

原作にも、アイザック・モリスは登場するが、彼は、オーウェン氏に代わって、兵隊島の買取りにかかる全てを取り仕切っている。彼は、3年前に起きたベニー証券詐欺事件に関与している他、麻薬の密売にも手を出していた模様。その後、オーウェン氏に殺害されたものと思われる。


(4)

<原作>

タクシーで到着した5人

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

*エミリー・キャロライン・ブレント

*ジョン・ゴードン・マッカーサー

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

と既に船着場に到着していた1人

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア

と少し遅れて自分の車で到着した1人

*アンソニー・ジェイムズ・マーストン

の合計7人は、フレッド・ナラコット(Fred Narracott)のモーターボートに乗り、先に兵隊島へと渡る。

夕方、自分の車で到着したエドワード・ジョージ・アームストロングは、フレッド・ナラコットのモーターボートで、1人遅れて兵隊島へと渡る。

<英国 TV 版>

フレッド・ナラコットのモーターボートに乗り、兵隊島へと渡る場面が描かれるのは、以下の6人のみ。

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

*ジョン・ゴードン・マッカーサー

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア

*エドワード・ジョージ・アームストロング


アンソニー・ジェイムズ・マーストンとエミリー・キャロライン・ブレントの2人に関しては、他のメンバーを待たず、既に兵隊島へと渡っている。


(5)

<英国 TV 版>

最初の晩の夕食時、車の強引な追越しの件で、エドワード・ジョージ・アームストロングとアンソニー・ジェイムズ・マーストンは言い合いになるが、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴが仲裁に入り、2人に握手させている。

<原作>

原作の場合、このような場面はない。


(6)

<原作>

夕食後の寛いだ雰囲気の中で行われたオーウェン氏による罪状告発は、以下の順。

*エドワード・ジョージ・アームストロング

*エミリー・キャロライン・ブレント

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

*ジョン・ゴードン・マッカーサー

*アンソニー・ジェイムズ・マーストン

トマス・ロジャーズ / エセル・ロジャーズ

ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

<英国 TV ドラマ版>

夕食後の寛いだ雰囲気の中で行われたオーウェン氏による罪状告発は、以下の順。

*エドワード・ジョージ・アームストロング

*エミリー・キャロライン・ブレント

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア

*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン

*フィリップ・ロンバード

*ジョン・ゴードン・マッカーサー

*アンソニー・ジェイムズ・マーストン

ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ

トマス・ロジャーズ / エセル・ロジャーズ

英国 TV ドラマ版の場合、原作対比、トマス・ロジャーズ / エセル・ロジャーズとローレンス・ジョン・ウォーグレイヴの罪状告発の順番が、逆になっている。


(7)

<原作>

エセル・ロジャーズが倒れたのは、オーウェン氏による罪状告発の時点で、倒れた場所は、夕食後、ゲスト達が移動した応接室の外である。

彼女は、一旦、応接室のソファーに寝かされ、ブランディーを飲んだ後、少し落ち着いた。その後、トマス・ロジャーズとエドワード・ジョージ・アームストロングに支えられて、彼女は自分の部屋で休むことになった。

<英国 TV ドラマ版>

エセル・ロジャーズがオーウェン氏による罪状告発を聞いた場所は、原作とは異なり、応接室の外ではなく、キッチンで、身体がひどく震えていたものの、倒れるまでには至っていない。

その後、トマス・ロジャーズとエドワード・ジョージ・アームストロングに連れられて、彼女は自分の部屋で休むことになった。

なお、トマス・ロジャーズとエセル・ロジャーズの部屋は、地下にあるものと思われる。


(8)

<原作>

オーウェン氏による罪状告発が録音されたレコードがセットされた蓄音機は、応接室の隣りの部屋に設置されていた。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、原作とは異なり、オーウェン氏による罪状告発が録音されたレコードがセットされた蓄音機は、応接室の隣りの部屋ではなく、地下のある部屋に設置されていた。


(9)

<原作>

アンソニー・ジェイムズ・マーストンが何かに喉を詰まらせて死亡した際、彼が持っていたグラスの底に残っている酒に、エドワード・ジョージ・アームストロングが指を一本ちょっとつけ、その指を自分の舌に近付けると、用心深くそっと舐めている。そして、エドワード・ジョージ・アームストロングは、「アンソニー・ジェイムズ・マーストンの死因は、おそらく青酸カリだ。」と、皆に告げている。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、このような場面はない。翌朝、迎えのボーターボートを待つ中、アンソニー・ジェイムズ・マーストンの部屋を訪れたウィリアム・ヘンリー・ブロアが、アンソニー・ジェイムズ・マーストンの口元からアーモンドの臭いがすることに気付き、後から部屋にやって来たフィリップ・ロンバードに、そのことを告げている。


(10)

<原作>

アンソニー・ジェイムズ・マーストンが亡くなった後、エドワード・ジョージ・アームストロングとフィリップ・ロンバードの2人が、アンソニー・ジェイムズ・マーストンの遺体を彼の部屋へと運んでいる。

自分の部屋で休むエセル・ロジャーズを除く他の皆は、応接室で待っていた。

<英国 TV ドラマ版>

アンソニー・ジェイムズ・マーストンが亡くなった後、エドワード・ジョージ・アームストロング、フィリップ・ロンバードとウィリアム・ヘンリー・ブロアの3人が、アンソニー・ジェイムズ・マーストンの遺体を彼の部屋へと運んでいる。

その際、フィリップ・ロンバードが、アンソニー・ジェイムズ・マーストンを安置したベッド脇にあるテーブルの引き出しから、コカインが入ったケースを見つけている。


(11)

<原作>

ゲスト達が各自の部屋へ退いた後、トマス・ロジャーズが食堂のテーブルを片付けている時、テーブルの上にある人形の数が10個から9個へと減っていることに気付く。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、このような場面はない。


(12)

英国 TV ドラマ版

ゲスト達が各自の部屋へ退いた後、トマス・ロジャーズがキッチンで後片付けをしている時、何者かがエセル・ロジャーズの部屋のドアをノックする。

<原作>

原作の場合、このような場面はない。


(13)

<原作>

翌朝、エドワード・ジョージ・アームストロングが悪夢から目覚めると、真っ青な顔をしたトマス・ロジャーズが彼の上に屈み込んで、彼を揺さぶっていた。「妻(エセル・ロジャーズ)が目を覚さない。何か様子がおかしい。」とのことだった。

英国 TV ドラマ版

翌朝、エドワード・ジョージ・アームストロングが悪夢から目覚めると、彼の部屋のドアをトマス・ロジャーズがノックしているところだった。「妻(エセル・ロジャーズ)が目を覚さない。何か様子がおかしい。」と言って。英国 TV ドラマ版の場合、原作とは異なり、トマス・ロジャーズは、エドワード・ジョージ・アームストロングの部屋の中まで立ち入っていない。


(14)

<原作>

翌朝、午前9時からの朝食が終わった後、エドワード・ジョージ・アームストロングは、他のゲスト達に対して、「エセル・ロジャーズが眠っている間に亡くなった。ただし、死因については、現時点では、はっきりしない。」と告げている。

英国 TV ドラマ版

トマス・ロジャーズに呼ばれて、エセル・ロジャーズの死亡を確認したエドワード・ジョージ・アームストロングが、自分の部屋へ戻るために、地下から上がって来た際、1階に居たヴェラ・エリザベス・クレイソーンに尋ねられて、エセル・ロジャーズが亡くなったことを告げている。


(15)

<原作>

朝食を終えたゲスト達が迎えのモーターボートを待つ中、テラスに居たエドワード・ジョージ・アームストロングのところへ、トマス・ロジャーズが慌てた様子でやって来る。そして、「食堂のテーブルの上にある人形の数が10個から、昨晩、9個へ、そして、今朝、8個へと減っている。」と話した。

英国 TV ドラマ版

英国 TV ドラマ版の場合、上記(14)の時点で、食堂のテーブルの上にある人形の数が10個から8個へと減っているのを、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが見つけて、エドワード・ジョージ・アームストロングに対して、疑問を呈している。


ここで、英国 TV ドラマ版の「エピソード1」は、終わりを迎えるのである。