2022年4月23日土曜日

ボニー・マクバード作「シャーロック・ホームズの冒険 / 芸術家の血」(A Sherlock Holmes Adventure / Art in the Blood by Bonnie MacBird) - その2

英国の HarperCollinsPublishers 社から
Collins Crime Club シリーズの1冊として
2015年に出版されたボニー・マクバード作
「シャーロック・ホームズの冒険 / 芸術家の血」(ハードカバー版)の裏表紙
Jacket Layout Design : HarperCollinsPublishers Ltd.
Jacket Images : Shutterstock.com


翌朝、ハドスン夫人が、パリから届いた1通の手紙をシャーロック・ホームズに渡す。

差出人は、ナイトクラブの花形シャンソン歌手で、「シェリ・スリーズ(Cherie Cerise)」と呼ばれるエムリーヌ・ラ・ヴィクトワール(Emmeline La Victoire)で、英国のペリンガム伯爵(Earl of Pellingham)との間にできた10歳になる息子のエミール(Emil)が、父親の地所から姿を消して、行方不明になっていると言う。誘拐、あるいは、それ以上の恐ろしいことになっている可能性に怯える彼女は、失踪した息子を捜してほしいという切羽詰まった訴えを、手紙に記していた。

彼女は、年に一度、クリスマスの時季に限って、ロンドンでエミールに面会することが許されていた。ところが、1週間前、彼女のところに手紙が届き、今年の面会は中止になる上、今後もずーっと会えなくなる可能性が示唆されていた。早速、彼女がペリンガム伯爵宛に照会の電報を打ったところ、翌日、彼女が通りを歩いていた時、凶暴そうなゴロツキが彼女に近付いて来て、「これ以上、余計なことをするな!」と脅した、とのこと。

彼女から届いた二重仕掛けの手紙の文面にひどく興味をそそられたホームズは、相棒のジョン・H・ワトスンを伴って、早速、パリへ赴くことを決める。


ペリンガム伯爵とは、英国でも最上級に裕福な貴族で、貴族院において、絶大な権力を有しており、慈善家で、かつ、膨大な美術品のコレクターとして、広く世間に知られていた。

ヴィクトリア駅(Victoria Station)からドーヴァー(Dover)行きの列車の中で、ホームズは、ワトスンに対して、「兄マイクロフト(Mycroft)からの手紙は、ペリンガム伯爵、つまり、「E/P (= Earl of Pellingham)」を名指ししている。」と話し始めた。ホームズによると、兄マイクロフトは、ペリンガム伯爵がマトモではない手段で美術品を蒐集していると疑っている、とのこと。


今回、ペリンガム伯爵が大きくクローズアップされている理由は、今年の初めに発掘されたギリシアの像「マルセイユのニケ(Marseilles Nike)」の盗難に彼が深く関与しているのではないかという疑いがかけられているからである。

「マルセイユのニケ」は、「エルギン・マーブル(Elgin Marbles)」以来の重大な発見で、美しさでは「サモトラケのニケ(Winged Victory)」を凌ぐと言われていた。

(1)「マルセイユのニケ」を発掘したのは、英国人貴族であること、(2)フランスが発掘資金を提供したこと、そして、(3)発掘現場がギリシアであることから、少なくとも、3つの国家(英国、フランスとギリシア)が「マルセイユのニケ」の所有権を争ったが、最終決着がつかないまま、とりあえず、像はルーヴル美術館(Louvre)へと運ばれることになった。

ところが、ギリシアからルーヴル美術館へと運ばれる途中のマルセイユにおいて、像は、跡形もなく、突然、消え失せてしまったのである。それが、今から3ヶ月前のことだった。

像の盗難に際して、4人の男性が残酷な手口で殺害されていた。英国、フランスとギリシアの各政府は、大金を投入して、「マルセイユのニケ」の行方を捜索するとともに、殺人事件の犯人を捕らえようとしたが、全てが無駄に終わり、現在に至っている。


マイクロフト・ホームズは、ペリンガム伯爵を覆う厚いカーテンを取り払って、彼への捜査を可能とする理由を必要としていた。そこへ、エムリーヌ・ラ・ヴィクトワールからの手紙が届いた。

シャーロック・ホームズとしては、パリで彼女に会うことで、ペリンガム伯爵の内情に近付くことができるのではないかと期待していた。それで、彼女からの依頼を受けたのだと言う。


果たして、光の都パリにおいて、ホームズとワトスンの2人を、一体、何が待ち構えているのだろうか?


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