英国で出版された「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」 1910年12月号に掲載された挿絵(その5)- トレダニックウォーサ村に住む二人の兄弟(オーウェンとジョージ)と妹(ブレンダ)に続いて、 モーティマー・トレゲニスも、間借りしている牧師館の自室において、 謎の死を迎えたのである。 挿絵:ギルバート・ホリデイ(Gilbert Holiday 1879年 - 1937年) |
1897年の春、過労と不摂生により健康を害していたシャーロック・ホームズのことを心配したジョン・H・ワトスンは、彼を連れて、コンウォール州(Cornwall)へ転地療養に来ていた。
3月16日(火)の朝、ホームズとワトスンが朝食を終えたところ、コテージ近くのトレダニックウォラス村のラウンドヘイ牧師(Mr Roundhay)と牧師館に間借りしているモーティマー・トレゲニス(Mr Mortimer Tregennis)の二人が、突然、訪ねてくる。
モーティマー・トレゲニスによると、昨晩、彼は、トレダニックウォーサ(Tredannick Wartha)村に住む二人の兄弟(オーウェン(Owen)とジョージ(George))と妹(ブレンダ(Brenda))が住む家を訪ねた、とのこと。彼ら4人は、一緒に夕食をとった後、そのままトランプゲームを楽しんだ。午後10時過ぎに、モーティマーは、上機嫌で食堂のテーブルを囲んでいる3人を残して、自分が住む牧師館へと帰って来た。
今朝、モーティマーが、再度、3人を訪問してみると、食堂の椅子に座ったまま、オーウェンとジョージの2人は発狂しており、そして、ブレンダは息絶えていたのである。更に、3人とも、顔に恐怖の表情を浮かべていた。
モーティマーによると、彼は、以前、他の3人との間で財産上の争いがあったため、彼らとは別居したが、現在は良好な関係だと語ると、ホームズ達に対して、「これは、悪魔の所業ではないか?」と主張するのであった。
モーティマーが帰った後、オーウェン、ジョージとブレンダの3人に、一体、何が起きたのであろうか?モーティマーから事件のことを聞かされたホームズは、ワトスンとともに、調査に乗り出す。
英国で出版された「ストランドマガジン」 1910年12月号に掲載された挿絵(その6)- 謎の死を遂げたモーティマー・トレゲニスの部屋にあるランプから採取した 灰を燃やして、幻覚症状に陥ったホームズを、 ワトスンがなんとか助け出して、 コテージ外の芝の上に身を投げ出した。 挿絵:ギルバート・ホリデイ(Gilbert Holiday 1879年 - 1937年) |
現場の調査を終えて、ホームズとワトスンの二人が、その日の午後、コテージに戻って来ると、そこには、近所の住人で、有名なライオン狩りの名手 / アフリカ探検家であるレオン・スターンデイル博士(Dr Leon Sterndale)が待っていた。
スターンデイル博士は、再びアフリカへ向かうため、プリマス(Plymouth)まで行ったが、そこで事件のことを知らせる電報を受け取ったので、アフリカ行きを遅らせ、急いで戻って来たのである。
スターンデイル博士は、トレゲニス一家とは親戚筋に該り、事件を解決する手助けをしたいので、捜査の状況を聞きたいと頼む。ところが、ホームズは、スターンデイル博士に対して、具体的なことは何も話さなかったため、スターンデイル博士は、気分を害して、立ち去ってしまう。スターンデイル博士が立ち去ると直ぐに、ホームズは彼を尾行するために出かけて、晩まで戻って来なかった。
その翌朝、ワトスンが窓辺で髭を剃っていると、ラウンドヘイ牧師が狂乱の体で駆け込んで来た。「ホームズさん、わしらには、悪魔がついとるんじゃ!哀れなわしの教区には、悪魔がついとるんじゃ!(We are devil-ridden, Mr Holmes! My poor parish is devil-ridden!)」と、彼は叫んだ。
今度は、モーティマー・トレゲニスが、間借りしている牧師館の自室において、妹のブレンダと同じような状態で死んでいるのが見つかったのである。彼も、顔に恐怖の表情を浮かべていた。
モーティマーの自室では、ランプが燻っているためか、空気が非常に淀んでいた。現場を調査したホームズは、ランプから灰を採取する。この採取された灰に、恐るべき真実が隠されていたのである。
英国で出版された「ストランドマガジン」 1910年12月号に掲載された挿絵(その7)- 謎の死を遂げたモーティマー・トレゲニスの殺害犯として、 ホームズは、有名なアフリカ探検家である レオン・スターンデイル博士を名指しする。 挿絵:ギルバート・ホリデイ(Gilbert Holiday 1879年 - 1937年) |
この事件では、アフリカだけに存在する毒物である「悪魔の足の根(Radix pedis diaboli)」が使用され、燃焼させると、幻覚症状を引き起こすとともに、致死性の有毒ガスを発生させるという設定になっている。しかも、サンプルがないため、欧州では検出すらできないという。
「悪魔の足の根」については、現代でも明らかにされていないため、それが如何なるものなのかが、未だに、シャーロキアン達の間では、研究のテーマの一つになっている。
「悪魔の足」事件の舞台は、コーンウォール州である。1909年2月に、作者のサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)は、療養のため、コンウォール州に滞在して、コンウォール語の研究をしたことがあったので、その時の滞在経験がベースとなり、事件の舞台として、コーンウォール州を選んだものと思われる。
実際、事件を解決した後、ホームズは、ワトスンに対して、「カルデア語のルーツを研究する生活に戻ろう。(And now, my dear Watson, I think we may dismiss the matter from our minds and go back with a clear conscience to the study of those Chaldean roots which are surely to be traced in the Cornish branch of the great Celtic speech.)」と促している。
「悪魔の足」は、ホームズシリーズの56ある短編小説のうち、40番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1910年12月号に、英国の画家であるギルバート・ホリデイ(Gilbert Holiday:1879年-1937年)による7枚の挿絵と一緒に、掲載された。
米国では、「ストランドマガジン」米国版の1911年1月号と同年2月号に掲載されたが、2回分に分ける関係上、7枚の挿絵では足らなかったため、挿絵が1枚追加されて、全部で8枚の挿絵となっている。
密室状態の中で、化学反応を起こさせて、殺人を行うという筋書きについて、発表当時、新鮮さがあったようで、読者には非常に好評だった。そのため、コナン・ドイル自身も、気に入ったようで、「ストランドマガジン」の1927年3月号において、自選の短編ベスト12の中で、本作品を第9位に推している。
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