大英図書館(British Library)から2016年に出版された マイルズ・バートン作「ハイエルダーシャムの秘密」の表紙 (Front cover : NRM / Pictorial Collection / Science Picture Library) |
「ハイエルダーシャムの秘密(The Secret of High Eldersham)」は、英国の作家であるセシル・ジョン・チャールズ・ストリート(Cecil John Charles Street:1884年ー1964年)が1930年にマイルズ・バートン(Miles Burton)名義で発表した推理小説である。
1884年5月3日にジブラルタルで出生したセシル・ジョン・チャールズ・ストリートは、英国陸軍の砲兵将校(artillery officer)として、軍のキャリアを始めた後、第一次世界大戦(World War I:1914年-1918年)等における活躍が評価されて、「武功十字章(MC)」や「大英帝国勲章(OBE)」を受賞している。
その後、1920年代から作家活動に入り、「ジョン・ロード(John Rhode)」名義で、プリーストリー医師(Dr. Priestley)を主人公にした推理小説シリーズを、1925年から1961年にかけて発表するとともに、「マイルズ・バートン」名義で、デズモンド・メリオン(Desmond Merrion)を主人公にした推理小説シリーズを、1930年から1960年にかけて発表した。セシル・ジョン・チャールズ・ストリートは、35年以上の間に、約140作に上る推理小説を執筆している。
「ハイエルダーシャムの秘密」は、アマチュア探偵であるデズモンド・メリオンが初登場するシリーズ第1作に該る。
デズモンド・メリオンは、元海軍士官(ex naval officer)で、第一次世界大戦において大怪我を負ったため、海軍省(Admiralty)の情報部(intelligence branch)へと異動。非常に富裕で、現在、メイフェア地区(Mayfair - ロンドンの高級住宅街)に住む。また、彼には、忠誠心が高い部下のニューポート(Newport)が、常に付き従っている、
1930年に英国で出版された「ハイエルダーシャムの秘密」が、1931年に米国で出版される際に、「The Mystery of High Eldersham」に改題されている。
大英図書館から2016年に出版された マイルズ・バートン作「ハイエルダーシャムの秘密」の裏表紙 |
「ハイエルダーシャムの秘密」は、イングランド東部のイーストアングリア地方(East Anglia)にある2つのパブの話から始まる。
ジィッピングフォード(Gippingford)という町にあるパブ「Tower of London」は非常に繁盛していたが、そこから離れたハイエルダーシャム(High Eldersham)という村にあるパブ「Rose and Crown」には、閑古鳥が鳴いていた。商売に行き詰まったパブ「Rose and Crown」の持ち主は、より良い場所を求めて、ハイエルダーシャム村を去ることになったが、空いたパブは、引退した元警察官であるサミュエル・ホワイトヘッド(Samuel Whitehead)が引き継いだのである。
サミュエル・ホワイトヘッドがパブ「Rose and Crown」の営業を引き継いでから、約4年半が経過したある夜、地元警察の警官が、夜間パトロール中に、パブにおいて、サミュエル・ホワイトヘッドが刺殺されているのを発見した。
地元警察からの要請を受けて、スコットランドヤードのヤング主任警部( Chief Inspector Young)が、現地へと派遣された。ハイエルダーシャム村は、絵に描いたように静かな村であったが、ヤング主任警部は、非常に謎が多い場所のように思えた。村の住民でない部外者は、村の住民達から激しい敵意を向けられるのである。サミュエル・ホワイトヘッドの殺害犯と思われる容疑者が現れるものの、何故か、鉄壁のアリバイが供される。
ハイエルダーシャム村には、何か表沙汰にできない秘密が隠されていると感じたヤング主任警部は、友人であるデズモンド・メリオンに対して、助けを求める。
ヤング主任警部からの依頼を受けたデズモンド・メリオンは、ハイエルダーシャム村に宿泊して、住民の動向を注視する。そして、彼は、ハイエルダーシャム村の背後に隠されている秘密を明らかにするのであった。
本作品は、全体で約250ページ強の分量であるが、非常に読みやすく、割合とどんどん読み進められる。
ただ、ハイエルダーシャム村の背後に隠されている秘密、また、パブ「Rose and Crown」の新オーナーであるサミュエル・ホワイトヘッドの殺害動機については、英国の推理作家で、プロデューサー、劇作家や脚本家でもあったアラン・メルヴィル(Alan Merville:1910年-1983年)作「アントンの死(Death of Anton → 2022年4月6日付ブログで紹介済)」(1936年)の場合と同様であり、本格推理小説を期待している読者としては、急に現実に引き戻されたような気がして、少し興醒めな感じだった。
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