サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「悪魔の足(The Devil’s Foot → 2022年3月26日 / 4月3日付ブログで紹介済)」は、シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、40番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1910年12月号に、また、米国では、「ストランドマガジン」米国版の1911年1月号と同年2月号に掲載された。また、同作品は、1917年に発行されたホームズシリーズの第4短編集「シャーロック・ホームズ最後の挨拶(His Last Bow)」に収録された。
本作品は、英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)において、TV ドラマとして映像化された。具体的には、第4シリーズ(The Return of Sherlock Holmes)の第1エピソード(通算では第21話)として、1988年に制作されている。
配役は、以下の通り。
(1)シャーロック・ホームズ → ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett:1933年ー1995年)
(2)ジョン・ワトスン → エドワード・ハードウィック(Edward Hardwicke:1932年ー2011年)
(3)レオン・スターンデイル博士(Dr. Leon Sterndale:有名なライオン狩りの名手 / アフリカ探検家)→ Denis Quilley
(4)モーティマー・トレゲニス(Mortimer Tregennis)→ Damien Thomas
(5)ラウンドヘイ牧師(Revend Roundhay)→ Michael Aitkens
(6)ポーター夫人(Mrs. Porter:トレゲニス家の家政婦)→ Freda Dowie
(7)オーウェン・トレゲニス(Owen Tregennis)→ Norman Bowler
(8)ジョージ・トレゲニス(George Tregennis)→ Peter Shaw
(9)ブレンダ・トレゲニス(Brenda Tregennis)→ Christine Collins
(10)リチャーズ医師(Dr. Richards)→ John Saunders
(11)地元警察の警部(Police Inspector)→ Frank Moorey
コナン・ドイルの原作では、ラウンドヘイ牧師の名前について言及されていないが、グラナダテレビ版では、フランシス(Francis)という名前が与えられている。
コナン・ドイルの原作では、トレダニックウォーサ(Tredannick Wartha)村に住むオーウェン、ジョージとブレンダのトレゲニス一家について、モーティマー・トレゲニスの「his two brothers, Owen and George, and his sister Brenda」という表現しか使われていないが、グラナダテレビ版では、映像的に、オーウェンとジョージの二人は、モーティマーの兄のようである。特に、ジョージに関して、モーティマーは、「Elder brother」というセリフを発していた。また、映像的に、ブレンダは、モーティマーの妹のようである。
グラナダテレビ版のストーリーは、概ね、コナン・ドイルの原作と同様であるが、以下のような相違点がある。
(1)
グラナダテレビ版の冒頭、何者かが誰かの家に侵入して、戸棚から薬のようなもの(後に、「悪魔の足(radix pedis diaboli / Devil’s foot root)」と判明)を盗む場面から始まるが、コナン・ドイルの原作には、そのような場面はない。
(2)
グラナダテレビ版では、ワトスンは、心身ともに疲労したホームズを連れて、ロンドンを離れ、コンウォール州(Cornwall)のトレダニックウォラス(Tredannick Wollas)村の近くにあるコテージにおいて、療養の日々を過ごしていた際、同村のラウンドヘイ牧師がコテージを訪れて来て、ホームズとワトスンの二人と知り合いになる場面が、キチンと追加されている。また、ラウンドヘイ牧師が、考古学(archaeology)に興味を持っているという設定も付け加えられている。
コナン・ドイルの原作では、ラウンドヘイ牧師がホームズとワトスンの二人と知り合いになっていることは言及されているものの、ラウンドヘイ牧師が初めて登場するのは、モーティマー・トレゲニスと一緒に、事件のことをホームズとワトスンの二人に相談にやって来る場面である。
(3)
グラナダテレビ版では、海岸を散歩するホームズが、薬のアンプルを砂浜に埋めて、薬と決別する場面が描かれているが、コナン・ドイルの原作には、そのような場面はない。
(4)
コナン・ドイルの原作では、3月16日(火)、朝食をすませて、ホームズとワトスンの二人が居間(sitting room)に居るところへ、ラウンドヘイ牧師が、モーティマー・トレゲニスと一緒に、事件のことを相談にやって来る。
一方、グラナダテレビ版の場合、ラウンドヘイ牧師が、モーティマー・トレゲニスと一緒に、事件のことを相談にやって来た際、コテージに居たのは、ワトスンだけで、ホームズは海岸を散歩していて、不在だった。また、ラウンドヘイ牧師とモーティマー・トレゲニスが入って来たのは、コテージの玄関に面した食堂(dining room)だった。
(5)
コナン・ドイルの原作では、ラウンドヘイ牧師とモーティマー・トレゲニスから事件の話を聞いたホームズとワトスンは、即、トレダニックウォーサ村の現場へと向かう。その際、「our」や「we」という表現が使われているが、ホームズとワトスンの二人に、誰が同行しているのか、明確ではない。ただし、途中、発狂したオーウェンとジョージの二人を病院へと運ぶ馬車とすれ違った際、モーティマー・トレゲニスが言葉を発しているので、彼が同行しているのは間違いないが、ラウンドヘイ牧師が同行しているかについては、ハッキリしていない。
一方、グラナダテレビ版の場合、ホームズが、モーティマー・トレゲニスと一緒に、現場へと向かおうとした際、療養を理由に、ワトスンは、ホームズが事件に関わることに反対して、一旦、コテージに残るが、後から、ホームズとモーティマーの二人を追いかけて来る。従って、現場へと向かったのは、ホームズ、ワトスンとモーティマーの3人で、ラウンドヘイ牧師は、後から現場へと駆けつけて来た。
(6)
コナン・ドイルの原作では、現場の調査を終えて、ホームズとワトスンの二人が、その日の午後、コテージに戻って来ると、そこには、近所の住人で、有名なライオン狩りの名手 / アフリカ探検家であるレオン・スターンデイル博士が待っていた。
一方、グラナダテレビ版の場合、ホームズとワトスンの二人がレオン・スターンデイル博士と出会うのは、現場の調査を終えて、コテージへ一旦戻る途中、海岸の崖の上に座っている場面で、博士が突然姿を現わすのである。
(7)
グラナダテレビ版において、ホームズが「悪魔の足」の燃焼実験を行った際、ホームズが見た幻覚の中に、(1)ジェイムズ・モリアーティー教授(James Moriarty)と(2)英国の詩人、画家で、銅版画職人でもあるウィリアム・ブレイク(William Blake:1757年ー1827年)が描いた「巨大な赤い龍(Great Red Dragon)」が出てくる。
(8)
物語の最後、愛するブレンダ・トレゲニスを殺害したモーティマー・トレゲニスに罰を与えたレオン・スターンデイル博士を見逃したホームズがワトスンに対して発した非常に重要なセリフに、若干の違いがある。
(コナン・ドイルの原作)
‘I have never loved, Watson, but if I did and if the woman I loved had met such an end, I might act even as our lawless lion-hunter has done, Who knows?’
(グラナダテレビ版)
‘I have never loved. But if I did, and if the woman I had loved had met with such an end, I might act even as our lawless lion-hunter has done, Wouldn’t you?’
個人的には、ホームズのセリフは、コナン・ドイルの原作では、「自分への問い掛け」で、グラナダテレビ版では、「ワトスンへの問い掛け」になっているように思われる。
ただし、これは、グラナダテレビ版の場合、コナン・ドイルの原作にはない「Not for the first time, Holmes, you presume to take the law into your own hands.」というセリフを、ワトスンがホームズに対して投げ掛けているからである。
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