2022年1月22日土曜日

ジョン・ディクスン・カー作「カー短編全集2 妖魔の森の家」(The Third Bullet and Other Stories by John Dickson Carr) - その5

ハヤカワ文庫で出版されている
カーター・ディクスン作「第三の銃弾〔完全版〕」
(カバー装画: 山田 維史氏)


「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)作「カー短編全集2 妖魔の森の家(The Third Bullet and Other Stories)」には、今までに4回にわたって紹介した妖魔の森の家(The House in Goblin Wood)」(1947年)の他に、以下の4短編が収録されている。


(1)「軽率だった夜盗(The Incautious Burglar)」(1947年) → 原題「A Guest in the House」


ケント州(Kent)内の荒涼した平原を見下ろす丘の上に建つクランレイ荘の持ち主であるマーカス・ハントは、莫大な値打ちの絵画(レンブラントの作品2枚とヴァン・ダイクの作品1枚)を所蔵していた。彼は、それらの絵画に保険もかけないで、階下の庭に面した部屋に掛けていた。今まで山荘内に設置してあった夜盗避けの警報装置についても、のこらず取り除いてしまっていて、まるで盗みに入られるのを待っていると言わんばかりである。

その日、マーカス・ハントは、美術商のアーサー・ロルフと美術批評家のデリク・ヘンダーソンを山荘に招いていた。彼らの他に、マーカス・ハントの姪であるハリエット・ディヴィスの知り合いであるルイス・バトラーも、山荘に滞在していた。実は、ルイス・バトラーは、スコットランドヤード犯罪捜査課(CID)の警部補で、マーカス・ハントの要請に基づき、山荘に派遣されていた。ただし、ルイス・バトラー自身、その理由に関して、マーカス・ハントから説明を受けていなかったのである。

果たして、その夜(2時過ぎ)、クランレイ荘は、夜盗に襲われた。

階下の物音に気付いたみんなが駆け付けてみると、食堂内で、夜盗が胸を刺されて殺されていた。ルイス・バトラーが死体に歩み寄って、帽子や黒布のマスクを取り去ったところ、夜盗の正体は、山荘の主人であるマーカス・ハントであることが判明したのである。

マーカス・ハントは、自分自身の山荘内の絵画を盗み出す最中に、何者かに殺害されたということか?

ルイス・バトラーの依頼を受けたギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が、この矛盾した謎に挑む。


当作品は、ジョン・ディクスン・カーが、カーター・ディクスン(Carter Dickson)名義で、1942年に長編として発表した「仮面荘の怪事件(The Gilded Man)」の短編版である。なお、長編「仮面荘の怪事件」では、ギディオン・フェル博士ではなく、ヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)が探偵役を務めている。


(2)「ある密室(The Locked Room)」(1943年)


書籍収集家のフランシス・シートンが、自分の書斎において、凶漢に襲われ、頭部を強打された。

隣りの部屋には、秘書兼タイピストのアイリス・レインと図書係のハロルド・ミルズの二人が居て、フランシス・シートンの呻き声を聞き付けて、書斎へ通じる扉を破ったところ、フランシス・シートンは、半死半生の状態で、デスクの後ろの床の上で昏倒していた。

アイリス・レインとハロルド・ミルズの二人が、フランシス・シートンの書斎を調べたが、外から第三者が入り込んだ形跡は見当たらず、また、書斎内の二つの窓は、外からは開かない状態だった。

当然のことながら、アイリス・レインとハロルド・ミルズの二人による凶暴という線が疑われたが、命をとりとめたフランシス・シートンによると、使用人である二人の証言は全て事実で、書斎内に誰かが忍び込んで来て、自分を殴打したのだと認めたのである。

スコットランドヤードのハドリー警視の依頼を受けたギディオン・フェル博士が、完全な密室状況で発生するした事件の謎に挑む。


(3)「赤いカツラの手がかり(The Clue of the Red Wig)」(1948年)


ベイズウォーター地区(Bayswater)内の住宅地ヴィクトリアスクエア(Victoria Square)の中央に、居住者だけが出入りできる小公園(communal garden)があり、ある日の午後11時頃、ヘイゼル・ローリングが、裸同然の格好で死んでいるのを、巡回中の警官が発見した。

彼女は、把手に鉛を詰めた散歩用のステッキにより、数回殴打されて、頭蓋骨骨折の状態だった。その後、ベンチに腰掛けるような格好で置き去りにされていた。実際、ベンチの後ろには、格闘した形跡が残されていた。

不思議なことは、ヘイゼル・ローリングが、下着だけを着けており、その他の服については、全部畳んで、ベンチに腰掛けた状態の彼女の隣りに置かれていたことである。

彼女は、「デイリー・バナー」紙において、毎週、「微笑で、スマートになろう」という署名入りの囲み記事を連載しており、世の主婦から絶大な支持を受けていた。

この謎に対して、デイリー・バナー」紙の対抗紙である「デイリー・レコード」紙のフランス人女性記者であるジャックリーヌ・デュボアによる示唆を受けつつ、スコットランドヤード犯罪捜査課のアダム・ベル警部が挑む。


(4)「第三の銃弾(The Third Bullet)」(1947年)


本作品は、短編と言うよりは、中編の長さであるが、詳細については、2019年12月22日 / 12月29日、そして、2020年1月4日 / 1月26日 / 2月2日付ブログで既に紹介済なので、そちらを御参照願います。


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