2022年1月9日日曜日

ジョン・ディクスン・カー作「カー短編全集2 妖魔の森の家」(The Third Bullet and Other Stories by John Dickson Carr) - その4

クラリッジズホテルの正面玄関―
正面玄関の上には、「くるみ割り人形」をテーマとしたクリスマス用の装飾が為されている

1970年に東京創元社から創元推理文庫として出版されているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)作「カー短編全集2 妖魔の森の家(The Third Bullet and Other Stories)」の冒頭を飾るのは、短編「妖魔の森の家(The House in Goblin Wood)」であるが、同作品内には、ロンドン市内の場所がいくつか出てくるので、引き続き、写真と一緒に、紹介したい。

なお、同作品内の文章については、上記の「カー短編全集2 妖魔の森の家」(宇野 利泰訳)から引用している。



(7)

『車内に積みこんだ三個の大型バスケットは、フォートナム・アンド・メイスンの店で仕込んだピクニック用の料理で、藤細工の蓋がもちあがっていた。』


ピカデリー通りの対岸から見た「フォートナム&メイソン」本店の正面玄関とその外壁


「フォートナム&メイスン(Fortnum & Mason)」は、ロンドンを拠点とする老舗百貨店である。同百貨店は、一般に「フォートナムズ(Fortnum’s)」と略される。


「フォートナム&メイソン」本店の外壁(その1)


フォートナム&メイスンは、1707年にウィリアム・フォートナム(William Fortnum)とヒュー・メイスン(Hugh Mason)により創業され、本店は、ロンドン中心部のシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)メイフェア地区(Mayfair)内にあるピカデリー通り181番地(181 Piccadilly)に所在している。


「フォートナム&メイソン」本店の外壁(その2)


食料品雑貨店として創業したフォートナム&メイスンは、高品質の食品を提供し、急速に世間の評判を高め、最終的には、総合百貨店にまで発展した。現在、フォートナム&メイスンは、外国の食材や特産品等を含めた様々な食料品を揃えているが、特に、紅茶の販売で有名である。また、英国王室から王室御用達の店舗として認定され、既に150年以上が経過している。


フォートナム&メイスンは、今のところ、ウィッティントン投資会社(Wittington Investments Limited)が保有している。



(8)

『H・Mはクラリッジ・レストランに立ちよって、海老の皿をつつき、ピーチ・メルバのデザートを味わい、』

クラリッジズホテルの建物正面の外壁


ヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)が食事のために立ち寄った「クラリッジズホテル(Claridge's Hotel)」は、ロンドン中心部のシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)メイフェア地区(Mayfair)にあるブルックストリート(Brook Street)とディヴィスストリート(Davies Street)が交差する南東の角に建っている。

(詳細については、2014年12月31日付ブログを御参照。)


クラリッジズホテルの正面玄関―
正面玄関の上には、クリスマス用の装飾が為されている


クラリッジズホテルは、元々1812年にフランス人ミヴァール(Mivart)によって「ミヴァールズホテル(Mivart's Hotel)として創業された。当時、ロンドンには豪華な宿泊設備を有するホテルがまだなかったため、彼のホテル業は大成功をおさめた。

1854年、ミヴァールズホテルの隣のホテルを所有していたクラリッジ夫妻(Mr. and Mrs. Claridge)に売却され、両ホテルの経営が一つになったのである。そして、ホテルの名前も、現在の「クラリッジズホテル」として通用するようになった。

クラリッジ夫妻の死後、サヴォイホテル(Savoy Hotel)の創業者であるリチャード・ドイリー・カルト(Richard D'oyly Carte)が1894年にクラリッジズホテルを買い取り、サヴォイホテルグループに編入させた。当時、リフトをはじめとする現代的な設備を設置するニーズがあり、1895年に古い建物が取り壊されて、203の客室を擁する現在の壮大な建物が建設され、1898年に再オープンした。外観はヴィクトリア様式で、ロビーはアール・デコ様式の重厚な構えとなっている。


クラリッジズホテルを囲む柵に施されたクリスマス用装飾


以降、クラリッジズホテルは、英国の王族や貴族をはじめ、世界各国のVIPや名士等に多く利用され、その中にはケリー・グラント(Cary Grant)、オードリー・ヘップバーン(Audrey Hepburn)、アルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)、ブラッド・ピット(Brad Pitt)、U2やマライア・キャリー(Mariah Carey)等が含まれている。



(9)

『時間ハズレの食事をとってから、ブルック・ストリートの屋敷へ帰って、不快な眠りについた。』

ブルックストリート沿いの街並み

ブルックストリート(Brook Street)は、ロンドン中心部のシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)メイフェア地区(Mayfair)内にある通りで、東側はハノーヴァースクエア(Hanover Square → 2015年2月28日付ブログで紹介済)から始まり、西側はグローヴナースクエア(Grosvenor Square → 2015年2月22日付ブログで紹介済)まで続いている。オックスフォードサーカス(Oxford Circus)とマーブルアーチ(Marble Arch)を結ぶ幹線道路であるオックスフォードストリート(Oxford Street → 2016年5月28日付ブログで紹介済)から南へ少し下ったところを、ブルックストリートは走っている。

(詳細については、2015年4月4日付ブログを御参照。)


この通りは18世紀前半に開発され、その名前は近くにあったパブ「タイバーン・ブルック(Tyburn Brook)」に由来している、とのこと。

ブルックストリート沿いには、ハノーヴァースクエアとグローヴナースクエアが、また、「ソア橋の謎(The Problem of Thor Bridge →2021年6月5日 / 6月13日 / 6月27日付ブログで紹介済)」の舞台となったクラリッジズホテル等がある。

ジミ・ヘンドリックスのブループラークの青色と
ヘンデルハウス博物館の旗の赤色が建物の外壁にうまくマッチしている


ハノーヴァースクエアの近くには、米国人のミュージシャン/シンガーであるジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix:1942年ー1970年 → なお、本名はジェイムズ・マーシャル・ヘンドリックス(James Marshall Hendrix))が住んでいた「ブルックストリート23番地」とドイツ人(後に英国に帰化)の作曲家であるゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル(Georg Friedrich Handel:1685年ー1759年)が住んでいた「ブルックストリート25番地」が隣り合っている。ちなみに、「ブルックストリート25番地」は、現在、ヘンデルハウス博物館(Handel House Museum)となっているが、ブルックストリート側ではなく、建物の裏側から入館する扱いである。


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