読後の私的評価(満点=5.0)
(1)事件や背景の設定について ☆☆☆半(3.5)
遺言書の内容が変更された途端、その受益者が殺害される。ただし、その受益者は、重い肝臓病を患っており、余命数週間の命で、遺贈者よりも長生きできる可能性はゼロに近いという変わった設定である。しかも、検死審問において、彼の肝臓は健全で、全く何の問題もなかったというどんでん返しがある。
事件に関しても、目撃者がゴルフクラブで撲殺したと証言した人物は、エルキュール・ポワロやスコットランドヤードのエドワード・キャッチプール警部(Inspector Edward Catchpool)達よりも後から、一つしかない階段を降りて来ており、彼らとすれ違わないで、上階へは戻れないという不可能状況にある。
更に、実際の死因は、撲殺ではなく、毒殺だったというどんでん返しが続く。
(2)物語の展開について ☆☆半(2.5)
背景や事件の設定は、非常に面白い。
ただ、事件が発生するのが、全体の約 1/3 を過ぎたところで、上記の2つのどんでん返しが明らかになるのが、全体の6割近くを過ぎた辺りとなっていて、残りの4割位の部分に、更に重要な過去の経緯等の話が詰め込まれている。そのため、事件発生後から検死審問までの展開が停滞してしまっている。登場人物の数名が「検死審問でハッキリとするまでは、何も話せない。」等と言って、詳しい説明を拒否したりと、中弛みとなっている。
実際、解決編には、かなりのページが割かれていることもあって、検死審問以降の話が、かなり駆け足の展開になってしまっている。
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(3)ポワロ / キャッチプール警部の活躍について ☆☆半(2.5)
ポワロの若き友人であるキャッチプール警部が物語の記述者になっていることもあるが、ポワロが結構別行動をしたりしているので、ポワロが活躍しているという感じが非常に弱い。
また、アーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)のような民間人であれば、まだしも、キャッチプール警部はスコットランドヤードの本職であるにもかかわらず、ポワロに言われた通りに、事件の関係者に証言を求めたり、相手の言うことを黙って聞くだけで、自分の推理を展開しない。正直ベース、物語の記述者として、警察関係者を使うのは、逆に、当人の業務遂行能力を疑われることになるので、あまり宜しくない。
(4)総合評価 ☆☆半(2.5)
背景の設定は面白いものの、実際には、あまりうまく生かしきれていない。
詳細には書けないが、殺害のタイミングとして、犯人は「この時しかなかった。」と言うが、「本当になかったのか?」と、犯人に対して問いたい位である。更に言えば、「ストリキニーネは、即効性の毒物ではないのか?」と、著者に対して問いたい。
また、事件の設定も面白いが、慣れた読者であれば、ある程度の推測は可能である。目撃者による錯誤があるのだが、正直、著者の書き方として、あまりフェアではないと思う。
良い背景や事件の設定をしているにもかかわらず、その設定をうまく活用できていない。これらの設定をうまく生かしきれば、物語のトーンは重くなるものの、もっと心に残る悲劇的な話にできたような気がする。
探偵小説について、こういう言い方をしては良くないのかもしれないが、容疑者の数名は単に居るだけの存在になっていて、物語の展開上、あまり面白くない。
主要な容疑者に関しても、設定をもっとうまくリンクさせれば、もっと厚みのある物語にできたのではないかと考える。
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