2018年1月27日土曜日

ロンドン グリニッジ(Greenwich)

快走帆船のカティーサーク号

サー・アーサー・コナン・ドイル作「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)では、若い女性メアリー・モースタン(Mary Morstan)がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れて、風変わりな事件の調査依頼をする。

カティーサーク号は、中国のお茶等を運んでいた
カティーサーク号の縦断面模型

元英国陸軍インド派遣軍の大尉だった彼女の父親アーサー・モースタン(Captain Arthur Morstan)は、インドから英国に戻った10年前に、謎の失踪を遂げていた。彼はロンドンのランガムホテル(Langham Hotel→2014年7月6日付ブログで紹介済)に滞在していたが、娘のモースタン嬢が彼を訪ねると、身の回り品や荷物等を残したまま、姿を消しており、その後の消息が判らなかった。そして、6年前から年に1回、「未知の友」を名乗る正体不明の人物から彼女宛に大粒の真珠が送られてくるようになり、今回、その人物から面会を求める手紙が届いたのである。
彼女の依頼に応じて、ホームズとジョン・H・ワトスンの二人は彼女に同行して、待ち合わせ場所のライシアム劇場(Lyceum Theatreー2014年7月12日付ブログで紹介済)へ向かった。そして、ホームズ達一行は、そこで正体不明の人物によって手配された馬車に乗り込むのであった。

カティーサーク号の模型

ホームズ、ワトスンとモースタン嬢の三人は、ロンドン郊外のある邸宅へと連れて行かれ、そこでサディアス・ショルト(Thaddeus Sholto)という小男に出迎えられる。彼が手紙の差出人で、ホームズ達一行は、彼からモースタン嬢の父親であるアーサー・モースタン大尉と彼の父親であるジョン・ショルト少佐(Major John Sholto)との間に起きたインド駐留時代の因縁話を聞かされるのであった。
サディアス・ショルトによると、父親のジョン・ショルト少佐が亡くなる際、上記の事情を聞いて責任を感じた兄のバーソロミュー・ショルト(Bartholomew Sholto)と彼が、モースタン嬢宛に毎年真珠を送っていたのである。アッパーノーウッド(Upper Norwood)にある屋敷の屋根裏部屋にジョン・ショルト少佐が隠していた財宝を発見した彼ら兄弟は、モースタン嬢に財宝を分配しようと決めた。

カティーサーク号の甲板からは、
テムズ河越しに、
カナリーワーフ(Canary Whard)に建つ
高層ビル群が見える

しかし、ホームズ一行がサディアス・ショルトに連れられて、バーソロミュー・ショルトの屋敷を訪れると、バーソロミュー・ショルトはインド洋のアンダマン諸島の土着民が使う毒矢によって殺されているのを発見した。そして、問題の財宝は何者かによって奪い去られていたのである。
ホームズの依頼に応じて、ワトスンは、ランベス地区(Lambeth)の水辺近くにあるピンチンレーン3番地(No. 3 Pinchin Lane→2017年10月28日付ブログで紹介済)に住む鳥の剥製屋シャーマン(Sherman)から、犬のトビー(Toby)を借り出す。そして、ホームズとワトスンの二人は、バーソロミュー・ショルトの殺害現場に残っていたクレオソートの臭いを手掛かりにして、トビーと一緒に、現場からロンドン市内を通り、犯人の逃走経路を追跡して行く。

カティーサーク号のメインマスト

ホームズとワトスンの二人が、犬のトビーと一緒に、ストリーサム地区(Streatham→2017年12月2日付ブログで紹介済)、ブリクストン地区(Brixton→2017年12月3日付ブログで紹介済)、キャンバーウェル地区(Camberwell→2017年12月9日付ブログで紹介済)、オヴァールクリケット場(Oval)を抜けて、ケニントンレーン(Kennington Lane→2017年12月16日付ブログで紹介済)へと達した。そして、彼らは更にボンドストリート(Bond Street→2017年12月23日付ブログで紹介済)、マイルズストリート(Miles Street→2017年12月23日付ブログで紹介済)やナイツプレイス(Knight’s Place→2017年12月23日付ブログで紹介済)を通って、ナインエルムズ地区(Nine Elms→2017年12月30日付ブログと2018年1月6日付ブログで紹介済)までやって来たが、ブロデリック&ネルソンの材木置き場という間違った場所に辿り着いてしまった。どうやら、犬のトビーは、どこかの地点から違うクレオソートの臭いを辿ってしまったようだ。

カティーサーク号を操る舵輪

二人はトビーをクレオソートの臭いの跡が二つの方向に分かれていたナイツプレイスへと戻し、犯人達の跡を再度辿らせた。そして、彼らはベルモントプレイス(Belmon Place→2018年1月13日付ブログで紹介済)とプリンスズストリート(Prince’s Street→2018年1月13日付ブログで紹介済)を抜けて、ブロードストリート(Broad Street→2018年1月13日付ブログで紹介済)の終点で、テムズ河岸に出るが、そこは船着き場で、どうやら犯人達はここで船に乗って、警察の追跡をまこうとしたようだ。

カティーサーク号の船底

私達が渡し船の座席に座る際、「あの手の人達に関して大事なことは、」と、ホームズは言った。「彼らの情報がほんのちょっとでも重要かもしれないと、決して思わせないことだ。もしそう思わせたら、彼らは直ぐに牡蠣のように口をつぐんでしまう。彼らが言うことをしぶしぶ聞いてあげるふりをすれば、必要な情報は大抵聞き出せるのさ。」
「よく判ったよ。」と、私は言った。
「それでは、これからどうすれば良いと思うかい?」
「私なら、これから船を調達して、オーロラ号の跡を追って、テムズ河を下るな。」
「ワトスン、それは途方もなく大変な仕事になるぞ。オーロラ号が、こことグリニッジの間で、テムズ河の両側のどの船着き場に停泊しておるのか判らない。あの橋から下流には、浮き桟橋の迷路が何マイルにも渡っている。もし君一人でオーロラ号を捜そうとしたら、何日かかるのか判らないよ。」
「それじゃ、スコットランドヤードに頼もう。」
「駄目だ。最終局面になるまでは、アセルニー・ジョーンズをおそらく呼ばない。彼は悪い奴ではないから、立場上、彼の評判が悪くなるようなことはしたくないな。しかし、ここまで来た以上は、僕は自分自身でやり遂げたいという気持ちなんだ。」

帆船の舟先に取り付けられていた像が展示されている

’The main thing with people of that sort,’ said Holmes, as we sat in the sheet of the wherry. ’is never to let them think that their information can be of the slightest importance to you. If you do, they will instantly shut up like an oyster. If you listen to them under protest, as it were, you are very likely to get what you want.’
‘Our course now seems pretty clear,’ said I.
‘What would you do, then?’
‘I would engage a launch and go down the river on the track of the Aurora.’
‘My dear fellow, it would be a colossal task. She may have touched at any wharf on either side of the stream here and Greenwich. Below the bridge there is a perfect labyrinth of landing-places for miles. It would take you days and days to exhaust them, if you set about it alone!’
‘Employ the police, then.’
‘No, I shall probably call Athelney Jones at the last moment. He is not a bad fellow, and I should not like to do anything which would injure him professionally. But I have a fancy for working it out myself, now that we have gone so far.’

カティーサーク号の巨大な船体が
空中に支えられている
カティーサーク号の面舵

テムズ河(River Thames)を横切る渡し船の上で、ホームズが行なったワトスンとの会話の中に出てきたグリニッジ(Greenwich) とは、ロンドンの南東部にあるロンドン特別区の一つグリニッジ王立区(Royal Borough of Greenwich)内に所在する町で、テムズ河の南岸に位置している。

夜間照明により、カティーサーク号の巨大な船体が、闇夜に照らし出されている

テムズ河の水運と密接に結びついてきた港町は、「海事都市 / 河港都市グリニッジ(Maritime Greenwich)」として、ユネスコの世界遺産に登録されており、以下のような歴史的建造物群がある。
(1)グリニッジ天文台(Royal Observatory Greenwich)
(2)国立海事博物館(National Maritime Museum)
(3)旧王立海軍大学(The Old Royal Naval College)
(4)快走帆船のカティーサーク号(Cutty Sark)
(5)扇博物館(The Fan Museum)
(6)セントアルフィージ教会(St. Alfege Church)

テイト・ブリテン美術館(Tate Museum)に所蔵されている
絵画に描かれている旧王立海軍大学

グリニッジの場合、特にグリニッジ天文台がある町として非常に有名で、グリニッジ子午線(Greenwich Meridian=経度の 0 度線)がグリニッジ天文台を通っている。またm、協定世界時に置き換えられるまでの間、グリニッジ天文台での時間計測をベースとしたグリニッジ標準時(Green Mean Time)が用いられた。
現在、グリニッジは天体観測を主導する立場には最早ないが、天文学や航海術等に満ちたグリニッジは、今尚、多くの観光客を世界中から集めている。

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