創元推理文庫「ドラキュラ紀元」の表紙 表紙のオブジェは、松野光洋氏が造形。 |
アイルランド人の小説家であるブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1912年)が執筆したゴシック小説 / ホラー小説「吸血鬼ドラキュラ(Draculaー2017年12月24日付ブログと同年12月26日付ブログで紹介済)」(1897年)では、英国に一旦上陸した吸血鬼のドラキュラ伯爵(Count Dracula)は、アムステルダム大学の名誉教授であるエイブラハム・ヴァン・ヘルシング(Abraham Van Helsingー2017年12月31日付ブログで紹介済)達によって、英国から撃退され、最終的には、故郷のトランシルヴァニア(Transylvania)にあるドラキュラ城(Castle Dracula)へと逃げ帰るところを、彼らに滅ぼされる。そして、7年後、事件の関係者である新人事務弁護士ジョナサン・ハーカー(Jonathan Harker)と教師ウィルヘルミナ・マレー(Wilhelmina Murray)が結婚し、二人の間に生まれた子供が、ドラキュラ伯爵との闘いの最中、命を落とした北米的テキサス州の大地主クィンシー・モリス(Quincey Morris)に因んで、クィンシーと名付けられたところで、物語は終わりを迎える。これが、ブラム・ストーカーによる原作の結末である。
英国のファンタジー作家、映画批評家で、かつ、ジャーナリストでもあるキム・ニューマン(Kim Newman:1959年ー)は、ブラム・ストーカーの原作にあるような吸血鬼ドラキュラがヴァン・ヘルシング教授達に敗れて滅ぼされるのではなく、逆に、ドラキュラ伯爵がヴァン・ヘルシング教授に打ち勝って、彼を殺害したところから、物語を始めている。これが、3部作続くキム・ニューマンの長編第1作「ドラキュラ紀元(Anno Dracula)」で、1992年10月に発表された。
ヴァン・ヘルシング教授を破ったドラキュラ伯爵は、更にクィンシー・モリスやジョナサン・ハーカーを殺害した後、ジョナサン・ハーカーの婚約者であるウィルヘルミナ・マレーを吸血鬼へと変え、ドラキュラの花嫁達の中に加える。そして、ドラキュラ伯爵は英国内に吸血鬼を次々と増やしていった。やがて、ドラキュラ伯爵は、英国のヴィクトリア女王(Queen Victoriaー2017年12月10日付ブログと同年12月17日付ブログで紹介済)と結婚し、「王配下(Prince Consort)」として、遂に英国全土を手中に収めたのである。
時に1888年、ロンドンのホワイトチャペル地区(Whitechapel)では、吸血鬼の娼婦ばかりが惨殺される事件が発生していた。吸血鬼にはまだなっていない人間である諜報部員のチャールズ・ボウルガード(Charles Beauregard)は、謎のディオゲネスクラブ(Diogenes Club)経由、英国の闇内閣の指示を受けて、連続殺人犯「銀ナイフ(Silver Knife)」こと、「切り裂きジャック(Jack the Ripper)」の事件捜査に乗り出すこととなった。
一方、ドラキュラ伯爵とは血統を異にする吸血鬼の美少女ジュヌヴィエーヴ・ディドネ(Genevieve Dieudonne)も、彼女なりの理由から、切り裂きジャックの正体を追い始める。
切り裂きジャックを個々に追うチャールズ・ボウルガードとジュヌヴィエーヴ・ディドネの二人は、やがて邂逅を迎える。そして、スコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)、更に、ジキル博士(Dr. Jekyll)までが、彼らなりの思惑で、二人の捜査に関与してくるのである。果たして、チャールズ・ボウルガードとジュヌヴィエーヴ・ディドネの二人は、連続殺人犯の切り裂きジャックを捕まえることができるのであろうか?
「ドラキュラ紀元」は、実在の人物(ヴィクトリア女王他)、キム・ニューマン自身が考案した架空のキャラクター(ジュヌヴィエーヴ・ディドネ→彼の他の作品にも登場)および他の作家が考案した架空のキャラクター(ブラム・ストーカーが考案したドラキュラ伯爵)は当然のこと、マイクロフト・ホームズ / レストレード警部(サー・アーサー・コナン・ドイルが考案)やジキル博士(ロバート・ルイス・スティーヴンソンが考案)等が虚実ないまぜとなった作品で、アナザーワールドにおける「吸血鬼ドラキュラ」の続編である。
1992年10月に発表された「ドラキュラ紀元」は、’Dracula Society’s Children of the Night Award’、’Lord Ruthven Assembly’s Fiction Award’ や ‘International Horror Guild Award (Best Novel)’ 等、数々の賞を受賞している。
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