東京創元社から、創元推理文庫として出版されている イーデン・フィルポッツ作「灰色の部屋」(新カバー版)の表紙 カバーイラスト: 松本 圭以子 氏 カバーデザイン: 中村 聡 氏 |
チャドランズ屋敷には、「灰色の部屋」と呼ばれる曰くつきの閉ざされた部屋があった。過去に、その部屋で、二人の人間が不可解な死を遂げていたのである。
1人目は、チャドランズ屋敷の主人である5代目準男爵ウォルター・レノックス卿が幼かった頃。
屋敷の者達は、「灰色の部屋」に対して、漠然とした嫌な気持ちを抱いていたため、その部屋に一度も滞在客を泊めたこともなく、その部屋は物置やガラクタ置き場となっていた。
ある年のクリスマスイヴの日、チャドランズ屋敷が滞在客で一杯だったところ、4代目準男爵レノックス卿(5代目準男爵ウォルター・レノックス卿の父親)の伯母(88歳)が、突然、屋敷を訪問した。屋敷の者達は、彼女をどこに泊まってもらったらよいか当惑していたところ、本人から「灰色の部屋に泊めてもらう」と言い張った。4代目準男爵レノックス卿自身は、その部屋に対して、嫌悪感や恐怖感を抱いていなかったため、伯母の提案には反対しなかった。
ところが、翌朝(クリスマスの朝)、彼女は死体となって発見されたのである。どうやら、彼女は寝ようとした際に倒れて死亡したらしい。呼ばれた医師によると、彼女の死には、疑わしい点は何もないということで、自然死以外の原因を考える余地は、何一つなかった。
2人目は、12年前だった。
5代目準男爵ウォルター・レノックス卿のひとり娘であるメアリが肺炎に罹り、危篤状態に陥ったため、至急、看護婦を派遣してもらう必要が生じた。5代目準男爵ウォルター・レノックス卿が看護婦会宛に電報で依頼した結果、フォレスター看護婦がチャドランズ屋敷へと派遣された。
フォレスター看護婦は、自分の部屋がメアリの部屋からかなり離れた廊下の反対側の突き当たりに用意されていると聞くと、「自分の部屋は、患者の部屋に近いところにしてほしい。」と望んだ。実は、メアリの部屋の隣りに、灰色の部屋が位置していたのである。5代目準男爵ウォルター・レノックス卿は、仕方なく、「灰色の部屋には、幽霊が出るという話なのだ。」と答えると、フォレスター看護婦は、「自分は、幽霊を怖がる人間ではない。」と笑い出したため、5代目準男爵ウォルター・レノックス卿としても、フォレスター看護婦の希望を聞き入れるしかなかった。
夜間にメアリの看護を担当する者(メアリの忠実な付き添いであるジェーン・ボンド)と交代すると、フォレスター看護婦は、「明朝は7時に起こしてくれ。」と指示して、午後10時に灰色の部屋へと引き下がった。
翌朝の7時にフォレスター看護婦を呼び起こそうとしたが、部屋の中からは、何の返事もなかった。やむを得ず、5代目準男爵ウォルター・レノックス卿やかかりつけのマナリング医師達がドアをこじ開けてみると、フォレスター看護婦は、ベッドに横たわって、亡くなっていたのである。彼女の顔には、驚いたような表情があったが、室内は何一つ乱れていなかった。
検死解剖や検死審問が行われたが、毒物の痕跡を含めて、フォレスター看護婦の死因を解明することは、残念ながら、できなかったのである。
そして、時が流れて、12年後。
チャドランズ屋敷において、狩猟パーティーが行われ、男性8人と女性3人の一行が参加していた。その夜、狩猟パーティーの一行がビリヤード室へと移動し、大きな暖炉を囲んでいる際、一行の求めに応じて、5代目準男爵ウォルター・レノックス卿は、やむなく、灰色の部屋の話を語ることになった。
5代目準男爵ウォルター・レノックス卿の話を聞くと、彼のひとり娘であるメアリの夫であるトマス・メイ(海軍大佐)とウォルター・レノックス卿の甥であるヘンリー・レノックスの二人は、灰色の部屋の謎に挑戦するべく、その部屋で一夜を過ごそうと思い立った。
ウォルター・レノックス卿は、灰色の部屋で一夜を過ごすことを固く禁じたため、彼には内緒で事を運ぶしかなかった。銅貨投げの結果、勝ったトマス・メイが、灰色の部屋に挑戦することになった。銅貨投げに負けたヘンリー・レノックスは、トマスのことが心配になり、灰色の部屋で一夜を過ごすことを止めるよう、何度も諌めたが、トマス・メイの決心は頑なであった。
果たして、トマス・メイは、翌朝、無事に灰色の部屋から出て来ることができるのであろうか?
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