東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている ジョン・ディクスン・カー作 「カー短編全集5 黒い塔の恐怖」の表紙 (カバー : アトリエ絵夢 志村 敏子氏) - 表紙に描かれているのは、 「黒い塔の恐怖」の舞台となるモート館の塔 |
「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家である。彼は、シャーロック・ホームズシリーズで有名なサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の伝記を執筆するとともに、コナン・ドイルの息子であるエイドリアン・コナン・ドイル(Adrian Conan Doyle:1910年ー1970年)と一緒に、ホームズシリーズにおける「語られざる事件」をテーマにした短編集「シャーロック・ホームズの功績(The Exploits of Sherlock Holmes)」(1954年)を発表している。
彼が、ジョン・ディクスン・カー名義で発表した作品では、当初、パリの予審判事のアンリ・バンコラン(Henri Bencolin)が探偵役を務めたが、その後、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が探偵役として活躍した。彼は、カーター・ディクスン(Carter Dickson)というペンネームでも推理小説を執筆しており、カーター・ディクスン名義の作品では、ヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)が探偵役として活躍している。
日本の出版社である東京創元社から、創元推理文庫の一冊として、「カー短編全集5 黒い塔の恐怖」が1983年に出版されているが、これは、ジョン・ディクスン・カーの死後、米国の書籍編集者であるダグラス・G・グリーン(Douglas G. Greene:1944年ー)が編集して、1980年に米国の Harper & Row 社からジョン・ディクスン・カー名義で出版された作品集「The Door to Doom and Other Detections」がベースとなっている。なお、The Door to Doom and Other Detections」は、「カー短編全集4 幽霊射手(→ 2021年11月7日付ブログで紹介済)」と「カー短編全集5 黒い塔の恐怖」の2冊に分かれている。
「カー短編全集5 黒い塔の恐怖」には、以下の作品が収録されている。
<ラジオドラマ>
「カー短編全集4 幽霊射手」から続く。
(1)「死を賭けるか?(Will You Make a Bet With Death?)」(1942年)
(2)「あずまやの悪魔(The Devil in the Summer-House)」(1940年)
<超自然の謎の物語>
(3)「死んでいた男(The Man Who Was Dead)」(1935年)
(4)「死への扉(The Door to Doom)」(1935年)
(5)「黒い塔の恐怖(Terror’s Dark Tower)」(1935年)
主人公の恋人であるルイーズ・モートレイクの姉アン・モートレイクは、挙式の日の1週間前のある夜、モート館の塔(約18mの高さ)の最上階にある部屋に閉じこもった。その部屋には、下の部屋の天井についた揚げ蓋を開いて出入りするしか、他に出入口はなかった。アンは揚げ蓋を閉めると、中から閂をかけた。下の部屋において、数名の人物が見張っている密室状況にもかかわらず、最上階の部屋から断末魔の叫び声が聞こえてきた。下の部屋に居た人達が閂をかけた揚げ蓋を壊して、最上階の部屋に入ってみると、両目を抉り取られたアンの死体が倒れていたのである。
以前にも、ルイーズの祖父の妹であるエレン・モートレイクが、同じような状況でなくなっていた。これは、モートレイク家に伝わる呪い(100年以前、ヴィヴィアン・モートレイクに起きた事件)なのか?
<シャーロック・ホームズのパロディー>
(6)「コンク・シングルトン卿文書事件(The Adventure of the Conk-Singleton)」(1948年)
東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている ジョン・ディクスン・カー作 「カー短編全集5 黒い塔の恐怖」の挿絵の一つ (カバー : アトリエ絵夢 志村 敏子氏) |
本パロディーは、ジョン・ディクスン・カーが、1948年の米国推理作家協会の年次総会において上演された。1年後(1949年4月)の年次総会では、「パラドール・チェンバーの怪事件(The Adventure of the Paradol Chamber)」が上演されている。
両作品とも、クレートン・ロースンがシャーロック・ホームズを、ローレンス・G・ブロックマンがジョン・H・ワトスンに扮している。「コンク・シングルトン卿文書事件」では、ジョン・ディクスン・カー自身が訪問客の役を演じている。
<エッセー>
(7)「有り金残らず置いてゆけ!(Stand and Deliver!)」(1973年)
(8)「地上最高のゲーム(The Greatest Game in the World)」(1963年)
上記に加えて、
(9)ダグラス・G・グリーン編「ジョン・ディクスン・カー書誌」
(10)江戸川乱歩(1894年ー1965年)作「カー問答」
が、読者用のオマケとして収録されている。
明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩は、「別冊宝石」(1950年8月)で行った「カー問答」において、カーの作品を第1位グループ(最も評価が高い作品群)から第4位グループ(最もつまらない作品群)までグループ分けしていているので、カーファンには必読である。
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