日本の出版社である竹書房から 2014年に竹書房文庫として出ている ガイ・アダムス「シャーロック・ホームズ 神の息吹殺人事件」の表紙 日本版カバーデザイン: 石橋 成哲 氏 Photo: AFLO |
読後の私的評価(満点=5.0)
(1)事件や背景の設定について ☆(1.0)
ロンドン中心部のウェストエンド(West End)内にあるグローヴナースクエア(Grosvenor Square → 2015年2月22日付ブログで紹介済)において発見された社交界の若き名士の一人であるヒラリー・ド・モンフォール(Hilary De Montfort)の遺体は、まるで非常に高いところから地面に叩き付けられたかのようであった。そして、彼の遺体の周囲に積もった雪の上には、足跡は全く残されていなかった。本格推理小説的には、非常に美しい謎であり、合理的な解決が見られるのかと楽しみにしたが、結果はあまりにも期待ハズレで、がっかりした。シャーロック・ホームズが、自分の元を訪ねて来たロンドン在住の医師で、「心霊医師(Psychical Doctor)」と巷で呼ばれているジョン・サイレンス博士(Dr. John Silence)を胡散臭げな人物と見做して、当初は会おうとしなかったが、作者のガイ・アダムス(Guy Adams:1976年ー)による本作品は、最終的に、全てが胡散臭げな話のまま終わった感じがする。
(2)物語の展開について ☆半(1.5)
物語の序盤に、ヒラリー・ド・モンフォールや地方の名士であるバーソロミュー・ラスヴニー卿(Lord Bartholomew Ruthvney)の不可思議な死で、読者の期待を煽っておきながら、物語の中盤以降、話がどんどん失速していったように思える。2つの謎の提示に対して、物語全体の2/5近くを費やした後、残りの3/5を使って、更に物語を飛躍させようとしているが、前半に話のウェイトがあり過ぎて、後半、話を十分に練った上で展開しているとは、とても言えない。全体として、物語の配分がうまくいっていない。
日本の出版社である竹書房から 2014年に竹書房文庫として出ている ガイ・アダムス「シャーロック・ホームズ 神の息吹殺人事件」の裏表紙 |
(3)ホームズ/ワトスンの活躍について ☆半(1.5)
物語の最後で、ホームズは、未曾有の危機からロンドン市民を救ってはいるものの、全体を通して、ホームズが活躍したという印象は、非常に薄い。ただし、これは、ホームズが悪い訳ではなく、全て、作者の責に帰せられる。元々、胡散臭げ話であり、最初から、ホームズはこの事件には乗り気ではなかった。一方で、霊的な物語であることもあって、ジョン・ワトスンが亡くなった婦人(メアリー → 「四つの署名(The Sign of the Four)」に登場)を偲ぶ場面が随所にあり、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)による原作では見られない場面で、人間味にあふれていたので、若干、点数をオマケしている。
(4)総合評価 ☆(1.0)
物語の前半において、美しく、かつ、魅力的な2つの謎が、読者に対して提示されたものの、結局のところ、全てが胡散臭げで、かつ、中途半端なままに終わっていて、読後の印象が非常に悪い。作者として、何をしたかったのかがよく判らず、ストーリー全体に疑問符を付さざるを得ない。霊的な話を推理小説で取り扱う場合、余程キチンとしたストーリー構成にしないと、読者は納得できないと思う。極論すれば、ホームズは、自分の最初の印象通り、ジョン・サイレンス博士の話を全く聞かないで、追い返していれば、良かったと言える。
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