HarperCollinsPublishers から出ている アガサ・クリスティー作「ナイルに死す」の グラフィックノベル版の表紙 (Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)- ポワロ達が乗船したナイル河の遊覧船が立ち寄るアブ・シンベル神殿の像と ピラミッドが描かれている。 |
4番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)による長編作品のグラフィックノベル版は、「ナイルに死す(Death on the Nile)」(1937年)である。
本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第22作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第15作目に該っている。また、本作品は、「メソポタミアの殺人(Murder in Mesopotamia)」(1936年)に続く中近東を舞台にした長編第2作目で、中近東シリーズの最高峰に該る作品と言われている。
本作品のグラフィックノベル版は、元々、フランス人の作家であるフランソワ・リヴィエール(Francois Riviere:1949年ー)が構成を、そして、フランス人のイラストレーターであるソリドール(Solidor)が作画を担当して、2003年にフランスの Heupe SARL から「Mort sur le Nil」というタイトルで出版された後、2007年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。
ジャッキー、サイモン、そして、リネットの経緯が描かれている物語冒頭部分 - ポワロが、ジャッキーとサイモンの会話を小耳にしている |
弱冠20歳のリネット・リッジウェイ(Linnet Ridgeway)は、英国で最も裕福な女性だった。ある日、学生時代の古い友人であるジャクリーン・ド・ベルフォール(Jacqueline De Bellefort)が彼女に電話を架けてきた。
ジャクリーン(通称:ジャッキー(Jackie))の家族が2年前に破産してしまい、それ以来、彼女は辛い日々を送っていた。それに加えて、今度は、彼女の婚約者であるサイモン・ドイル(Simon Doyle)が失業してしまったのである。
ジャッキーは、リネットに対して、サイモンをリネットが住む屋敷の管理人にしてほしいと頼み込んだ。「私、サイモンと結婚できなければ、死んでしまうわ!(If I don’t marry him, I’ll die!)」と。ジャッキーの懇願に根負けしたリネットは、ジャッキーに対して、「面接をするので、あなたの恋人(サイモン)を私の屋敷に連れて来て。」と答えた。
翌日、ジャッキーは、サイモンを連れて、リネットの屋敷へと向かった。ジャッキーによる紹介を受けて、リネットとサイモンはお互いに見つめ合い、リネットは、その場でサイモンを自分の屋敷の管理人として採用することを決める。
エジプトで休暇を過ごすポワロが描かれている。 |
そして、場面は変わり、エルキュール・ポワロは、エジプトで休暇を楽しんでいた。彼が、アスワンで知り合った若い女性のロザリー・オッタボーン(Rosalie Otterbourne)と一緒に、ナイル河沿いを散歩していると、ルクソールから到着した大型汽船から、あるカップルが降りてくる。それは、リネット・リッジウェイとサイモン・ドイルの二人であった。ロザリーによると、二人が最近結婚したことが新聞に出ていた、とのこと。
ポワロは、リネットの目の下のくまと、そして、指の関節が白くなる程に、彼女が日傘を強く握りしめていたことから、彼女が何かに非常に困っているに違いないと感じるのであった。
リネットが、自分とサイモンの二人につきまとうジャッキーのことについて、 ポワロに相談している場面が描かれている。 |
夕闇が迫るホテルのテラスにおいて、リネットとサイモンが過ごしていると、回転ドアが廻り、ワインカラーのドレスを着た女性がゆっくりとテラスを横切って、リネットの視線の先に座る。それは、サイモンの元婚約者のジャッキーだった。
この出来事にひどく動揺したりネットは、その晩、ポワロに相談を持ちかける。リネットは、ジャッキーが、新婚の彼女とサイモンの二人が行くところ、ずーっとつきまとっているのだ、と言う。彼女によると、新婚旅行先のヴェネツィア(Venice)から始まり、ブリンジジ(Brindisi)、カイロ(Cairo)、そして、アスワン(Aswan)まで続いているらしい。
ジャッキーによるつきまといから逃れるために、リネットとサイモンの二人は、ある計画を立てた。自分達の周囲の人達には、アスワンにこのまま滞在する予定と話しておいて、実際には、二人は、ナイル河の遊覧に参加することにしたのである。ポワロも、リネットとサイモンの二人が乗る汽船で、ナイル河を遊覧することになった。
ナイル河の遊覧船に乗船して、自分達につきまとうジャッキーを無事撒いたものと安心した リネットとサイモンの二人であったが、何故か、ジャッキーも乗船しており、 茫然自失となるリネットと怒りを隠せないサイモンが描かれている。 |
ナイル河の遊覧船への乗船を無事済ませ、ホッと安心して船室から出てきたリネットとサイモンの二人であったが、そこに笑い声が聞こえてくる。リネットが驚いて振り返ると、そこには、ジャッキーが立っていた。茫然自失となるリネットと怒りを隠せないサイモンの二人。
ナイル河の遊覧船がアブ・シンベルに到着した晩、船内の緊張が限界まで高まり、ある悲劇が発生するのであった。
アブ・シンベル神殿において、リネットとサイモンの二人の頭上から岩が落下して、 危うく命を落とすところだった場面が描かれている。 |
グラフィックノベル版では、物語の冒頭、ジャッキー、サイモンとリネットの三人の経緯について、1ページでうまく処理している。更に、同じページで、ロンドンのウェストエンド(West End)にあるレストランにおいて、ポワロがジャッキーとサイモンの二人を見かけ、二人の会話を小耳にはさむという流れまで入れ込んでいる。
ただし、アガサ・クリスティーに原作に比べると、ジャッキー、サイモンとリネットの三人のキャラクターは、年齢がかなり上に設定されているように思える。リネットはまだしも、ジャッキーとサイモンの二人は、作画上、少なくとも、30代後半から40代前半に見えてしまい、リネットと同年代とはとても思えず、原作、映画や TV ドラマ等のイメージからも大きく乖離していて、正直、個人的には、あまり合わなかった。全体として、よくまとまっているが、本作品の主要人物なだけに、非常に残念である。
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