ベイズウォーターロード側から見たランカスターゲート |
サー・アーサー・コナン・ドイル作「独身の貴族(The Noble Bachelor)」(出版社によっては、「花婿失踪事件(A Case of Identity)」との対比から「花嫁失踪事件」と訳しているケースあり)において、1887年10月、ロバート・ウォルシンガム・ド・ヴェア・セント・サイモン卿(Lord Robert Walsingham de Vere St Simon)との結婚式の後、花嫁であるハティー・ドラン(Hatty Doran)が披露宴の席上、気分がすぐれないと言って自室に引き下がり、そのまま姿を消してしまったのである。セント・サイモン卿がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れ、ドラン嬢の行方を捜してほしいと依頼する。
セント・サイモン卿の来訪に先立ち、ホームズの指示を受け、新聞の山の中から本件に関する記事を探し出して、ホームズに読んで聞かせるジョン・ワトスンの作業はまだ続いていた。ワトスンは、昨日の朝刊に単独記事として掲載されているものを見つけた。見出しは、「上流階級の結婚式で起こった奇妙な出来事("Singular Occurrence at Fashionable Wedding")」。
ランカスターゲートの広場を囲む高級住宅街 |
ハノーヴァースクエアのセントジョージ教会で執り行われた結婚式は非常に内輪のもので、式への出席者は以下の通り。花嫁の父であるアロイシウス・ドラン氏、バルモラル公爵夫人、バックウォーター卿、花婿の弟であるユースタス卿と妹であるレディー・クララ・セント・サイモン、そして、レディー・アリシア・ウィッティントンの6名だった。結婚式の後、一行はランカスターゲートにあるアロイシウス・ドラン氏の家へと移動した。そこには朝食が用意されていた。その際、名前は明らかにされていないが、一人の女性によってちょっとしたトラブルが発生したようである。彼女はセント・サイモン卿に話があると主張して、一行に続いて家に無理矢理押し入ろうとしたのだ。長い間の押し問答の末、彼女は執事と従僕によりやっとのことで押し返されたのである。
物語とは異なり、夕闇が迫るランカスターゲート |
The ceremony, which was performed at St George's, Hanover Square, was a very quiet one, no one being present save the farther of the bride, Mr Aloysius Doran, the Duchess of Balmoral, Lord Backwater, Lord Eustace and Lady Clara St Simon (the younger brother and sister of the bridegroom) and Lady Alicia Whittington. The whole party proceeded afterwards to the house of Mr Aloysius Doran, at Lancaster Gate, where breakfast had been prepared. IT appears that some little trouble was caused by a woman, whose name has not been ascertained, who endeavoured to force her way into the house after the bridal party, alleging that she had some claim upon Lord St Simon. It was only after a painful and prolonged scene that she was ejected by the butler and the frontman. …
この間に花嫁であるハティー・ドランは席を中座して、そのまま行方が判らなくなったのであった。
ケンジントンガーデンズの入口ランカスターゲート |
花嫁の父のアロイシウス・ドランの家があったランカスターゲート(Lancaster Gate)は、ロンドンのベイズウォーター地区(Bayswater)内にあり、ハイドパーク(Hyde Park)とケンジントンガーデンズ(Kensington Gardens)の北側に位置している。
真ん中にある大きな広場と教会を囲むように建つ高級住宅街がランカスターゲートの大きな特徴である。当初、周囲の建物はアッパーハイドパークガーデンズ(Upper Hyde Park Gardens)として知られ、ランカスターゲートと呼ばれていたのは、真ん中にある広場のみであった。19世紀中頃にこの一帯が開発された際に、ベイズウォーターロード(Bayswater Road)をはさんで反対側にあるケンジントンガーデンズへの入口ランカスターゲートの名前を採って、この一帯がそう呼ばれるようになった。
尖塔を除いて、教会からフラットに生まれ変わったスパイアーハウス |
真ん中の広場内にある教会は「ランカスターゲートのキリスト教会(Christ Church, Lancaster Gate)」として知られ、ロンドンでも有名な教会の一つであったが、屋根に腐食が見つかったため、1997年に尖塔(Spire)を残して取り壊されてしまった。尖塔以外の部分は建替えられて、フラットとして生まれ変わり、現在は「スパイアーハウス(Spire House)」と呼ばれている。
広場に面して建つホテル「コロンビア(Columbia)」 |
また、広場を取り囲む建物の多くは引き続き高級住宅街のままであるが、その他は大使館(コスタリカ大使館:Embassy of Costa Rica)、オフィスやホテル等として使用されている。
浮き島の上に建つホテル「ランカスター・ロンドン」 |
地下鉄の最寄駅は、セントラルライン(Central Line)が通るランカスターゲート駅(Lancaster Gate Tube Station)であるが、マーブルアーチ(Marble Arch)方面へ、つまり、東側へ少し戻ったところにある。なお、ランカスターゲート駅の入口は、周回道路で囲まれた浮き島のようなところにあり、その上には「ランカスター・ロンドン(Lancaster London)」というホテルが高い聳え建っている。ここからシティーへ地下鉄一本で行けることもあって、日本からの出張者にもよく使われている。
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