2015年3月28日土曜日

ロンドン ノーサンバーランドアベニュー(Northumberland Avenue)


サー・アーサー・コナン・ドイル作「独身の貴族(The Noble Bachelor)」(出版社によっては、「花婿失踪事件(A Case of Identity)」との対比から「花嫁失踪事件」と訳しているケースあり)において、1887年10月、ロバート・ウォルシンガム・ド・ヴェア・セント・サイモン卿(Lord Robert Walsingham de Vere St Simon)との結婚式の後、花嫁であるハティー・ドラン(Hatty Doran)が披露宴の席上、気分がすぐれないと言って自室に引き下がり、そのまま姿を消してしまったのである。セント・サイモン卿がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れ、ドラン嬢の行方を捜してほしいと依頼する。

「Corinthia Hotel London(=ホテル)」や
「The Northall(=レストラン)」等が入っている建物

セント・サイモン卿の話を一通り聞いただけで、ホームズは直ぐに事件の真相に辿り着いてしまった。そして、ホームズはジョン・ワトスンをベーカーストリート221Bに残したまま外出する。ホームズは行方不明になっていたドラン嬢を無事見つけ出した。米国の鉱山労働者のキャンプがアパッチインディアンに襲われた際に死亡したと新聞で報道されていた夫フランシス・ヘイ・モールトン(Francis Hay Moulton)が実際には生存しており、彼女は夫とロンドンで再会していたのであった。ワトスンはホームズの手際の良さに感服する。

「Citadines Trafalgar Square London(=ホテル)」が
入っている建物の入口
同ホテルが入っている建物の外壁―
夕方になると、ライトアップされる

「一体どうやって彼ら二人を見つけ出したんだい?」
「やっかいな捜査になるかもしれなかったが、我らが友人レストレード警部が必要な情報を入手してくれたのさ。彼自身はその情報の価値を判っていなかったがね。もちろん、イニシャルが非常に重要だったが、それよりももっと重要だったのは、彼(フランシス・ヘイ・モールトン)がここ1週間以内にロンドンの最も高級なホテルの一つで勘定をし支払ったことが判ったことなんだ。」
「どうして高級だと判ったんだい?」
「値段が高級だったからさ。一泊8シリングで、シェリー酒一杯が8ペンスということは、最も高級なホテルの一つであることを示していた。これだけの値段のホテルは、ロンドンではそんなに多くない。ノーサンバーランドアベニューの2軒目のホテルで宿泊者名簿を調べた結果、フランシス・ヘイ・モールトンという米国の紳士が前日ホテルをチェックアウトしていることが判った。そして、彼に関する記載事項を一通り確認したところ、勘定書きの複写で目にしたものとまさに同じ項目が見つかったんだ。彼の手紙はゴードンスクエア226番地へ転送されることになっていたので、そこまで出かけ、幸運にもその家で愛し合う二人を見つけ出したのさ。...」

ノーサンバーランドアベニューが
トラファルガースクエアに接する角(東側)にある建物の外壁に
施されている動物や魚類等の彫刻


'And how in the world did you find them ?'
'It might have been difficult, but friend Lestrade held information in his hands the value of which he did not himself know. The initials were, of course, of the highest importance, but more valuable still was it to know that within a week he had settled his bill at one of the most select London hotels.'
'How did you deduce the select ?'
'By the select prices. Eight shillings for a bed and eight pence for a glass of sherry pointed to one of the most expensive hotels. There are not many in London which charge at that rate. In the second one which I visited, in Northumberland Avenue, I learned by an inspection of the book that Francis H. Moulton an American gentleman, had left only the day before, and on looking over the entries against him, I came upon the very items which I had seen in the duplicate bill. His letters were to be forwarded to 226 Gordon Square, so thither I travelled, and being fortunate enough to find the loving couple at home, ...'

ノーサンバーランドアベニューが
トラファルガースクエアの接する角(西側)に建つもう一つのビル
ノーサンバーランドアベニューの中間辺りにある
「The Grand at Trafalgar Square(=ホテル)」
ヴィクトリアエンバンクメント通り近辺の
ノーサンバーランドアベニュー

ノーサンバーランドアベニュー(Northumberland Avenue)は、トラファルガースクエア(Trafalgar Square)からテムズ河(River Thames)へ向かって始まり、ヴィクトリアエンバンクメント通り(Victoria Embankment)に突き当たって終わる通りである。
1608年から1609年にかけて、ノーサンバーランド伯爵(Earl of Northumberland)がこの一帯にノーサンバーランドハウス(Northumberland House)を建設した。その後、通りの施設工事のため、1874年6月にノーサンバーランド公爵(Duke of Northumberland)が土地を売却し、工事竣工後、売却主のノーサンバーランド公爵の名前を採って、ノーサンバーランドアベニューと名付けられた。

ノーサンバーランドアベニューと
ノーサンバーランドストリートが接する角に建つ
シャーロック・ホームズパブ

現在も、ノーサンバーランドアベニューの両側には、いくつかの高級ホテルが軒を連ねている。このホテルのどれかで、ホームズはハティー・ドランの夫であるフランシス・ヘイ・モールトンが宿泊していたことを見つけ出したに違いない。ノーサンバーランドアベニューとノーサンバーランドストリート(Northumberland Street)が接する角には、奇しくも、シャーロック・ホームズパブ(Sherlock Holmes Pub)が営業している。
ちなみに、2012年夏に開催されたロンドンオリンピック/パラリンピックの際、ノーサンバーランドアベニューはマラソンコースに含まれていた。

ノーサンバーランドアベニューは、「ギリシア語通訳(The Greek Interpreter)」の中にも出てくる。マイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)経由、シャーロック・ホームズに事件を相談したギリシア生まれのメラス氏(Mr Melas)は、法廷で通訳をしたり、ノーサンバーランドアベニュー沿いのホテルに宿泊する裕福な旅行者のガイドをしたりして、生計を立てていた。ということは、メラス氏もこのノーサンバーランドアベニューを頻繁に歩いていた訳である。

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