2015年2月15日日曜日

ロンドン ヴィクトリアストリート16A番地(16A Victoria Street)


サー・アーサー・コナン・ドイル作「技師の親指(The Eingeer's Thumb)」では、1889年の夏の朝午前7時前、今回の事件の依頼人である水力工学技師のヴィクター・ハザリー(Victor Hatherley)が手を負傷して、「四つの署名(The Sign of the Four)」事件で知り合ったメアリー・モースタン(Mary Morstan)と結婚し、パディントン駅(Paddington Station)の近くに開業していたジョン・ワトスンの医院へ運び込まれるところから、物語が幕を開ける。通常は、事件の依頼人がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を相談に訪れるところから話が始まるが、今回は一風変わった展開となっている。

今回の事件の依頼人であるヴィクター・ハザリーの事務所
(ヴィクトリアストリート16A番地)があったと思われる建物

私が診察室に入ると、テーブルの側に一人の紳士が座っていた。彼は灰色がかった紫のツイード服を着ており、私の本の上に柔らかい布製の帽子が置かれていた。彼は片手にハンカチを巻いていたが、ハンカチ全体に血が滲んでいた。25歳を超えていないくらいの若さで、たくましい男性的な顔つきをしていた。しかしながら、今は彼の顔色は真っ青で、何か強い精神的な動揺を受けたのを、気力を振り絞って耐えているような印象を受けた。
「先生、こんなに朝早くから起こしてしまい、申し訳ありません。」と彼は言った。「しかし、昨夜、酷い災難に遭ったのです。今朝、列車でパディントン駅に着き、どこかにお医者さんは居ないかとそこで尋ねたところ、親切な方が私をここまで連れて来てくれました。私は女中さんに名刺を渡したのですが、彼女はサイドテーブルの上に置き忘れて行ったようですね。」
私はその名刺を手に取ってみた。「ヴィクター・ハザリー、水力工学技師、ヴィクトリアストリート16A番地(4階)」と書かれていた。これが、今朝の患者の氏名、肩書きと住所だ。「大変お待たせしてすみません。」と、私は診察椅子に腰を下ろしながら言った。「あなたは夜行列車で着かれたばかりですね。道中はさぞかし退屈なさったでしょう。」

I entered my consulting-room and found a gentleman seated by the table. He was quietly dressed in a suit of heather tweed with a soft cloth cap which he had laid down upon my books. Round one of his hands he had a handkerchief wrapped, which was mottled all over with blood stains. He was young, not more than five-and-twenty, I should say, with a strong, masculine face; but he was exceedingly pale and gave me the impression of a man who was suffering from some strong agitation, which it took all his strength of mid to control.
'I am sorry to knock you up so early, doctor,' said he, 'but I have had a very serious accident during the night. I came in by train this morning, and on inquiring at Paddington Station as to where I might find a doctor, a worthy fellow very kindly escorted me here. I gave the maid a card, but I see that she has left it upon the side-table.'
I took it up and glanced at it. 'Mr Victor Hatherley, hydraulic engineer, 16a Victoria Street (3rd floor)' That was the name, style, and abde of my morning visitor. 'I regret that I have kept you waiting,' said I, sitting down in my library-chair. 'You are fresh from a night journey, I understand, which is in itself a monotonous occupation.'

ヴィクトリアストリートとブロードウェイ通り(Broadway)が交差する角の広場にあるブロンズ彫刻像
ヴィクトリアストリート沿いにある
メトロポリタン警察の本部ビル

ヴィクトリアストリート(Victoria Street)は、ヴィクトリア駅(Victoria Station)から東方面へ延びている通りで、ウェストミンスター寺院(Westminster Abbey)の手前でブロードサンクチュアリ通り(Broad Sanctuary)という名前に変わる。
ヴィクトリアストリートは、元々、1850年代に スラム街を取り壊して施設された、とのこと。
ヴィクトリア駅近辺のヴィクトリアストリートの両側には、銀行、商業用店舗やレストラン等が入居しているのに加えて、近年、再開発が行われ、近代的なビルがいくつか建っている。また、ヴィクトリアストリートがウェストミンスター寺院方面へと向かう途中には、
・ウェストミンスターシティーホール(Westminster City Hall)
・ロンドンの地下鉄やバスの運行を管理するトランスポート・フォー・ロンドン(Transport for London)の本部
・ニュースコットランドヤード(New Scotland Yard)
・メトロポリタン警察(Metropolitan Police Station)の本部
等の公的機関が入居するビルが並んでいる。ウェストミンスター寺院を過ぎると、国会議事堂(House of Parliament)として現在使用されているウェストミンスター宮殿(Palace of Westminster)が、更にその北側には首相官邸(10 Downing Street)等が所在するホワイトホール通り(Whitehall)があることが、その理由である。

ヴィクトリアストリート20番地のビルー
右手にあるのが、ヴィクトリアストリート10番地のビル
写真の通り、ヴィクトリアストリート10番地と20番地のビルは存在するが、
現在、16番地に相当するビルは存在していない

なお、今回の事件の依頼人であるハザリー氏の事務所があったヴィクトリアストリート16番地は実在している。ただ、実際には、ヴィクトリアストリート10番地とヴィクトリアストリート20番地のビルは存在するものの、ヴィクトリアストリート16番地に相当するビルは存在していない。ヴィクトリアストリート10番地のビルは横に長い建物のため、区画上、ヴィクトリアストリート16番地は10番地のビルの中に含まれているというのが正確かと思う。

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