サー・アーサー・コナン・ドイル作「ぶな屋敷(The Copper Beeches)」では、ジェフロ・ルーカッスル(Jephro Rucastle)がハンプシャー州(Hampshire)に所有する’ぶな屋敷(Copper Beeches)’と呼ばれる邸宅で住み込みの家庭教師の職に就くことになった若い女性ヴァイオレット・ハンター(Violet Hunter)が、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を依頼人として訪れる。ハンター嬢としては、
・ルーカッスル氏から住み込みの家庭教師としては高額の年棒(100ポンド→のちに120ポンドに変更)のオファーがあったこと
・また、雇用条件として、長い金髪を切って、ショートカットにしてほしいという奇妙な指示があったこと
等から不安を感じ、ホームズに頼った次第である。ハンター嬢は訪問に先立って、ホームズ宛に手紙を送った。ホームズはその手紙をジョン・ワトスンに見せる。
モンタギュープレイス越しに大英博物館を望む |
それは、昨晩モンタギュープレイスから出されたもので、次のように書かれていた。
ホームズ様
私に家庭教師になってほしいという依頼を受けるべきか否かについて、是非ともあなたに御相談させていただきたいと思います。もし不都合がなければ、明日の午前10時半に御伺い致します。
敬具 ヴァイオレット・ハンター
「君はこの若い女性のことを知っているのかい?」と、私は尋ねた。
「いいや。」
「ちょうど今午前10時半だな。」
「そうだな。あのベルの音はきっと彼女だ。」
「君が思っている以上に面白い事件になるかもしれない。青いガーネット事件のことを覚えているだろう。最初は単なる気まぐれで始めたようだが、最終的には重大な捜査に発展したじゃないか。今回もそうなるかもしれないよ。」
「そうだね。そうなることを期待したいね。しかし、それはすぐにハッキリするさ。僕が間違えていなければ、ほら、その依頼人が来たようだ。」
It was dated from Montague Place upon the preceding evening, and ran thus:
DEAR MR HOLMES - I am very anxious to consult you as to whether I should or should not accept a situation which has been offered to me as governess. I shall call at half-past ten tomorrow if I do not inconvenience you.
Yours faithfully, VIOLET HUNTER
'Do you know the young lady ?' I asked.
'Nor I.'
'It is half-past ten now.'
'Yes, and I have no doubt that is her ring.'
'It may turn out to be of more interest than you think. You remember that the affair of the blue carbuncle, which appeared to be a more whim at first, developed into a serious investigation. It may be so in this case, also.'
'Well, let us hope so. But our doubts will very soon be solved, for here, unless I am much mistaken, is the person in question.'
今回の事件の依頼人であるヴァイオレット・ハンターが住むモンタギュー・プレイス(Montague Place)は、ロンドン・カムデン区(London Borough of Camden)のブルームズベリー地区(Bloomsbury)内にある。ブルームズベリー地区は、19世紀から20世紀にかけて、多くの芸術家や学者等が住む文教地区として発展してきた街である。
モンタギュープレイスは、東側のラッセルスクエア(Russell Square)から始まり、西側のベッドフォードスクエア(Bedford Square)で終わる約500mの通りである。また、通りの北側にはロンドン大学(University of London)が、そして、南側には大英博物館(British Museum)があり、現在、通りの両側で住居になっているところは少ない。
ベッドフォードスクエア側からモンタギュープレイスを望む |
上記の写真の左の建物には、 哲学者のヘンリー・キャベンディッシュ(1731年ー1810年)が 住んでいた |
仮にヴァイオレット・ハンターが部屋を間借りしていた家がラッセルスクエアの近くだった場合、ベーカーストリート221Bに住む前に、ホームズが間借りしていたモンタギューストリート(Montague Street)とはすぐ目と鼻の先だったことになる。
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