ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)が描く ミス・マープルシリーズの連作短編集「ミス・マープルと十三の謎 <米題:火曜クラブ>」の一場面 |
アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1932年に発表したミス・マープルシリーズ作品の短編集「ミス・マープルと13の謎(The Thirteen Problems)<米題:火曜クラブ( The Tuesday Club Murders)>」の場合、書籍として出版された順番で言うと、長編第1作目に該る「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage → 2022年10月30日 / 10月31日付ブログで紹介済)」が、ミス・ジェイン・マープル(Miss Jane Marple)の初登場作品である。
ただし、厳密に言うと、「火曜クラブ/ 火曜ナイトクラブ(The Tuesday Night Club)」を皮切りに、1927年12月から雑誌「スケッチ誌」に掲載された短編の方が、ミス・マープルの初登場作品である。「牧師館の殺人」に遅れること、2年後の1932年に、雑誌「スケッチ誌」に連載された短編12作と加筆された1作の合計13作がまとめられて、短編集「ミス・マープルと13の謎<米題:火曜クラブ>」として出版されている。
短編集「ミス・マープルと13の謎<米題:火曜クラブ>」には、13編が収録されているが、後半に該る「第7話 - 第13話」は、以下の通り。
・第7話:「青いゼラニウム / 青いジェラニウム(The Blue Geranium)」(1929年)
・第8話:「二人の老嬢 / お相手役(The Companion)」(1930年)
・第9話:「四人の容疑者(The Four Suspects)」(1930年)
・第10話:「クリスマスの悲劇(A Christmas Tragedy)」(1930年)
・第11話:「毒草 / 死の草(The Herb of Death)」(1930年)
・第12話:「バンガロー事件(The Affair at the Bungalow)」(1930年)
・第13話:「溺死(Death by Drowning)」 (1931年)
上記の計7話の場合、第7話から第12話については、(第1話ー第6話から)1年後、セントメアリーミード村内にある邸宅ゴシントンホール(Gossington Hall)で開催されたバントリー夫妻の晩餐会が、物語の舞台となる。火曜クラブ(The Tuesday Night Club)のメンバーであるサー・ヘンリー・クリザリング(Sir Henry Clithering)の依頼により、ミス・マープルが客として招かれている。
第13話に関しては、唯一、現在進行形の事件で、当該短編集刊行の際には加えられた作品である。
登場人物は、以下の6名。
*ミス・マープル
*サー・ヘンリー・クリザリング:スコットランドヤード(ロンドン警視庁)の元警視総監
*アーサー・バントリー大佐(Colonel Arthur Bantry):退役軍人で、サー・ヘンリー・クリザリングの友人
*ドリー・バントリー(Mrs. Dolly Bantry):アーサー・バントリー大佐の妻
*ロイド医師(Dr. Lloyd):セントメアリーミード村で唯一の医者で、ミス・マープルの主治医
*ジェイン・ヘリアー(Jane Helier):人気の舞台女優
上記6名の登場人物が、自分だけが真相を知っている迷宮入り事件、もしくは、それに類するものの内容について、他の5名に対して話をする(第7話:アーサー・バントリー大佐 / 第8話:ロイド医師 / 第9話:サー・ヘンリー・クリザリング / 第10話:ミス・マープル / 第11話:ドリー・バントリー / 第12話:ジェイン・ヘリアー)。そして、話を聞いたメンバーが真相を推理するものの、誰も真相に到達できないが、結局のところ、どの事件に関しても、ミス・マープルだけが、謎を解いてしまうと言う展開になっている。
(60)青いゼラニウム(blue geranium)
第7話「青いゼラニウム / 青いジェラニウム」の場合、アーサー・バントリー大佐が語り手を務める。
彼の友人ジョージ・プリチャード(George Pritchard)の妻プリチャード夫人(Mrs. Pritchard)は、気難しい半病人で、彼女を担当する看護師を次から次へと変えていた。ところが、コプリング看護師(Nurse Copling)は、他の看護師とは異なり、プリチャード夫人にうまく対処していた。
プリチャード夫人は占い好きで、夫のジョージ・プリチャードとコプリング看護師の2人がそれぞれの用事で家を空けた際、ザリダ(Zarida)と名乗る占い師を家の中に入れた。占い師のザリダは、プリチャード夫人に対して、「この家には邪気がただよっている。」(中村妙子訳)とか、「青い花はいけない。青い花は不吉だ。あんたにとっては、命取りだ。」(中村妙子訳)と告げた。
その2日後、プリチャード夫人の元に、「わたしは未来を透視した。手おくれでならぬよう、ご用心のこと。満月の晩が危ない。青いサクラソウは警告、青いタチアオイは危険信号、青いゼラニウムは死の象徴…」と言う手紙が届く。
「青いゼラニウムは、この世にありゃしない。」と、夫のジョージ・プリチャードは言い添えたが、プリチャード夫人は、すっかりと怯え上がってしまい、満月の番になると、夫のジョージ・プリチャードとコプリング看護師の2人を自分の部屋へ呼び付けて、壁紙を点検させた。壁紙のタチアオイの花は桃色や赤色で、青色は一輪もなかったが、翌朝になると、プリチャード夫人の枕元の直ぐ上にある壁紙のタチアオイが一輪、青く変色していたのである。
そして、暫くしたある朝、プリチャード夫人が、ベッドの中で亡くなっているのが発見された。何故か、室内には、微かにガスの臭いが漂っている上に、ベッドの上の壁紙の薄赤いゼラニウムの花が一輪、真っ青に変わっていたのだった。
(61)ブリッジゲーム用のトランプ(game of bridge)
第10話「クリスマスの悲劇」の場合、ミス・マープルが語り手を務める。
クリスマス前にケストン鉱泉水治療院(Keston Spa Hydro)を訪れたミス・マープルは、そこで見かけたサンダース夫妻(ジャック+グラディス - Jack and Gladys Sanders)の様子を観察した結果、夫のジャックが妻のグラディスを殺害する計画を立てていると予見した。
ケストン鉱泉水治療院には、何か妙に不気味な雰囲気が漂よっていて、ポーターのジョージ(George)が気管支炎から肺炎を併発して亡くなり、更に、メイドの一人が指の傷から破傷風に罹り亡くなったのである。
ある日の晩、グラディス・サンダースは、友人のモーティマー夫妻と一緒に、ブリッジをして過ごした後、ケストン鉱泉水治療院へと戻って来たが、妻へのクリスマスプレゼントの件で、ラウンジに居るミス・マープルとミス・トロロプのところへ相談に訪れたジャック・サンダースが、2人を伴って、部屋へ行くと、グラディス・サンダースが床にうつ伏せに倒れて死んでいたのである。彼女の頭の脇には、凶器の砂を詰めた靴下が落ちていた。
ミス・マープルの予想通り、グラディス・サンダースが殺されたが、犯人と目されるジャック・サンダースには、犯行時刻のアリバイが、何故かあったのだ。
(62)キツネノテブクロ(foxglove)
第11話「毒草 / 死の草」の場合、ドリー・バントリーが語り手を務める。
バントリー夫妻は、クロッダラムコート(Clodderham Court)に住むサー・アンブローズ・バーシー(Sir Ambrose Bercy)の元に滞在していた。
ある日の晩餐の料理の鴨の中への詰め物として、サージ(Sage)が必要となったが、誰かが手違いから、ジギタリス(digitalis)が含まれるキツネノテブクロの葉を、セージに混ぜて、沢山摘んでしまったのだ。
その結果、晩餐に出席したみんながひどい中毒を起こして、不幸にも、サー・アンブローズ・バーシーが後見人となっていたシルヴィア・キーン(Sylvia Keene)が死亡しまう。死因は、サージと一緒に、鴨の中に紛れ込んだキツネノテブクロの葉に含まれるジギタリスだと判明したのである。
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