東京創元社から、創元推理文庫として出版されている イーデン・フィルポッツ作「赤毛のレドメイン家」(新訳版)の表紙 カバーイラスト: 松本 圭以子 氏 カバーデザイン: 中村 聡 氏 物語の冒頭、ダートムーアにおいて、 主人公であるマーク・ブレンドン(画面右手奥の人物)が、 絶世の美女であるジェニー・ペンディーン(画面左手前)と出会う場面が、 表紙には描かれている。 |
「赤毛のレドメイン家(The Red Redmaynes)」は、主にデヴォン州(Devon)を舞台にした田園小説、戯曲や詩作で既に名を成した英国の作家であるイーデン・ヘンリー・フィルポッツ(Eden Henry Phillpotts:1862年ー1960年 → 2022年2月6日 / 2月13日付ブログで紹介済)が、1921年に発表した最初の推理小説である「灰色の部屋(The Grey Room → 2022年3月13日 / 3月27日付ブログで紹介済)」に続き、1922年に発表した推理小説である。
イーデン・フィルポッツは、上記の2作品の他に、「闇からの声(A Voice from the Dark → 2022年5月23日 / 5月29日付ブログで紹介済)」を1925年に発表している。
イーデン・フィルポッツが発表した推理小説の数々は、残念ながら、英国において、ほとんど顧みられることはなく、本屋の棚を飾ることもないが、日本では、明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(1894年ー1965年)が「赤毛のレドメイン家」を絶賛したこともあって、特に、「赤毛のレドメイン家」と「闇からの声」の2作品は、推理小説ファンの間では、読むべき傑作として、非常に名高い。
江戸川乱歩は、「赤毛のレドメイン家」の読書体験を「万華鏡」に譬えて、探偵小説ベスト10の第1位に推している。以下に、江戸川乱歩のコメントを引用するので、彼の絶賛度合いを御確認いただきたい。
「この小説の読者は、前後三段にわかれた万華鏡が、三回転するかのごとき鮮やかに異なった印象を受けることに一驚を喫するであろう。第一段は前半までの印象であって、そこには不思議な犯罪のほかに美しい風景もあり、恋愛の葛藤さえある。第二段は後半から読了までの印象であって、ここに至って読者はハッと目のさめるような生気に接する。そして二段返し、三段返し、底には底のあるプロットの妙に、おそらくは息をつく暇もないにちがいない。一ヵ年以上の月日を費やしてイタリアのコモ湖畔におわる三重四重の奇怪なる殺人事件が犯人の脳髄に描かれる緻密なる「犯罪設計図」にもとづいて、一分一厘の狂いなく、着実冷静に執行されていった跡は驚嘆のほかはない。そして読後日がたつにつれて、またしてもがらりと変わった第三段の印象が形づくられてくるのだ。万華鏡は最後のけんらんたる色彩を展開するのだ。」(江戸川乱歩)
勇気、機転、勤勉さ、想像力や洞察力等に恵まれたスコットランドヤードの刑事であるマーク・ブレンドン(Mark Brendon - 35歳)は、これまでに数々の実績(第一次世界大戦中には、国際的な事案を解決)を積み上げ、既に警察の犯罪捜査部門で頭角を現し、警部補への昇進辞令を待つばかりだった。彼は、10年後には宮仕えを離れ、以前からの希望でもある私立探偵事務所の開設を視野に入れていた。
過酷な勤務に明け暮れて、いささか疲れが溜まっていたマーク・ブレンドンは、急速と健康のために、ダートムーア(Dartmoor)で休暇中で、趣味のトラウト釣りに興じたり、宿泊先であるプリンスタウンのダッチーホテルの常連客との旧交を温めたりして、休暇を過ごしていた。
6月半ばの日暮れ時、マーク・ブレンドンは、トラウト釣りのため、かつての採掘場内にある小川が流れ込む深い淵を目指して、ダートムーアを抜ける近道を進んでいた。
その時、西の燃えるような陽を背景にして、籠をテニした人影が、彼の方へ向かって歩いて来た。トラウトのことをぼんやりと考えていた彼が、近づいて来る軽やかな足音に顔をあげると、そこには、これまで目にしたことがないような絶世の美女が居たのである。
美女は、そのまま彼の脇を通り過ぎて行ったが、彼女のあまりの美しさに驚いた彼は、それまで考えていたことが、全て頭から吹き飛んでしまった。
一目見て、彼女のことが頭から離れなくなってしまったマーク・ブレンドンであったが、間もなく、ある殺人事件の関係で、彼女、即ち、ジェニー・ペンディーン(Jenny Pendean)に再会することになるのであった。
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