本作品の原題は「The Veiled Detective」で、直訳すると、「ベールで覆われた探偵」と言ったところか?
シャーロック・ホームズにとって、自分の周囲に居る同居人であるジョン・ワトスン、下宿の家主であるハドスン夫人(Mrs. Hudson)や兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)は、自分の身内 / 味方だと思えるが、実際には、犯罪界のナポレオンと呼ばれるジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)に通じていて、自分の敵だという状況を捉えて、本作品の作者であるデイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ(David Stuart Davies)は、「Veiled」と表現しているのではないかと推測する。
そう考えると、「Veiled」を意訳して、「欺かれた」とか、「罠にはまった」と言い換えた方が、より適切なのかもしれない。ただ、それでも、本作品の内容を的確に言い表しているとは、今一つ言い切れていないように思えてしまう。
読後の私的評価(満点=5.0)
(1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆☆(5.0)
戦地から戻って来た元軍医のジョン・ウォーカー(John Walker)が、ジェイムズ・モリアーティー教授からの指示を受け、名前をジョン・ワトスンに変えて、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)の下宿において、シャーロック・ホームズの同居人かつ彼のスパイとなるという衝撃のストーリーである。更に、ハドスン夫人やマイクロフト・ホームズまでが、モリアーティー教授の協力者になっていて、物語の設定としては、驚きの連続で、なかなか面白かった。
(2)物語の展開について ☆☆☆半(3.5)
ストーリーとしては、非常に面白くて、評価できるが、個人的には、第二次アフガニスタン戦争に従軍していたジョン・ウォーカーが、ジョン・ワトスンとして、モリアーティー教授の手先になるまでの展開が、少し長かったように感じる。
逆に、ワトスンによる最終判断から「最後の事件(The Final Problem)」まで、話を一気に端折ってしまい、物語の終盤、かなり急いだ感が強い。
(3)ホームズ/ワトスンの活躍について ☆☆☆☆(4.0)
今回の主役は、ジョン・ワトスンである。戦地での無力感、泥酔、そして、除隊。戦地から戻る際、ジェイムズ・モリアーティー教授に目をつけられて、彼のスパイとして、シャーロック・ホームズの同居人になるが、ずーっと良心の呵責に苛まれる。サー・アーサー・コナン・ドイルによる聖典では、あまり語られないワトスンの心理描写が多く、なかなか興味深い。そして、彼が下した最終判断を高く評価したい。
(4)総合評価 ☆☆☆半(3.5)
サー・アーサー・コナン・ドイルによる聖典に照らした場合、いろいろと細かい点で、整合性がとれていないが、ホームズファンにとって衝撃的なストーリーに挑戦した訳で、なかなか楽しめたので、評価したい。
ただし、個人的には、物語の導入部(=ジョン・ウォーカーが、ジョン・ワトスンとして、モリアーティー教授の手先になるまでの展開)がやや長過ぎる点、そして、物語の終盤をかなり端折っている点は、減点。
この設定のまま、聖典に突入すると、後々の展開が合わなくなってしまうので、パラレルワールドのストーリーとして捉えた方が良い。ある意味、一度限りの荒技という内容ではある。
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