シャルル・ヴェルネ・グリモー教授邸の最上階(3階)の見取り図 |
2月9日(土)の晩、テッド・ランポール(Ted Ramploe)経由、彼の友人で、新聞記者であるボイド・マンガン(Boyd Mangan)の話を聞き、その話にただならぬ事態を予感したギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)は、その場に居合わせたテッド・ランポールとスコットランドヤード犯罪捜査課(CID)のハドリー警視(Superintendent Hadley)を伴い、ラッセルスクエア(Russell Square)の西側に所在するシャルル・ヴェルネ・グリモー教授(Professor Charles Vernet Gromaud)の邸へと急行するが、時既に遅く、恐ろしい事件が発生した直後であった。
時計の針を当日の少し前に戻すとする。
午後7時半に夕食を済ませると、土曜日の晩の日課通り、シャルル・グリモー教授は、仕事のために、最上階(3階)にある書斎(Study)へひきこもった。その際、いつものように、教授は、秘書のステュアート・ミルズ(Stuart Mills)に対して、午後11時まで邪魔をしないよう、指示をした。それに加え、教授は秘書に、「午後9時半頃、自分を訪ねて来る来客がある予定だ。」とも伝えた。更に、教授は秘書に、「午後9時半になったら、最上階にある自分の仕事部屋へ上がって、部屋の入口の扉を開けたまま、書斎を見張ってほしい。」と依頼したのである。
午後9時半になると、シャルル・グリモー教授の依頼通り、スチュアート・ミルズは、最上階へと上がり、ホール(Hall)を挟んで、教授の書斎とは反対側にある自分の仕事部屋(Workroom)へと入って、自分の机を書斎の方へと向けると、入口の扉を開け放したまま、書斎の見張りについたのである。
午後9時45分に、シャルル・グリモー教授の話通り、グリモー邸の玄関のベルが、来客を告げた。
グリモー家の家政婦であるエルネスチーヌ・デュモン(Ernestine Dumont)が玄関の扉を開けると、そこには、コートの襟を立て、帽子を目深に被り、顔に仮面を付けた謎の男が立っていたのである。家政婦は、謎の男から名刺を受け取ると、彼に対して、一旦、玄関の外で待つように伝えると、玄関の扉を閉めた。
謎の男から受け取った名刺を持って、家政婦が教授の書斎のある最上階まで上がって来ると、何故か、彼女の背後には、玄関の外で待っているべき男が付いて来ていた。家政婦は、「確かに、玄関の扉の鍵をかけた筈だ。」と、後に断言した。
謎の男は、コートの襟を下げると、頭から帽子を取り、コートのポケットに入れて、書斎の扉へと向かった。エルネスチーヌ・デュモンが慌てて書斎の扉を開けると、シャルル・グリモー教授が戸口に姿を見せた。
謎の男は、書斎の戸口において、教授との間で押し問答をしていたが、結局、家政婦を外に残したまま、書斎の中へと入って行った。
スチュアート・ミルズは、教授の依頼通り、ホールを間に挟んで、書斎の反対側にある自分の仕事部屋から、これら一連の動きを全て目撃していた。
午後10時10分頃、シャルル・グリモー教授の書斎から、銃声が聞こえた。
グリモー邸へと駆け付けたギディオン・フェル博士一行は、1階の客間(Drawing Room)内に閉じ込められていた教授の娘であるロゼット・グリモー(Rosette Grimaud)と新聞記者のボイド・マンガンを助け出した後、ハドリー警視とテッド・ランポールの二人が、3階へと階段を駆け上がった。
教授の書斎の扉の前には、秘書のスチュアート・ミルズが居た。書斎の扉は、内側から鍵がかかっていて、中へと入れないのだった。
二人が書斎の扉を破って中へ入ると、絨毯の上には、拳銃で胸を撃たれて、瀕死の教授が倒れていたのである。しかも、密室状態の書斎から、仮面を付けた謎の男の姿が、完全に消え失せていた。書斎は3階にある上に、グリモー邸の周囲には、午後9時半頃に降り止んだ雪が積もっていたが、雪の上には、謎の男が逃げた足跡は、全くなかった。
果たして、謎の男は、シャルル・グリモー教授に瀕死の重傷を負わせた後、どこへ、そして、どのように姿を消したのだろうか?
0 件のコメント:
コメントを投稿