2020年2月16日日曜日

キム・ニューマン作「モリアーティ秘録」(’Professor Moriarty : The Hound of the D’Ubervilles’ by Kim Newman)–その4

東京創元社から出版された創元推理文庫「モリアーティ秘録(下)」の表紙
カバーイラスト: アオジ マイコ 氏
        カバーデザイン: 東京創元社装幀室

英国のファンタジー作家、映画批評家で、かつ、ジャーナリストでもあるキム・ニューマン(Kim Newman:1959年ー)が執筆した「Professor Moriarty : The Hound of the D’Ubervilles(モリアーティー教授:ダーバヴィル家の犬)」(2011年)の日本語訳版である「モリアーティ秘録」(2018年に東京創元社刊)の下巻には、以下の3編が収録されている。

「第5章:六つの呪い(The Adventure of the Six Malediction)」
第5章の元ネタは、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)原作の「六つのナポレオン像(the Six Napoleons→)「シャーロック・ホームズの帰還(The Return of Sherlock Holmes)」(1905年)に収録)」である。
訳者の北原尚彦氏によると、J・ミルトン・ヘイズによる詩「黄色い神の緑の眼」も元ネタになっている、とのこと。
「六つのナポレオン像」では、ロンドン市内において、ナポレオン・ボナパルトの石膏胸像が連続して壊される事件が発生し、シャーロック・ホームズは、壊された石膏胸像がある会社で全てつくられたことを突き止めると、その中の一つにコロナ王女の寝室から盗まれた「ボルジアの黒真珠」が隠されていることを見抜く。
「六つの呪い」では、元英国外地駐在事務局所属のハンフリー・カルー少佐から宝石「黄色い神の緑の瞳」を預かり、身辺保護の依頼を受けたモリアーティー教授とモラン大佐の犯罪商会は、それ以外に
(1)ボルジア家の黒真珠
(2)ヨハネ騎士団の鷹
(3)ナポリの聖母の宝石
(4)七つの星の宝石
(5)バロルの眼
という宝石も集めることになり、それぞれの宝石をつけ狙う聖ヨハネ騎士団やアイルランドのテロリスト等との争奪戦となる。そして、モリアーティー教授による策略によって、最後は、コンジット街(Conduit Street→2015年7月18日付ブログで紹介済)に、宝石を狙う一同が会して、決闘が勃発するのであった。

「第6章:ギリシャこう竜(The Greek Invertebrate)」
第6章の元ネタは、コナン・ドイル原作の「ギリシア語通訳(The Greek Interpreter→「シャーロック・ホームズの回想(The Memoirs of Sherlock Holmes)」(1893年)に収録)」である。
訳者の北原尚彦氏によると、アーノルド・リドリー脚本の演劇「幽霊列車」も元ネタになっている、とのこと。
「ギリシア語通訳」では、シャーロック・ホームズの兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)が初登場する。そして、「ギリシャこう竜」では、ジェイムズ・モリアーティー教授の二人の弟であるジェイムズ・モリアーティー大佐とジェイムズ・モリアーティー駅長が登場する。奇しくも、三人とも、同姓は当然のことながら、同名である。
また、コナン・ドイルの原作上、
(1)モリアーティ教授は、三人兄弟の一人であること
(2)彼以外の二人は、大佐と駅長であること
(3)大佐も、ジェイムズという名であること
が明かされているが、キム・ニューマンは、駅長の名前もジェイムズと設定している。
「ギリシャこう竜」では、コーンウォール州(Cornwall)のファルヴァーレ駅の駅長を務めるジェイムズ・モリアーティーから、「ファルヴァーレが巨大なワーム(古代イングランドでは、ドラゴンの類義語)に襲われた。」との電報が入り、モリアーティー教授とモラン大佐の二人がコーンウォールへと呼び出されるところから、物語が始まる。

「第7章:最後の冒険の事件(The Problem of the Final Adventure)」
第7章の元ネタは、コナン・ドイル原作の「最後の事件(The Final Problem→「シャーロック・ホームズの回想(The Memoirs of Sherlock Holmes)」(1893年)に収録)」である。
コーンウォール州のファルヴァーレからロンドンへと戻った1891年1月初旬、モリアーティー教授とモラン大佐の犯罪商会は、モリアーティー教授の手法を学んで、犯罪を遂行する変装の名人ドクトル・マブゼが直近の脅威となりつつあった。一方で、ベーカーストリート(Baker Street)に住む「痩身の男(→シャーロック・ホームズのこと)」の協力を得た警察による突然の実効性ある攻撃で、モリアーティー教授が考えた各種計画に支障が出ていた。

そして、物語は、運命の地であるスイスにあるライヘンバッハの滝へと導かれていき、コナン・ドイル原作の「最後の事件」の真相が、モラン大佐の視点から語られるのである。

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