ハヤカワ文庫で出版されている カーター・ディクスン作「第三の銃弾〔完全版〕」 (カバー装画: 山田 維史氏) |
「第三の銃弾(The Third Bullet)」は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が、別名義のカーター・ディクスン(Carter Dickson)で執筆の上、1937年に発表したノン・シリーズ作品の一つで、アンリ・バンコラン(Henri Bencolin)シリーズ、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)シリーズやヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)シリーズには属していない。
ロンドン市内を流れるテムズ河(River Thames)の北岸に沿って延びるヴィクトリアエンバンクメント通り(Victoria Embankment→2018年12月9日付ブログで紹介済)を見下ろすロンドン警視庁(スコットランドヤード)警視監のマーキス大佐の部屋の机の端には、
(1)チャールズ・モートレイク元判事の殺害を伝える新聞
(2)マーキス大佐の部下であるジョン・ペイジ警部の報告書
(3)2挺の拳銃(アイヴァー・ジョンソン38口径リヴォルヴァーとベルギー製のブローニング32口径オートマティック)
が置かれていた。
まだ朝の11時前であったが、外はうすら寒い雨模様の天気で、机の上では電気スタンドがつけられ、ペイジ警部からマーキス大佐に対して、事件の報告が行われていた。
チャールズ・モートレイク氏は、高等法院王座部の判事で、ロンドン中央刑事裁判所(Central Criminal Court→2016年1月17日付ブログで紹介済)に奉職し、先般退官。
退官前、モートレイク氏は、第一法廷で殺人等の重罪を担当しており、ゲイブリエル・ホワイトという青年に対して、強盗傷害罪で、15回の鞭打ちと18ヶ月間の重労働という刑罰を言い渡し、ホワイトからその場で脅迫を受けていた。
ホワイトは、刑務所から仮釈放で出所すると、昨日の夕方、ロンドン北西部のハムステッド地区(Hampstead→2018年8月26日付ブログで紹介済)内にあるモートレイク邸内に侵入し、午後5時半頃、離れの書斎において、モートレイク元判事に向けて、所持していた拳銃を発砲。モートレイク元判事は胸を撃たれて、死亡。
ペイジ警部と彼の部下であるボーデン部長刑事ん二人は、ちょうどその事件現場に居合わせて、ホワイトがモートレイク元判事を拳銃で殺害したということ以外には考えられない状況であったが、実際のところ、そうは思えない事実が出てきて、非常に不可思議な事件であった。
0 件のコメント:
コメントを投稿