2019年12月15日日曜日

山本周五郎作「シャーロック・ホームズ」–その1

2018年12月に新潮社から出版された
「周五郎少年文庫 木乃伊(ミイラ)屋敷の秘密 怪奇小説集」の表紙
(カバー装画: 影山 徹氏)

「樅の木は残った」(1954年ー1958年)、「赤ひげ診療譚」(1958年)、「五辯の椿」(1959年)、「青べか物語」(1960年)や「季節のない街」(1962年)等の作品(特に、時代小説ー市井に生きる
庶民や名もなき流れ者を書いた作品)で知られる日本の小説家である山本周五郎(本名:清水三十六 1903年ー1967年)は、異色ではあるが、「新少年」の1935年12月別冊附録に「シャーロック・ホームズ」というホームズのパスティーシュを発表している。
当作品は、2018年12月に新潮社から出版された「周五郎少年文庫 木乃伊(ミイラ)屋敷の秘密 怪奇小説集」に収録されている200ページ弱の中編である。

深夜の1時過ぎ、ホームレスの少年 凡太郎は、森閑と静まりかえって、犬の影も見えない丸の内仲通りのビル街を歩いていた。彼は、昼のうちは、ビル街の使い走りをして、駄賃を貰い、生活の糧とし、夜になると、ビル街の建物の隅へ潜り込んで寝るという風来坊の生活を続けていた。

凡太郎が五号館の建物の前まで来ると、その3階の窓に灯火の火がチラチラと動いているのが見えた。五号館が半年前から空き家であることを知っている凡太郎が不審に思っていると、突然、その3階から助けを求める女性の悲鳴が聞こえてきた。
凡太郎が、脱兎の如く、3階まで駆け上がると、蝋燭(ろうそく)の光が漏れてくる右端の部屋の中には、一人の婦人が仰向けに倒れており、彼女の顔は物凄い死の苦痛に歪んでいた。彼が素早く室内を見廻したものの、どこにも人の居る気配はなかった。
丸の内警察署へ知らせるべく、凡太郎が夢中で階段を駆け下りて、五号館の外へ走り出ると、怪しい男がよろよろと左右とよろめきながら、次第に闇の彼方へ遠ざかって行くのが見えた。酔っぱらいだと思った凡太郎は、警察署へと急ぐため、その男の側をそのまま走り抜けたのであった。

翌朝の午前9時、警察庁刑事課長の村田俊一は、丸の内の帝国ホテル、その15号室に、3週間程前から滞在している英国人ウィリアム・ペンドルトンの元を訪れた。ウィリアム・ペンドルトンという名前は偽名であって、実は、彼は英国の名探偵シャーロック・ホームズで、ある目的のため、英国からはるばると海を渡って、密かに日本へと来ていたのである。

警察庁の村田刑事課長は、シャーロック・ホームズに対して、前夜、丸の内仲通りにある五号館で発生した殺人事件の捜査を依頼した。

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