2014年10月11日土曜日

ロンドン セントパンクラス オールド教会(St. Pancras Old Church)/ セントサヴィオール教会(St. Saviour's Church)の候補地


サー・アーサー・コナン・ドイル作「花婿失踪事件(A Case of Identity)」において、メアリー・サザーランド(Mary Sutherland)は、ガス管取付業界の舞踏会(gasfitters' ball)で知り合ったホズマー・エンジェル(Hosmer Angel)と結婚するため、別々の馬車で教会に到着した。メアリーと彼女の母親は別の馬車からホズマーが出て来るのを待つが、彼は一向に姿を現さない。そこで、御者が降りて馬車の中をみてみると、ホズマーの姿は忽然と消えていて、それ以降、彼の消息がつかめなくなった。そのため、メアリーはベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズを訪ね、ホズマーの行方を捜してほしいと依頼する。


メアリー・サザーランドとホズマー・エンジェルが結婚式を行う予定だった教会は、メアリーによると、キングスクロスの近くにあるセントサヴィオール教会(St. Saviour's (Church) near King's Cross)であった。確かに、セントサヴィオール教会は実在しているが、それはキングスクロスから北北東の方向にかなり離れたクラウチエンド(Crouch End)という地区内にある。それでは、コナン・ドイルの原作にあるセントサヴィオール教会のモデルとなった教会はどこなのか?


キングスクロス駅(King's Cross Station)のすぐ西側にあるセントパンクラス駅(St. Pancras Station)を南側からみて左手のミッドランドロード(Midland Road)をやや北上したところに、セントパンクラス ガーデンズ(St. Pancras Gardens)がある。この庭園に面して、セントパンクラス オールド教会(St. Pancras Old Church)が建っている。現在の地図上、キングスクロス駅近辺には、このセントパンクラス オールド教会しか、教会は存在していない。ということは、コナン・ドイルの原作で言及されているセントサヴィオール教会は、このセントパンクラス オールド教会をモデルにしたものと思われる。
ドイルの原作によれば、予定通り、教会での結婚式が行われていれば、メアリーとホズマーはセントパンクラスホテル(St. Pancras Hotel)で結婚披露朝食会をする予定であった。セントサヴィオール教会のモデルとなったのが、セントパンクラス オールド教会であれば、セントパンクラスホテルも近かったので、簡単に移動できた筈である。


セントパンクラス オールド教会の起源は11世紀頃まで遡るようである。14世紀に入ると、近くを流れるフリート川(River Fleet)からの洪水が頻発したので、付近の住民はもう少し北にあるケンティッシュタウン(Kentish Town)地区に移住。そのため、教会はやや打ち捨てられた形になり、荒廃した。
フリート川の治水が行われ、教会付近の住民が増えてきたことに伴い、19世紀中頃、建築家アレキサンダー・ディック・ゴー(Alexander Dick Gough)により教会は再建された。19世紀後半(1888年)と20世紀前半(1925年)にも改修が行われたが、第二次世界大戦(1939年ー1945年)時、ドイツ軍による爆撃によりダメージを受けたため、1948年に更に補修が実施されている。
以前、当教会は「セントパンクラス教会」と呼ばれていたが、半マイル程離れたユーストンロード(Euston Road)に「セントパンクラス ニュー教会(St. Pancras New Church)」が建てられたことに伴い、明確な区別を行うため、「セントパンクラス オールド教会」へ名前が変更されたとのこと。
ちなみに、「セントパンクラス」は、ローマのディオクレティアヌス帝の命により殉教者となったフリージアの若い貴族の名前に由来している。

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