2025年10月30日木曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その7

ジグソーパズルの中段の一番左端に、
愛する妻レスリーに思いを馳せるジョン・ゴードン・マッカーサーが、
赤枠で囲まれている。
<筆者撮影>

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)


(6)(16)ジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon MacArthur)


退役した老将軍(General)のジョン・ゴードン・マッカーサーは、高名な元判事のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave → 2025年10月20日付ブログで紹介済)、体育教師(games mistress)のヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne → 2025年10月21日付ブログで紹介済)、元陸軍中尉(Lieutenant)のフィリップ・ロンバード(Philip Lombard → 2025年10月28日付ブログで紹介済)や信仰心の厚い老婦人のエミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent → 2025年10月29日付ブログで紹介済)とは異なるルートで、オークブリッジ駅(Oakbridge Station)へと向かっていた。

ジョン・ゴードン・マッカーサーが乗った列車は、丁度、デヴォン州(Devon)の州都であるエクセター(Exeter)の駅に入るところで、当該駅で乗り換える必要があった。


ジョン・ゴードン・マッカーサーは、オーウェン(Owen)なる人物に、デヴォン州海岸の沖合いの島である兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)へと招待されていた。

オーウェンなる人物によると、ジョン・ゴードン・マッカーサーの古い友人も招待されている、とのことだった。


兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>


将軍には、このオーエンなる人物がいったい何者なのか、どうもはっきりしなかった。スプーフ・レガードの友達のようだし - それにジョニー・ダイアの友達でもあるらしい。

”- 閣下の古いご友人も、一人二人お見えになります - 昔話に花を咲かせられるのも、よろしいかと”

うむ、昔話をしたら、さぞかし楽しかろう。将軍はこの頃、周囲の人間が自分を避けているような気がしてならなかった。あの噂のせいにきまっておる! やれやれ、なんてしつこいんだ - もう三十年近く前のことではないか! アーミテッジのやつがしゃべったにちがいない。あの青二才め! いったいなにをつかんだのだろう。いや、よそう、こんなことをくよくよ気にしても始まらない。誰でも、ふとそんな気がすることがある - 変な目で見られているような、そんな気が -

それじゃともかくとして、この兵隊島は、将軍も自分の目で見たいと思っていた。噂が噂を呼んでいる島だ。海軍省か陸軍省、あるいは空軍が手に入れたという話は、噂ばかりとは言えないようだし…

エルマー・ロブソンという若いアメリカ人の富豪が、そこに邸宅を建てたのは事実だ。大金をかけたと聞いている。とほうもなく贅沢なものらしい…。

(青木 久惠訳)


ジグソーパズルの中段の一番左端に、愛する妻レスリー(Lesley)に思いを馳せるジョン・ゴードン・マッカーサーが、赤枠で囲まれている。また、直ぐ下には、兵隊島の先端に一人ポツンと座り、水平線をジッと見つめている彼の姿が見られる。


兵隊島に建つ邸宅の一番左端には、
兵隊島の先端に一人ポツンと座り、水平線をジッと見つめている
ゴードン・マッカーサーの姿が見られる。
<筆者撮影>


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた召使と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と召使夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

ジョン・ゴードン・マッカーサーは、戦地において、自分の部下で、妻レスリーの愛人だったアーサー・リッチモンド(Arthur Richmond)を故意に死地へ赴かせたと告発された。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と召使夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、エミリー・キャロライン・ブレントは、3番目の被害者となる。


Eight little soldier boys travelling in Devon; One said he’d stay and then there were Seven.

(8人の子供の兵隊さんが、デヴォン州を旅した。一人がそこに住むと言って、残りは7人になった。)



退役した老将軍であるジョン・ゴードン・マッカーサーは、
海岸において、自分の罪状を悔いている際、
鉛入りの護身用ステッキか何かで後頭部を殴打され、
頭蓋骨折のため、3番目
の犠牲者となる。
画面左下の場面において、右側から、ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(秘書)、
トマス・ロジャーズ(執事)、
ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(元判事)、
ウィリアム・ヘンリー・ブロア(元警部)、ジョン・ゴードン・マッカーサー(遺体)、
フィリップ・ロンバード(元陸軍大尉)、エドワード・ジョージ・アームストロング(医師)、
そして、
エミリー・キャロライン・ブレント(老婦人)が立っている。-

HarperCollins Publishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。

*被害者:ジョン・ゴードン・マッカーサー

*告発された罪状:戦地において、自分の部下で、妻レスリーの愛人だったアーサー・リッチモンドを故意に死地へ赴かせた。


ジョン・ゴードン・マッカーサーの死亡に伴い
テーブルの上に置かれた兵隊の人形の数が8個から7個へと減っていた。-
HarperCollins Publishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


*被害者:ジョン・ゴードン・マッカーサー

*告発された罪状:戦地において、自分の部下で、妻レスリーの愛人だったアーサー・リッチモンドを故意に死地へ赴かせた。

*犯罪発生時期:1917年1月14日

*死因:鉛入りの護身用ステッキか何かによる後頭部殴打に基づく頭蓋骨折


2025年10月29日水曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その6

ジグソーパズルの上部のやや右側に、
赤い服を着た正装したエミリー・キャロライン・ブレントが顔の前で両手を合わせている場面が、
赤枠で囲まれている。
<筆者撮影>

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)

(5)(24)エミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent)

信仰心の厚い老婦人のエミリー・キャロライン・ブレント(65歳)は、高名な元判事のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave → 2025年10月20日付ブログで紹介済)、体育教師(games mistress)のヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne → 2025年10月21日付ブログで紹介済)や元陸軍中尉(Lieutenant)のフィリップ・ロンバード(Philip Lombard → 2025年10月28日付ブログで紹介済)と同じく、ロンドンのパディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)12時40分発の列車に乗り、オークブリッジ駅(Oakbridge Station)へと向かっていた。

パディントン駅のコンコースとそれを覆うガラス屋根
<筆者撮影>

ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、一等喫煙車に乗っていたが、エミリー・キャロライン・ブレントが乗っていたのは、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンやフィリップ・ロンバードと同じ三等車だった。ただし、彼女は、別の車両(禁煙者)に乗車していた。


エミリー・キャロライン・ブレントは、デヴォン州(Devon)海岸の沖合いの島で旅館を開業しようとしている U. N. O. と言う人物から招待されて、兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)へと赴く途中だった。

U. N. O. と名乗る人物によると、数年前の8月、ベルヘイヴンの旅館において、エミリー・キャロライン・ブレントに会ったことがある、とのことだった。


兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>


名前は何だったのかしら。名字の部分がいやに読みづらかった。”ひどくくずした字でサインする人が多いから、困るわ” エミリー・ブレントはいらいらした。

ベルヘイヴンで出会った人たちを思い浮かべてみた。ミス・ブレントはそこに、二夏続けて行ったのだ。感じのいい、中年女性がいたっけ - たしか、ミス - ミスなんとか - ああ、なんて名前だったかしら。お父さんが聖堂参事会員だったと言っていたけれど - ほかにもミセス・オルトンとか - オーメンとか - いえ、そうじゃなくて、たしかオリヴァーだったわ! そう、オリヴァーよ。

兵隊島! そう言えば、その島の話が新聞にのっていたわねえ。映画スターがどうのこうの - それとも、大富豪のアメリカ人の話だったかしら。

そういう場所は、きっと値段もぐんと安いのにちがいない。島というのは、万人向けではない。島と聞けば、ロマンティックと思うけれど、実際に住んでみれば、不便とわかり、すぐに売りに出されるのだ。

”とにかく、夏休みをただですごせるんだから”と、エミリー・ブレントは思った。

収入が大幅に減ったうえに、投資の配当金ももらえないことが多かったから、本当に耳よりな話だった。とはいえ、ミセス・オリヴァーのことが - ミスだったかしら - もうちょっと思いだせると、いいんだけれどねえ!

(青木 久惠訳)


ジグソーパズルの上部のやや右側に、赤い服を着た正装したエミリー・キャロライン・ブレントが、顔の前で両手を合わせている場面が、赤枠で囲まれている。また、兵隊島に建つ邸宅の2階の一番右端が、エミリー・キャロライン・ブレントの部屋で、その窓辺に佇む彼女の姿が見られる。


兵隊島に建つ邸宅の2階の一番右端が、エミリー・キャロライン・ブレントの部屋で、
その窓辺に佇む彼女の姿が見られる。
<筆者撮影>


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた召使と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と召使夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

エミリー・キャロライン・ブレントは、以前、ビアトリス・テイラー(Beatrice Taylor)と言う娘を使っていたが、誰の子か判らない子を身ごもったため、彼女を解雇。また、ビアトリス・テイラーの両親も、娘の不始末を許さなかったので、彼女は、川に身を投げて、自分の命を絶っている。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と召使夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、エミリー・キャロライン・ブレントは、5番目の被害者となる。


Six little soldier boys playing with a hive; A bumble-bee stung one and then there were Five.

(6人の子供の兵隊さんが、蜂の巣に悪戯をした。一人が蜂に刺されて、残りは5人になった。)


信仰心の厚い老婦人であるエミリー・キャロライン・ブレントは、
他のゲスト達が朝食の後片付けをしている最中、食堂に一人残っていた。
その時、
皮下注射器に入った青酸カリが入った皮下注射器を首筋に刺されて、5番目の犠牲者となる。 -
HarperCollins Publishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


*被害者:エミリー・キャロライン・ブレント

*告発された罪状:以前、ビアトリス・テイラー(Beatrice Taylor)と言う娘を使っていたが、誰の子か判らない子を身ごもったため、彼女を解雇。また、ビアトリス・テイラーの両親も、娘の不始末を許さなかったので、彼女は、川に身を投げて、自分の命を絶っている。



エミリー・キャロライン・ブレントの死亡に伴い、
テーブルの上に置かれた兵隊の人形の数が6個から5個へと減っていた。
画面左側から、ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(秘書)、フィリップ・ロンバード(元陸軍大尉)、
ウィリアム・ヘンリー・ブロア(元警部)、エドワード・ジョージ・アームストロング(医師)、
そして、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(元判事)
の5人
が立っている。-

HarperCollins Publishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


*犯罪発生時期:1931年11月5日

*死因:皮下注射器に入った青酸カリによる中毒死


2025年10月28日火曜日

「そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その5

ジグソーパズルの上部のやや左側に、
正装したフィリップ・ロンバードが左手に拳銃を構えている場面が、赤枠で配置されている。
<筆者撮影>

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)

(4)(25)フィリップ・ロンバード(Philip Lombard)

元陸軍中尉(Lieutenant)のフィリップ・ロンバードは、高名な元判事のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave → 2025年10月20日付ブログで紹介済)や体育教師(games mistress)のヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne → 2025年10月21日付ブログで紹介済)と同じく、ロンドンのパディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)12時40分発の列車に乗り、オークブリッジ駅(Oakbridge Station)へと向かっていた。

パディントン駅のコンコースとそれを覆うガラス屋根
<筆者撮影>


ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、一等喫煙車に乗っていたが、フィリップ・ロンバードが乗っていたのは、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンと同じ三等車で、それも彼女の向かいの席に座っていたのである。


フィリップ・ロンバードは、ユダヤ人のアイザック・モリス(Issac Morris)から内密の仕事を依頼されて、兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)へと赴く途中だった。


兵隊島は、
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。
<筆者撮影>


それにしても今度の仕事は、いったいどういうことなんだ。ロンバードは不思議でならなかった。あのチビのユダヤ人、やたら謎めいたことを言っていたなあ。

「ロンバード大尉さん、いやならいやで、いいんですよ。」

そう言われて、ロンバードは考えながら言った。

「百ギニーかい」

彼は百ギニーなんて金のうちに入らないような、軽い調子でそう言った。あと一回まともな食事をしたら、財布の中はすっからかんだというのに! でもあのユダヤ人にはそのことが、ちゃんとわかっていたにちがいない。しゃくにさわるのは、そこだ。こと金に関する限り、やつらの目は絶対にごまかせない - すべて、お見とおしだ!

ロンバードは軽い調子のまま、続けた。

「それ以上はなにも教えてもらえないわけかい」

アイザック・モリスは、小さなハゲ頭をきっぱりふった。

「そうです。いまお話ししたことだけです。この話を持ってきたお客さんの話だと、ロンバード大尉さん、あんたはピンチに強いという評判だとか。デヴォン州スティクルヘイヴンに行ってもらえるんなら、百ギニーお払いするように、言いつかっています。オークブリッジ駅まで列車で行ってもらえば、迎えの者がスティクルヘイヴンまで車で送ります。そこから兵隊島には、モーターボートですね。島に着いたら、お客さんの指図に従ってください」

ロンバードはだしぬけに質問した。

「期間は?」

「長くても、一週間以上にはなりません」

短い口ひげをひねって、ロンバード大尉は言った。

「わかっているんだろうね - 不正なことは、いっさいお断りなんだよ」

そう言いながらロンバードは、相手を、チラッと見た。真面目くさって答えるモリスのユダヤ人らしい厚ぼったい唇に、薄笑いがかすかににじんだ。

「不正なことをするように言われたら、もちろんその場で引いてもらって、かまいませんよ」

ネコっかぶりめ、笑いやがった! ロンバードの過去の行動から推して、不正かどうかなんて、ろくに気にしないことを見すかしたような、笑い方だった。

ロンバード自身の唇も、ニヤリと笑いくずれた。

たしかに危ない橋を渡ったことも、一度や二度あったっけな。でもいつも、なんとか切り抜けた。彼があまりこだわらないのは、本当のことだった…

四の五の言う気はない。兵隊島とやら、けっこうおもしろそうじゃないか…

(青木 久惠訳)


兵隊島に建つ邸宅の入口の上にある窓の向こうの廊下を、
右手にロウソクを持ち、左手に拳銃を構えた正装のフィリップ・ロンバードが進んでいる姿が描かれている。
<筆者撮影>


ジグソーパズルの上部のやや左側に、正装したフィリップ・ロンバードが、左手に拳銃を構えている場面が、赤枠で囲まれている。また、兵隊島に建つ邸宅の入口の上にある窓の向こうの廊下を、右手にロウソクを持ち、左手に拳銃を構えた正装のフィリップ・ロンバードが進んでいる姿が見られる。


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州(Devon)の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた召使と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と召使夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

フィリップ・ロンバードは、東アフリカにおいて先住民族から食料を奪った後、彼ら21人を見捨てて死なせたと告発された。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と召使夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、フィリップ・ロンバードは、9番目の被害者となる。


Two little soldier boys sitting in the sun; One got frizzled up and then there was One.

(2人の子供の兵隊さんが、日光浴をしていた。一人が焼け焦げになって、残りは1人になった。)


画面中央に立つ水色の服を着た人物が、ヴェラ・エリザベス・クレイソーン。
彼女の左側に横たわる黄色いシャツに焦げ茶色のズボンの人物が、フィリップ・ロンバードで、
彼女の右側に横たわる緑色のスーツを見た人物が、
医師のエドワード・ジョージ・アームストロングである。
アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。

*被害者:フィリップ・ロンバード

*告発された罪状:東アフリカの部族民21名を死に追いやったと告発された。

*犯罪発生時期:1932年2月のある日



原作の場合、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、フィリップ・ロンバードから拳銃を奪い取ると、

彼が飛び掛かった際、反射的に引き金を引いて、彼の心臓を打ち抜いてしまう。

つまり、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが、フィリップ・ロンバードに向けて発射した拳銃は、1発のみ。

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版の場合、
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、フィリップ・ロンバードに向けて、
拳銃を3発発射しているので、原作とは内容が異なる。


*死因:射殺

海岸において、エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong - 医師)の溺死体を発見したヴェラ・エリザベス・クレイソーンは、フィリップ・ロンバードから拳銃を奪い取ると、彼が飛び掛かった際、反射的に引き金を引いて、彼の心臓を打ち抜いてしまう。つまり、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンが、フィリップ・ロンバードに向けて発射した拳銃は、1発のみ。


2025年10月27日月曜日

エルキュール・ポワロの世界 <ジグソーパズル>(The World of Hercule Poirot )- その9

ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人は、
ジグソーパズル中央に立つエルキュール・ポワロのすぐ右側にある肘掛け椅子に座っている
アリアドニ・オリヴァー(Ariadne Oliver -
フィンランド人探偵(Sven Hjerson)を主人公とするシリーズで有名な女性推理作家)
の右隣りの肘掛け椅子に腰掛けている。
<筆者撮影>

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に発行されている「エルキュール・ポワロの世界(The World of Hercule Poirot)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているエルキュール・ポワロシリーズの登場人物や各作品に関連した112個の手掛かりについて、引き続き、紹介したい。

(8)ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人(Countess Vera Rossakoff)

ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人は、ジグソーパズル中央に立つエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)のすぐ右側にある肘掛け椅子に座っているアリアドニ・オリヴァー(Ariadne Oliver - フィンランド人探偵(Sven Hjerson)を主人公とするシリーズで有名な女性推理作家)の右隣りの肘掛け椅子に腰掛けている。

厚手のコートを羽織理、手袋をした両手には、彼女のイニシャルである「VR」をキリル文字で示した「BP」が書かれたハンカチを持っている。


ジグソーパズル「エルキュール・ポワロの世界」の完成形
<筆者撮影>


ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人は、帝政ロシア時代に貴族だった女性で、その堂々とした立ち振る舞いにより、エルキュール・ポワロには、「非凡な女性」と評価されている。

彼女自身も、ポワロのことを「数少ない恐ろしい男」と述べている。


ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人は、エルキュール・ポワロシリーズの短編「二重の手掛かり(The Double Clue)」(1923年)において、初登場。

その後、同シリーズの長編「ビッグ4(The Big Four」(1927年)において、世界征服を企む国際犯罪組織である「ビッグ4」の手先として登場する。

同シリーズの短編集「ヘラクレスの冒険(The Labours of Hercules)」(1947年)の一編「ケルベロスの捕獲(The Capture of Cerberus)」(1947年)では、ロンドン市内において、「地獄(Hell)」と言うナイトクラブ(nightclub)を経営していることが語られる。


登場作品


<長編>

*「ビッグ4」(1927年)


英国の Harper Collins Publishers 社から以前に出版されていた
アガサ・クリスティー作「ビッグ4」のペーパーバック版の表紙


<短編>

*「二重の手掛かり」(1923年)

*「ケルベロスの捕獲」(1947年)


2025年10月26日日曜日

エルキュール・ポワロの世界 <ジグソーパズル>(The World of Hercule Poirot )- その8

アリアドニ・オリヴァーは、
ジグソーパズル中央に立つエルキュール・ポワロのすぐ右側に居て、

肘掛け椅子に座っている。

<筆者撮影>

 英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に発行されている「エルキュール・ポワロの世界(The World of Hercule Poirot)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているエルキュール・ポワロシリーズの登場人物や各作品に関連した112個の手掛かりについて、引き続き、紹介したい。

(7)アリアドニ・オリヴァー(Ariadne Oliver)

アリアドニ・オリヴァーは、ジグソーパズル中央に立つエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)のすぐ右側に居て、

肘掛け椅子に座っている。頭に帽子を冠り、右足を上にして、足を組んでいる。


ジグソーパズル「エルキュール・ポワロの世界」の完成形
<筆者撮影>


アリアドニ・オリヴァーは、フィンランド人探偵(Sven Hjerson)を主人公とするシリーズで有名な女性推理作家で、アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)自身が彼女のモデルと言われている。

彼女は、リンゴが大好きで、いつも齧っているが、ある事件を契機に、リンゴを食べられなくなってしまう。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に出ている
「アガサ・クリスティーのトランプ」の1枚である
7 ♠️アリアドニ・オリヴァー


登場作品


<長編>

*「ひらいたトランプ(Cards on the Table)」(1936年)- エルキュール・ポワロシリーズ

*「マギンティー夫人は死んだ(Mrs. McGinty’s Dead)」(1952年)- エルキュール・ポワロシリーズ

*「死者のあやまち(Dead Man’s Folly)」(1956年)- エルキュール・ポワロシリーズ


英国の Harper Collins Publishers 社から以前に出版されていた
アガサ・クリスティー作「死者のあやまち」の
ペーパーバック版の表紙


*「蒼ざめた馬(The Pale Horse)」(1961年)- ノンシリーズ

*「第三の女(The Third Girl)」(1966年)- エルキュール・ポワロシリーズ

*「ハロウィーンパーティー(Hallowe’en Party)」(1969年)- エルキュール・ポワロシリーズ


英国の Harper Collins Publishers 社から以前に出版されていた
アガサ・クリスティー作「ハロウィーンパーティー」の
ペーパーバック版の表紙


*「象は忘れない(Elephants Can Remember)」(1972年)- エルキュール・ポワロシリーズ


<短編集>

*「パーカー・パイン登場(Parker Pyne Investigates)」(1934年)- パーカー・パインシリーズ

 ・「退屈している軍人の事件(The Case of the Discontented Solider)」(1932年)→ 当作品が、アリアドニ・オリヴァーの初登場作品に該る。


2025年10月25日土曜日

エルキュール・ポワロの世界 <ジグソーパズル>(The World of Hercule Poirot )- その7

ジョン・レイス大佐は、ジグソーパズルの左下近くに居て、
ジグソーパズル中央に立つエルキュール・ポワロの方を見つめている。

<筆者撮影>

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に発行されている「エルキュール・ポワロの世界(The World of Hercule Poirot)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているエルキュール・ポワロシリーズの登場人物や各作品に関連した112個の手掛かりについて、引き続き、紹介したい。

(6)ジョン・レイス大佐(Colonel John Race)

ジョン・レイス大佐は、ジグソーパズルの左下近くに居て、ジグソーパズル中央に立つエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot → 2025年10月11日付ブログで紹介済)の方を見つめている。背広を着て、右手には、帽子を持っている。なお、背広の右ポケットから、メモ用紙なのか、紙のようなものがはみ出ている。

ジグソーパズル「エルキュール・ポワロの世界」の完成形
<筆者撮影>


彼は、元陸軍情報部員で、現在は、英国政府の情報機関に勤務。力強く、寡黙な人物である。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2023年に出ている
「アガサ・クリスティーのトランプ」の1枚である
4 ♠️「ジョン・レイス大佐」


登場作品


<長編>

*「茶色の服を着た男(The Man in the Brown Suit)」(1924年)

*「ひらいたトランプ(Cards on the Table)」(1936年)- エルキュール・ポワロ シリーズ

*「ナイルに死す(Death on the Nile)」(1937年)- エルキュール・ポワロ シリーズ


英国の Harper Collins Publishers 社から以前に出版されていた
アガサ・クリスティー作「ナイルに死す」のペーパーバック版の表紙


*「忘られぬ死(Sparkling Cyanide)」(1945年)