2024年11月19日火曜日

ベアトリス・ポター生誕150周年記念切手 - その4

英国のファンタジー / SF / 推理作家であるフィリップ・パーサー=ハラード(Philip Purser-Hallard:1971年ー)が2023年に発表した「シャーロック・ホームズ / 湖の怪物」(Sherlock Holmes / The Monster of the Mere → 2024年10月30日付ブログで紹介済)は、英国の湖水地方(Lake District)を舞台にしている。

湖水地方と言うと、思い出されるのが、英国の絵本作家であるヘレン・ベアトリス・ポター(Helen Beatrix Potter:1866年ー1943年)と彼女が生み出したピーターラビット(Peter Rabbit)である。


2016年7月28日に、ヘレン・ベアトリス・ポターの生誕150周年を記念した切手10種類が、英国のロイヤルメール(Royal Mail)から発行されているので、11月7日、11月9日および11月13日に引き続き、紹介したい。



今回は、ヘレン・ベアトリス・ポターが1902年に発表した「ピーターラビットのおはなし(The Tale of Peter Rabbit)」(1902年)にかかる記念切手4種類である。


ある時、寡婦となった母親うさぎが、子供達(ピーターラビットと娘3匹)に対して、
「お父さんは畑に入って、マグレガーおじさんに捕まり、パイにされてしまった。
だから、マグレガーおじさんの畑には絶対入らないように。」と忠告する。


ピーターラビットは、1893年9月4日に、ヘレン・ベアトリス・ポターが彼女の家庭教師で友人のアニー・ムーア(Annie Moore)の息子である病床のノエル少年(Noel - 5歳)に対して送った絵手紙が原型となっている。

1900年に、アニー・ムーアに勧められたヘレン・ベアトリス・ポターは、上記の絵手紙をベースにした絵本の執筆に入る。執筆を終えたヘレン・ベアトリス・ポターは、「ピーターラビットとマグレガーおじさんの畑」と言うタイトルの原稿を各出版社宛に送ったが、残念ながら、彼女の原稿は各出版社から断られてしまった。

そこで、自費出版を決意したヘレン・ベアトリス・ポターは、1901年12月16日、「ピーターラビットのおはなし」を自分で250冊印刷して、家族や友人達に配ったのである。


子供達のうち、娘うさぎの3匹は、母親うさぎの忠告通り、
マグレガーおじさんの畑には入らず、ブラックベリーを摘みに出かけた。
一方、悪戯好きなピーターラビットは、母親うさぎの忠告を聞かず、
マグレガーおじさんの畑に入り、おやつに畑の野菜を勝手に食べてしまう。


フレデリック・ウォーン社(Frederick Warne & Co.)は、当初、ヘレン・ベアトリス・ポターの原稿を断った出版社の1社であったが、彼女の作品が他の児童書と競合できるのではないかと考え、再検討を行った。そして、フレデリック・ウォーン社は、ヘレン・ベアトリス・ポターに対して、白黒の挿絵ではなく、色付きの挿絵を入れることを求めた。

フレデリック・ウォーン社の創業者の息子3人のうち、一番下で編集者であるノーマン・ウォーン(Norman Warne:1868年ー1905年)による協力の下、原稿を完成させたヘレン・ベアトリス・ポターは、1902年6月、5000冊を発行することで、同社と正式な出版契約を締結する。

そして、1902年10月、「ピーターラビットのおはなし」が出版され、初版8000冊が直ぐに売り切れとなった。更に、最初の出版から1年後には、56000冊以上が印刷され、商業的な成功を収めたのである。


マグレガーおじさんの畑の野菜を食べ過ぎて、
お腹が痛くなったピーターラビットは、パセリを探しに行った。


「ピーターラビットのおはなし」は、大変な悪戯っ子であるピーターラビットが、母親から「マグレガーおじさん(Mr. McGregor)の畑には、絶対行かないように。」といつも注意を受けているものの、母親の言い付けを守らず、畑へ忍び込んで、マグレガーおじさんに見つかってしまい、なんとか逃げ切ると言う話をその内容としており、現在、40近くの言語に翻訳され、世界的なベストセラーの1冊となっている。


マグレガーおじさんに見つかったピーターラビットは、
ジャケットと靴が脱げる程の勢いで、逃げ出したのである。


なお、シャーロック・ホームズシリーズの作者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)も、彼の子供が欲しがったため、同作品を購入した1人であり、内容について、非常に高い評価を与えている。


                                    

2024年11月18日月曜日

アガサ・クリスティー作「ゼロ時間へ」<小説版(愛蔵版)>(’Towards Zero’ by Agatha Christie )- その1

2024年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
アガサ・クリスティー作「ゼロ時間へ」の
愛蔵版(ハードカバー版)の表紙
(Cover design by 
HarperCollinsPublishers Ltd. /
Cover illustration : Courtesy of the Mill at Sonning Theatre) 


「ゼロ時間へ(Towards Zero)」は、アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1944年に発表した長編推理小説である。

今年(2024年)、「ゼロ時間へ」の発表80周年を記念して、英国の HarperCollinsPublishers 社から同作品の愛蔵版(ハードバック版)が出版されているので、今回、紹介致したい。


「ゼロ時間へ」は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第34作目にに該っている。


「ゼロ時間へ」の場合、通常の作品とは異なり、犯人が殺人の計画を策定する時間から始まって、犯行の瞬間である「ゼロ時間」へと遡っていくと言う独特の叙述法が採用されている。


「ゼロ時間へ」には、エルキュール・ポワロ 、ミス・ジェイン・マープルやトミー&タペンス・ベレズフォードのシリーズ探偵は登場せず、その代わりに、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)のバトル警視(Superintendent Battle)が探偵役を務める。


英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、
2023年に発行されたアガサ・クリスティーをテーマにしたトランプのうち、
3 ♠️「バトル警視(Superintendent Battle)」


バトル警視は、スコットランドヤードの警視で、主に政治に関係する重要な問題を取り扱う。大柄の体格、彫りが深くて無表情な顔、そして、エルキュール・ポワロに匹敵する口髭が特徴。

バトル警視には、妻のメアリー(Mary Battle)との間に、5人の子供が居て、末娘の名前は、シルヴィア(Sylvia Battle)である。また、甥には、バトル警視と同じく、スコットランドヤードに所属するジェイムズ・リーチ警部(Inspector James Leach)が居る。


登場作品

<長編>

*「チムニーズ館の秘密(The Secret of Chimneys)」(1925年)

*「七つの時計(The Seven Dials Mystery)」(1929年)

*「ひらいたトランプ(Cards on the Table)」(1936年)- エルキュール・ポワロ シリーズ

*「殺人は容易だ(Murder is Easy)」(1939年)

*「ゼロ時間へ」(1944年) 


                                        

2024年11月16日土曜日

テイト・ブリテン美術館にあるジョスリン・バーバラ・ヘップワース彫刻作品(Sculptures by Jocelyn Barbara Hepworth at Tate Britain in London)

「翼がある形(Winged Figure → 2024年11月6日付ブログで紹介済)」、「サギ(Heron → 2024年11月8日付ブログで紹介済)」、「天空の石柱(Monolith-Empyrean = Heavenly Stone → 2024年11月11日付ブログで紹介済)」およびセントアイヴス(St. Ives)にある彫刻作品(→ 2024年11月14日付ブログで紹介済に続き、英国の芸術家 / 彫刻家で、英国コンウォール州(Cornwall)にあるセントアイヴスに住む芸術家のコミュニティーにおいて、主導的な役割を果たした人物であるジョスリン・バーバラ・ヘップワース(JocelynBarbara Hepworth:1903年ー1975年 → 2024年10月1日 / 10月31日 / 11月2日付ブログで紹介済)による彫刻作品のうち、ロンドンにあるテイト・ブリテン美術館(Tate Britain → 2018年2月18日付ブログで紹介済)に所蔵されている作品について、紹介したい。


テイト・ブリテン美術館の建物正面を階段下から見上げたところ 

テイト・ブリテン美術館の正面玄関へと向かう階段の左脇の支柱


Seated Figure / 1932年ー1933年
Lignum vitae / 35.6 cm x 26.7 cm x 21.6 cm
Presented by the executors of the artist's estate in 1980
<テイト・ブリテン美術館で購入した葉書を使用>

Mother and Child / 1934年
Cumberland alabaster on marble base / 22 cm x 45.5 cm x 18.9 cm
Presented with assistance from the Friends of the Tate Gallery in 1993
<テイト・ブリテン美術館で購入した葉書を使用>

Pelagos / 1946年
Elm and strings on oak base / 43 cm x 46 cm x 38.5 cm
Presented by the artist in 1964
<テイト・ブリテン美術館で購入した葉書を使用>


なお、次の彫刻作品は、ロンドンのテイト・ブリテン美術館ではなk、ウェストヨークシャー州(West Yorkshire)ウェイクフィールド(Wakefield)にあるヘップワース・ウェイクフィールド(The Hepworth Wakefield)と言うギャラリーに所蔵されている。


Three Forms (Tokio) / 1967年
Plaster / Wakefield Permanent Art Collection
The Hepworth Family Gift Presented through the Art Fund
<テイト・ブリテン美術館で購入した葉書を使用>


                                             

2024年11月15日金曜日

アガサ・クリスティー作「春にして君を離れ」(’Absent in the Spring’ by Agatha Christie)- その2

日本の出版社である早川書房から
クリスティー文庫の1冊として出版されている
アガサ・クリスティー作「春にして君を離れ」の表紙(部分)
Photograph : CORBIS / amana images
Cover Design : Hayakawa Design

エルキュール・ポワロやミス・ジェイン・マープル等のシリーズ探偵を生み出したアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が、メアリー・ウェストマコット(Mary Westmacott)名義で、第二次世界大戦(1939年ー1945年)中の1944年に発表した長編小説である「春にして君を離れ(Absent in the Spring)」の場合、1930年代、主婦であるジョーン・スカダモア(Joan Scudamore)が、急病になった末娘(次女)を見舞うために、英国のクレイミンスターからバグダッド(当時、英国の勢力圏内)にきているところから、話が始まる。


ジョーン・スカダモアは、優しい夫と良き子供達(1男2女)に恵まれ、良き妻 / 良き母であると自負するとともに、自分の理想の過程を築き上げたことに、非常に満ち足りていたところだったが、次女が急病になった旨の連絡があり、急いで次女の元へとやって来たのであった。


<ロドニー・スカダモア>

ジョーン・スカダモアの夫で、クレイミンスターにおいて、オルダマン・スカダモア・ウィットニー法律事務所を経営。

法律事務所は、元々、ロドニーの伯父であるハリーが経営していたが、司法試験に合格したロドニーは、ハリー伯父から、共同経営者として迎え入れられた。当時、ロドニーは、自分を弁護士には向いていないと考えており、本当のところは、農場経営を夢見ていたが、ジョーンによる説得を受けて、最終的には、ハリー伯父の法律事務所へと入った。


<トニー・スカダモア>

スカダモア夫妻の初子で、長男。

農科大学を卒業後、アフリカのローデシアにおいて、オレンジ園を経営。

ダーバン出身の娘と結婚。


<エイヴラル・スカダモア>

スカダモア夫妻の長女で、非常に理知的な性格。

以前、妻帯者である年上の男性との間で、激しい恋愛に落ちて、スカダモア夫妻の気を揉ませたことがある。

現在、株式ブローカーで、物静かな、良い人柄で、非常に裕福なエドワード・ハリソン・ウィルモットと結婚して、ロンドンに居住。


<バーバラ・スカダモア>

スカダモア夫妻の末っ子で、次女

彼女は、スカダモア家を離れたがっており、レディー・ヘリオットを叔母に持つウィリアム・レイと結婚して、現在、バグダットに居住。

夫のウィリアムは、イラクの土木事業局に有力な地位を得ている。

レイ夫妻には、赤ん坊のモプシーが居る。


見舞いに訪れたジョーン・スカダモアの手当で、次女のバーバラは、無事に回復期へ入った。

急病となったバーバラと全く頼りにならないウィリアムの2人により混乱した家庭を、ジョーン・スカダモアは、万事怠り無く立て直したものと満足していた。


ところが、次女のバーバラが急病になった原因が、何故かハッキリとしない上に、バーバラとウィリアムに加えて、彼らの主治医までが、ジョーンに対して、非常に余所余所しい態度をみせる。

更に、バーバラが回復期に入ったため、ジョーンが英国へ引き上げようとするそぶりを見せると、バーバラとウィリアムの2人は、ジョーンを引き留めようとは、全くしなかった。寧ろ、どちらかと言うと、2人は、ジョーンに早く帰って欲しそうだった。それが、ジョーンには、非常に奇妙に思えたのである。


          

2024年11月14日木曜日

セントアイブスにあるジョスリン・バーバラ・ヘップワース彫刻作品(Sculptures by Jocelyn Barbara Hepworth in St. Ives)

「翼がある形(Winged Figure → 2024年11月6日付ブログで紹介済)」、「サギ(Heron → 2024年11月8日付ブログで紹介済)」および「天空の石柱(Monolith-Empyrean = Heavenly Stone → 2024年11月11日付ブログで紹介済)」に続き、英国の芸術家 / 彫刻家で、英国コンウォール州(Cornwall)にあるセントアイヴス(St. Ives)に住む芸術家のコミュニティーにおいて、主導的な役割を果たした人物であるジョスリン・バーバラ・ヘップワース(JocelynBarbara Hepworth:1903年ー1975年 → 2024年10月1日 / 10月31日 / 11月2日付ブログで紹介済)による彫刻作品のうち、セントアイブスに所在するバーバラ・ヘップワース美術館(Barbara Hepworth Museum)にある作品について、紹介したい。


Sea Form (Porthmeor) / 1958年
Plaster / 83 cm x 113.5 cm x 35.5 cm
On loan from the artist's estate
to the Barbara Hepworth Museum, St. Ives
<テイト・ブリテン美術館(Tate Britain
→ 2018年2月18日付ブログで紹介済)で購入した葉書を使用>

Corymb / 1959年
Bronze / 26.5 cm x 34.2 cm x 24.2 cm
Accepted by HM Government
in lieu of inheritance tax
and allocated to Tate 2005, accessioned 2006 
On display at 
Barbara Hepworth Museum
and Sculpture Gardern, St. Ives, Cornwall
<テイト・ブリテン美術館で購入した葉書を使用>

Sphere with Inner Formea Form / 1963年
Bronze / 90 cm x 90 cm x 88.5 cm
Presented by the executors of the artist's estate
in accordance with her wishes
On display at Barbara Hepworth Museum
and Sculpture Gardern, St. Ives, Cornwall
<テイト・ブリテン美術館で購入した葉書を使用>

River Form / 1965年
Bronze / 79 cm x 193 cm x 85 cm
On loan from the artist's estate
to the Barbara Hepworth Museum, St. Ives
<テイト・ブリテン美術館で購入した葉書を使用>

Four-Square (Walk Through) / 1966年
Bronze / 429 cm x 199 cm x 229.5 cm
On loan from the artist's estate
to the Barbara Hepworth Museum, St. Ives
<テイト・ブリテン美術館で購入した葉書を使用>


                                        

2024年11月13日水曜日

ベアトリス・ポター生誕150周年記念切手 - その3

英国のファンタジー / SF / 推理作家であるフィリップ・パーサー=ハラード(Philip Purser-Hallard:1971年ー)が2023年に発表した「シャーロック・ホームズ / 湖の怪物」(Sherlock Holmes / The Monster of the Mere → 2024年10月30日付ブログで紹介済)は、英国の湖水地方(Lake District)を舞台にしている。

湖水地方と言うと、思い出されるのが、英国の絵本作家であるヘレン・ベアトリス・ポター(Helen Beatrix Potter:1866年ー1943年)と彼女が生み出したピーターラビット(Peter Rabbit)である。


2016年7月28日に、ヘレン・ベアトリス・ポターの生誕150周年を記念した切手10種類が、英国のロイヤルメール(Royal Mail)から発行されているので、前々回(11月7日)と前回(11月9日)に引き続き、紹介したい。


(5)こねこのトム(Tom Kitten)



「こねこのトムのおはなし(The Tale of Tom Kitten)」において、母親(Mrs. Tabitha Twitchit)がお友達を招いてお茶会を開く日、子猫のトムと妹達(Mittens / Moppet)は、母親におめかしをしてもらうが、残念ながら、彼らは、折角の素敵な洋服をダメしてしまう。

次作の「ひげねずみサミュエルのおはなし あるいは、ねんねこロール(The Tale of Samuel Whiskers or, The Rolv-Polv Pudding)」では、子猫のトムは、ネズミ達に捕まってしまい、夕食のねんねこロールにされてしまいそうになる。


<こねこのトムの登場作品>

*「こねこのトムのおはなし」(1907年)

*「ひげねずみサミュエルのおはなし あるいは、ねんねこロール」(1908年)


(6)ベンジャミンバニー(Benjamin Bunny)



ベンジャミンバニーは、ピーターラビット(Peter Rabbit)の従兄で、マグレガーおじさん(Mr. McGregor)の古い毛糸の帽子を冠っている。


ベンジャミンバニーが登場する「ベンジャミンバニーのおはなし(The Tale of Benjamin Bunny)」は、「ピーターラビットのおはなし(The Tale of Peter Rabbit)」(1902年)の続編で、母親の言い付けを守らず、マグレガーおじさんの畑へ忍び込んで、マグレガーおじさんに見つかり、上着と靴を忘れて来た大変な悪戯っ子であるピーターラビットは、従兄のベンジャミンバニーと一緒に、取り返しに行く。

ピーターラビットとベンジャミンバニーは、マグレガーおじさんの飼い猫に見つかってしまい、玉葱用の大きな籠に隠れるものの、その籠の上で猫が昼寝を始めてしまう事態に陥るのである。


<ベンジャミンバニーの登場作品>

*「ベンジャミンバニーのおはなし」(1904年)

*「フロプシーのこどもたち(The Tale of Flopsy Bunnies)」(1909年)

*「キツネのトッドのおはなし(The Tale of Mr. Tod)」(1912年)


                                    

2024年11月12日火曜日

ウィリアム・シェイクスピア作「ソネット集第98番」(’Sonnet 98 : From you have I been absent in the spring’ by William Shakespeare)

日本の出版社である株式会社 文藝春秋から
文春文庫として出版されている
「シェイクスピアのソネット」の表紙
装画:山本 容子(1952年ー : 日本の銅版画家)
デザイン:十河 岳男


エルキュール・ポワロやミス・ジェイン・マープル等のシリーズ探偵を生み出したアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が、メアリー・ウェストマコット(Mary Westmacott)名義で、第二次世界大戦(1939年ー1945年)中の1944年に発表した長編小説「春にして君を離れ(Absent in the Spring → 2024年11月10日付ブログで紹介済)」は、ロマンス小説と分類される全6作のうち、第3作目に該る。


なお、メアリー・ウェストマコット名義で発表されたロマンス小説は、以下の通り。


(1)「愛の旋律(Giant’s Bread)」(1930年)

(2)「未完の肖像(Unfinished Portrait)」(1934年)

(3)「春にして君を離れ」(1944年)

(4)「暗い抱擁(The Rose and the Yew Tree)」(1948年)

(5)「娘は娘(A Daughter’s a Daughter)」(1952年)

(6)「愛の重さ(The Burden)」(1956年)


文春文庫「シェイクスピアのソネット」に挿入されている
ウィリアム・シェイクスピアの肖像画
絵:山本 容子

タイトルに関しては、英国(イングランド)の劇作家 / 詩人であるウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare:1564年ー1616年)による「ソネット集第98番(Sonnet 98)」の一節である「From you have I been absent in the spring」から採られている。


今回は、「ソネット集第98番」の一節である「From you have I been absent in the spring」について、紹介したい。


文春文庫「シェイクスピアのソネット」のうち、
「ソネット集第98番」の挿絵
絵:山本 容子

Sonnet 98 : From you have I been absent in the spring

<小田島 雄志(1930年ー : 日本の英文学者 / 演劇評論家)訳>


From you have I been absent in the spring,

あなたから離れているあいだ、季節は春でした。


When proud-pied April, dressed in all his trim,

華やかなまだら模様の(晴着をつけた)四月が


Hath put a spirit of youth in everything,

万物に青春のはずむような息吹きを送りこんだので、


That heavy Saturn laughed and leaped with him.

陰気な農耕神(サターン)さえいっしょに踊り浮かれたほどでした。


Yet nor the lays of birds, nor the sweet smell

だが小鳥たちの歌を聞いても、色とりどりに咲く


Of different flowers in odour and in hue,

花それぞれの甘い香りをかいでも、私は


Could make me any summer’s story tell,

楽しい夏物語を語る気にはなれなかったし、


Or from their proud lap pluck them where they grew:

咲き誇る花床から花を摘む気にもなれませんでした。


Nor did I wonder at the lily’s white,

また、純白の百合を讃嘆することもなく、


Nor praise the deep vermilion in the rose;

深紅のバラを称賛することもありませんでした。


They were but sweet, but figures of delight

この花々は甘く香るだけのもの、喜びの模写、


Drawn after you, – you pattern of all those.

あなたをモデルにして描いたあなたの似姿にすぎません。


 Yet seem’d it winter still, and, you away,

 だが私には永い冬に思われ、あなたがいないから


 As with your shadow I with these did play.

 あなたの影と思って花々とたわむれたのでした。