2021年11月13日土曜日

ジョージ・マン作「シャーロック・ホームズ / 精神の箱」(Sherlock Holmes : The Spirit Box by George Mann) - その3

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2014年に出版された
ジョージ・マン作「シャーロック・ホームズ / 精神の箱」の表紙
(Images : Dreamstime / Shutterstock / funnylittlefish)


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆(3.0)


物語の基本路線は、第一次世界対戦(1914年-1918年)中、英国の情報、特に軍事情報を秘密裏に入手して、ドイツ側へ渡そうとするスパイとその協力者との戦いである。そういった意味では、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)の原作「最後の挨拶(His Last Bow → 2021年6月3日付ブログで紹介済)」と、設定は似通っている(事件の発生年月が、「最後の挨拶」の場合、第一次世界大戦の前夜である1914年8月で、本作品の場合、1915年の夏と異なっているが)。個人的には、国家と国家の利害が衝突するスパイ戦ではなく、もっと推理小説に近い事件でのシャーロック・ホームズ達の活躍を読みたかった。


(2)物語の展開について ☆☆☆半(3.5)


当時の時代背景があったかもしれないが、エクトプラズムの話が出てきた際、一瞬、オカルトっぽい流れになってしまうのではないかという懸念が生じたものの、一応、最終的には、現実路線での決着が為されて、一安心した。

本作品は、同じ著者による他の作品と同様に、読みやすかったが、共通して言えるのは、物語の筋として手堅いものの、全体的に物語が淡々と進み、大きな盛り上がりに欠ける感じがする。著者のテクニックの問題なのか、それとも、事件自体が結局のところ普通であったためなのか、判らないが。


(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆(3.0)


同じ著者による「死者の遺言書(The Will of the Dead → 2015年4月19日付ブログで紹介済)」では、犯人を炙り出すために、ホームズがやや禁じ手に近い手法を採っているが、本作品の場合、ホームズは、正攻法の捜査により、国会議員のハーバート・グランジ(Herbert Grange)から英国の情報を入手しようとしていた犯人に辿り着く。ただ、ハーバート・グランジが聴取していたドイツ人3名のルートを辿ることで、ホームズは単純かつ普通に犯人に行き着いてしまい、今一つ盛り上がらないのが難点。


(4)総合評価 ☆☆☆(3.0)


ストーリー自体は読みやすく、物語の筋としても手堅いが、全体を通して、単調なきらいを否めず、物語の終盤へ向けての大きな盛り上がりがないのが、残念である。

コナン・ドイルによる「最後の挨拶」(初出:1917年8月)のように、時節柄已むを得ないかとは思うが、スパイとの対決ではなく、本来の推理小説に出てくる知能的な犯人と対決するホームズであって欲しかった。



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