|
1891年5月4日の午後、シャーロック・ホームズは、犯罪界のナポレオンと呼ばれるジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)と一緒に、スイスのマイリンゲン(Meiringen)にあるライヘンバッハの滝(Reichenbach Falls)の底へと姿を消していた。
ホームズがジョン・H・ワトスンに残した最後の手紙には、頭文字「M」で始まる書類棚の中に、「モリアーティー」と書いた青い封筒があり、その中にモリアーティー教授が率いた犯罪組織を一網打尽にできる資料があると記されていたが、ワトスンがロンドンに戻り次第、その書類棚を調べてみると、そういった資料は何も残っていなかった。
ホームズがロンドンから居なくなってから、4年以上が過ぎ、1895年の夏が終わる頃、ワトスンの元に、米国から以下の3通の手紙が1週間毎に届く。
・1通目の中身:オハイオ州(Ohio)クリーヴランド(Cleveland)にある劇場のチケット
・2通目の中身:カリフォルニア州(California)で発行されている新聞(The Thousand Oaks Gazeteer)
・3通目の中身:女性用コルセット等が記載されたブローシャー<なお、手紙の差出地は、イリノイ州(Illinois)シカゴ(Chicago)>
ワトスンは、もしかして、ホームズが生きていて、現在滞在している米国から、ワトスンに対して、何かを伝えようとしているのではないかと考え、いろいろと知恵を絞るが、残念ながら、何も思い付かなかった。
米国の Quirk Books 社から2007年に出版された ドゥエイン・スウィアジンスキー作「ワトスン博士の犯罪」の挿絵(その3) (Illustration by Clint Hansen) |
ただ、ホームズが、モリアーティー教授と一緒に、ライヘンバッハの滝壺へと姿を消す前の1891年4月、彼がトラファルガースクエア(Trafalgar Square)のネルソン像(Nelson’s Statue)の周囲をウロウロとするのを、ワトスンは遠目ながら見かけていた。
また、ワトスンが、妻のメアリー(Mary)と一緒に、外へ出かける際、ホームズがワトスンの自宅近くに佇んでいるのに気付いた。ワトスンが声を掛けようとすると、ホームズは急に立ち去る等、ワトスンにとってやや不可解な行動をとっていたことを思い出すのであった。
そんな最中、4番目の手紙が、ニューヨーク(New York)から届いた。手紙の内には、ナイアガラの滝(Niagara Falls)が描かれた絵葉書が入っていた。
更に、5番目の手紙が続く。その内には、米国東海岸の鉄道(Southern Express)の時刻表が入っていた。
ワトスンには、もう訳が分からなかった。
米国の Quirk Books 社から2007年に出版された ドゥエイン・スウィアジンスキー作「ワトスン博士の犯罪」の挿絵(その4) (Illustration by Clint Hansen) |
1895年12月6日の夜遅く、ワトスン夫妻の自宅のドアをノックする者が居た。ワトスンがドアを開けると、そこには、ベーカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)のメンバーの一人であるセルウェイ(Selway)が立っていた。
彼はワトスンに対して、「ベーカーストリート221B(221B Baker Street)で何か変なことが起きているので、これから直ぐに一緒に来てほしい。」と告げる。ワトスンは、妻メアリーを起こさないよう、急いで着替えを済ませると、深い霧の中、セルウェイと一緒に、ベーカーストリート221Bへと徒歩で向かった。
米国の Quirk Books 社から2007年に出版された ドゥエイン・スウィアジンスキー作「ワトスン博士の犯罪」の挿絵(その5) (Illustration by Clint Hansen) |
あの事件からまだ数年しか経っておらず、ワトスンとしては、いくら暗闇とは言え、ピーター・スタイラーを見間違えるとは思えず、目の前の人物は、ピーター・スタイラー本人ではなく、モリアーティー教授の一味による変装ではないかと疑った。
一方、ピーター・スタイラーだと名乗る人物は、「実は、ホームズ氏は生きていて、4週間程前に自分の妻は彼に会っている。その際、ホームズ氏は、直ぐにロンドンに戻ると言っていたので、今日、事件を依頼するために訪れたのだ。」と話す。ホームズが生きている証拠を見せるため、鞄を開けようとするピーター・スタイラーと名乗る人物と彼を疑いつつ、護身のために登山杖を手にして、間を詰めようとするワトスン。
米国の Quirk Books 社から2007年に出版された ドゥエイン・スウィアジンスキー作「ワトスン博士の犯罪」の挿絵(その6) (Illustration by Clint Hansen) |
0 件のコメント:
コメントを投稿