「緑のカプセルの謎(The Problem of the Green Capsule)」は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1939年に発表した推理小説で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)シリーズの長編第10作目に該る。
物語は、ポンペイ(Pompeii)の廃墟の場面から始まる。
ロンドン警視庁犯罪捜査部(スコットランドヤード CID)のアンドルー・マッカンドルー・エリオット警部(Inspector Andrew MacAndrew Elliot)は、公務でイタリアのナポリに一週間滞在した。9月19日(日)の午後になって、漸く時間が空いたエリオット警部は、夕刻、ローマ、そして、パリを経由して、ロンドンへと戻る前に、観光を兼ね、ポンペイの廃墟を訪れた。ひたすら暑く、静まり返ったその日の午後のことは、彼にとって、忘れられない出来事となったのである。
太陽が照りつけて、一日の中でも気だるくなる時間帯、エリオット警部は、ポンペイを囲む壁の外にある墓場通りに立っていた。彼は墓場通りを進み、町の果てに辿り着くと、霊廟の間に、ポンペイ繁栄の絶頂期に建てられた貴族の別荘が見えた。興味を持った彼が中に入ってみると、仄暗く、湿っぽい匂いがする大広間の先には、列柱廊に囲まれた庭があり、日光が燦々と降り注いでいた。庭には夾竹桃(きょうちくとう)が満開で、赤松に囲まれた崩れた噴水の横には、旅行者一行が居て、英語の会話がエリオット警部の耳に聞こえてきた。
旅行者一行は、同年の6月17日(金)にバース(Bath)に近いソドベリークロス村(Sodbury Cross)にある煙草店兼菓子店において、その店頭で売られていたチョコレート・ボンボンに猛毒のストリキニーネが混入され、それを食べた子供達の一人(フランキー・デール(Frankie Dale))が亡くなった事件を話題にしていたのである。
エリオット警部が偶然遭遇した旅行者一行は、以下の6名。
(1)マーカス・チェズニー(Marcus Chesney): 桃栽培を営む実業家で、資産家
(2)マージョリー・ウィルズ(Marjorie Wills): マーカス・チェズニーの姪
(3)ジョーゼフ(ジョー)・チェズニー(Dr. Joseph (Joe) Chesney): マーカス・チェズニーの弟で、医師
(4)ウィルバー・エメット(Wilbur Emmet): チェズニー家の果樹園の責任者
(5)ギルバート・イングラム(Professor Gilbert Ingram): マーカス・チェズニーの友人で、引退した大学教授
(6)ジョージ・ハーディング(George Harding): マージョリー・チェズニーの婚約者で、化学者
最初の5人はソドベリークロス村に住んでいるが、事件を巡って村人が疑心暗鬼になっていることに加えて、亡くなった子供(フランキー)はマージョリー・ウィルズが特に可愛がっていた子であり、彼女が精神的にまいってしまったため、事件後、3ヶ月間の休暇を取って、療養を兼ね、皆で海外へと出ていたのである。その旅行中、マージョリー・ウィルズは、ジョージ・ハーディングと知り合ったのであった。
他の者に「ここは誰の家なのか?」と尋ねられたジョージ・ハーディングは、手にしたガイドブックを見て、答えた。「アウルス・レピドュス館。別名は、毒殺者の家です。」と。
沈黙が支配する旅行者一行をその場に残して、エリオット警部は、毒殺者アウルス・レピドュスの館を後にした。
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