2017年6月11日日曜日

ロンドン ソーンヒルクレッセント(Thornhill Crescent)

TV版のポワロシリーズにおいて、
ウィルブラームクレッセント19番地は英国南東岸のドーヴァー市内に設定されているが、
実際には、ロンドンのソーンヒルクレッセントで撮影されている

アガサ・クリスティー作「複数の時計(The Clocks)」(1963年)は、エルキュール・ポワロシリーズの長編で、今回、ポワロは殺人事件の現場へは赴かず、また、殺人事件の容疑者や証人への尋問も直接は行わないで、ロンドンにある自分のフラットに居ながらにして(=完全な安楽椅子探偵として)、事件の謎を解決するのである。


ャサリン・マーティンデール(Miss Katherine Martindale)が所長を勤めるキャヴェンディッシュ秘書紹介所(Cavendish Secretarial Bureau)から派遣された速記タイピストのシーラ・ウェッブ(Sheila Webb)は、ウィルブラームクレッセント通り19番地(19 Wilbraham Crescent)へと急いでいた。シーラ・ウェッブが電話で指示された部屋(居間)へ入ると、彼女はそこで身なりの立派な男性の死体を発見する。男性の死体の周囲には、6つの時計が置かれており、そのうちの4つが何故か午後4時13分を指していた。鳩時計が午後3時を告げた時、ウィルブラームクレッセント19番地の住人で、目の不自由な女教師ミリセント・ペブマーシュ(Miss Millicent Pebmarsh)が帰宅する。自宅内の異変を感じたミリセント・ペブマーシュが男性の死体へと近づこうとした際、シーラ・ウェッブは悲鳴を上げながら、表へと飛び出した。そして、彼女は、ちょうどそこに通りかかった青年コリン・ラム(Colin Lamb)の腕の中に飛び込むことになった。


ソーンヒルクレッセントがブリッジマンストリートと交差する角

実は、コリン・ラム青年は、警察の公安部員(Special Branch agent)で、何者かに殺された同僚のポケット内にあったメモ用紙に書かれていた「M」という文字、「61」という数字、そして、「三日月」の絵から、ウィルブラームクレッセント19番地が何か関係して入るものと考え、付近を調査していたのである。「M」を逆さまにすると、「W」になり、「ウィルブラーム」の頭文字になる。「三日月」は「クレッセント」であり、「61」を逆さまにすると、「19」となる。3つを繋げると、「ウィルブラームクレッセント通り19番地」を意味する。


ブリッジマンストリートからソーンヒルクレッセントを見たところ

クローディン警察署のディック・ハードキャッスル警部(Inspector Dick Hardcastle)が本事件を担当することになった。
シーラ・ウェッブは、ミリセント・ペブマーシュの家へ今までに一度も行ったことがないと言う。また、ミリセント・ペブマーシュは、キャヴェンディッシュ秘書紹介所に対して、シーラ・ウェッブを名指しで仕事を依頼する電話をかけた覚えはないと答える。更に、シーラ・ウェッブとミリセント・ペブマーシュの二人は、ウィルブラームクレッセント通り19番地の居間で死体となって発見された男性について、全く覚えがないと証言するのであった。
ミリセント・ペブマーシュの居間においてキッチンナイフで刺されて見つかった身元不明の死体は「R.・H・カリイ(R. H. Curry)」とされたが、スコットランドヤードの捜査の結果、全くの偽名であることが判明し、身元不明へと逆戻りする。彼が目の不自由な老婦人の居間で刺殺される理由について、スコットランドヤードも、そして、コリン・ラムも、皆目見当がつかなかった。途方に暮れたコリン・ラムは、ポワロに助けを求める。年若き友人からの頼みを受けて、ポワロの灰色の脳細胞が事件の真相を解き明かす。


ソーンヒルクレッセントの中間辺り

英国のTV会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie’s Poirot」の「複数の時計」(2011年)では、アガサ・クリスティーの原作が第二次世界大戦(1939年ー1945年)後の米ソ冷戦状態を物語の時代背景としたことに対して、他のシリーズ作品と同様に、第一次世界大戦(1914年ー1918年)と第二次世界大戦の間に物語の時代設定を置いている関係上、第二次世界大戦前夜を時代背景として、英国の仮想敵国を原作のソビエト連邦からアドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツへと変更している。また、物語の舞台も、サセックス州(Sussex)のクロウディーン(Crowdean)からケント州(Kent)のドーヴァー(Dover)へと変更されている。更に、コリン・ラムの名前は、コリン・レイス大尉(Liteunant Colin Race)となり、警察の公安部員ではなく、MI6 の秘密情報部員(intelligence officer)という設定に変えられている。


ソーンヒルスクエア内に咲き誇る花(芍薬)

キャヴェンディッシュ秘書紹介所から派遣された速記タイピストのシーラ・ウェッブが、派遣先の居間で身元不明の男性の死体を発見することになる。その住所は、アガサ・クリスティーの原作上、ウィルブラームクレッセント19番地と設定されているが、その場面の撮影は、実際には、ドーヴァー(Dover)ではなく、ロンドンのソーンヒルクレッセント(Thornhill Crescent)において行われている。


ソーンヒルクレッセントの中間辺りからブリッジマンストリートを望む

ソーンヒルクレッセントは、ロンドン・イズリントン区(London Borough of Islington)のバーンズバリー地区(Barnsbury)内に所在している。バーンズバリー地区は、ロンドン・カムデン区(London Borough of Camden)の東側に位置している。


ソーンヒルスクエア内に建つセントアンドリュー教会(その1)

キングスクロス駅(King’s Cross Station)から延びるカレドニアンロード(Caledonian Road)を北上した東側に、ソーンヒルクレッセントは所在している。中央にはソーンヒルスクエア(Thornhill Square)という広場があり、東西に横切るブリッジマンロード(Bridgeman Road)がソーンヒルスクエアを北側の約1/3部分と南側の約2/3部分に分けている。なお、ブリッジマンロードによって分けられたソーンヒルスクエアの北側の約1/3部分内には、セントアンドリュー教会(Church of England St. Andrew’s)が建っている。


ソーンヒルスクエア内に建つセントアンドリュー教会(その2)

南側の約2/3部分を囲む通りはソーンヒルスクエア通り(Thornhill Square)と呼ばれ、北側の約1/3部分を囲む通りがソーンヒルクレッセントで、TV版のポワロシリーズでは、ここがウィルブラームクレッセント(19番地)として撮影に使用されている。

ソーンヒルスクエア内に建つセントアンドリュー教会(その3)

TV版の画面上、ソーンヒルクレッセントをベースにしたウィルブラームクレッセントの地図が表示されるが、ソーンヒルクレッセント(=ウィルブラームクレッセント)から北へ延びるクレッセントストリート(Crescent Street)の角が12番地で、そこから東へ7軒進んだ家が、シーラ・ウェッブが身元不明の男性の死体を発見したウィルブラームクレッセント19番地に該る。



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