著者 Sam Siciliano 2012年
出版 Titan Books 2012年
本作品は、1994年に発表された「オペラ座の天使(The Angel of the Opera)」(2015年1月24日付ブログで紹介済)の続編に該り、シャーロック・ホームズの従兄弟であるヘンリー・ヴェルニール医師(Dr. Henry Vernier)が、前作と同様に、ホームズの相棒を務めている。本来の事件記録者であるジョン・H・ワトスンは今回も登場しない。プロローグにおいて、ワトスンとの関係は全く良くなかったと、ヘンリーは認めている。また、前作には登場しなかったが、ヘンリーの妻で医師のミッシェル・ドゥデ・ヴェルニール(Dr. Michelle Doudet Vernier)が本作品から登場する。
ある年の10月初旬で、雨模様の午後、ヘンリーはベーカーストリート221Bのホームズの元を訪れる。その際、ホームズとヘンリーの間で交わされる会話の中で、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」に掲載されたワトスン作「最後の事件(The Final Problem)」を話題にしている。<「最後の事件」がストランドマガジンに掲載されたのは1893年12月なので、推測するに、本作品の事件発生年月は1894年10月ではないかと思われる。ただ、「ストランドマガジン」への掲載から1年近くが経過しているにもかかわらず、ホームズとヘンリーがワトスンの作品を話題にしているのが、物語の本筋とは全く関係ないものの、やや奇異に感じられて仕方がない。ホームズが登場する物語を執筆する上で、著者はサー・アーサー・コナン・ドイルが発表した作品の内容をかなり詳細に調べたに違いないと思うが、日付の整合性があまり合っていない。>
そんなところへ、ドナルド・ホイールライト(Donald Wheelwright)がハドスン夫人に案内されて、事件の相談にやって来る。自分と妻ヴァイオレット(Violet Wheelwright)の身に危険が迫っていると、彼はホームズとヘンリーの二人に告げる。それは、2年前の1月にハリントン卿(Lord Harrington)の邸宅で舞踏会が催された時のことである。その舞踏会の会場に、突如、女ジプシーがどこからともなく現れて、招待客達に恐ろしい呪いをかけたのだ。ドナルド・ホイールライトによると、彼と妻ヴァイオレットもその舞踏会に居合わせたと言う。ホームズは、米国の作家エドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe)の「赤き死(Red Death)」に似た話だと呟く。そして、ドナルド・ホイールライトは、ある朝、自宅の図書室において、妻ヴァイオレットが死を予告するメモを発見したと、ホームズに告げる。妻ヴァイオレットを命の危険から守ることをホームズに依頼すると、ドナルド・ホイールライトは急いで帰って行く。ホームズはヘンリーに対して、ドナルド・ホイールライトの服装の乱れを指摘する。「ここ(ベーカーストリート221B)を訪れる直前まで、愛人のところに居たに違いない。」と...
ちょうど同じ頃、ヘンリーの妻で医師のミッシェルは診療にあたっており、ヴァイオレットはボランティア活動の一環でミッシェルを手伝っていた。診療が終わった後、ヴァイオレットに誘われて、ミッシェルは彼女と二人でシンプソンズ(Simpspn'sーローストビーフで有名)へ向かう。そして、そこで彼女達は先に食事をしていたホームズとヘンリーに出会う。ホームズとヴァイオレットは運命的な出会いをするのである。
シャーロック・ホームズとヴァイオレット・ホイールライトが 運命的な出会いをするレストラン「シンプソンズ」 (2014年11月23日付ブログで紹介済) |
女ジプシーの呪い通り、舞踏会を催したハリントン卿がカミソリで自分の喉を掻き切って、謎の自殺を遂げる。また、ホイールライト夫妻の近所に住むジョージ・ハーバート(George Herbert)とエミリー・ハーバート(Emily Herbert)の夫妻が所有する高価なネックレスが偽物に掏り替えられるという事件も発生する。これらは、2年前にハリントン卿の邸宅で催された舞踏会に突然姿を見せた女ジプシーの呪いによるものなのか?ホームズは、ヴァイオレットへの殺害予告だけでなく、謎の自殺や盗難等も捜査することになる。<女ジプシーが呪いをかけたのが、2-3ヶ月程度前の話であれば、呪いと事件を関連づけることは理解できるものの、2年も前の話であり、両方を関連づけるには無理がある。ここでも、著者の神経が細部まで行き渡っていない。>
そして、ホームズ、ヘンリーとミシェルが招待されたホイールライト夫妻との夕食会の終盤、ヴァイオレットが大きなチョコレートケーキを切り分けるため、ナイフをケーキに入れた時、更に事件が発生した。ナイフの切り口かた、巨大な黒い蜘蛛が這い出て来たのである。巨大な蜘蛛の後から、無数の小さな蜘蛛も続いて出て来た。果たして、これらの事件の背後で、陰謀の糸を紡いでいる人物は誰なのか?
読後の私的評価(満点=5.0)
1)事件や背景の設定について ☆☆半(2.5)
本作品のメインテーマは、謎の女ジプシーに呪いをかけられたヴァイオレット・ホイールライトの命を救うことで、そのテーマをハリントン卿の謎の自殺やハーバート夫妻が所有する高価なネックレスの盗難等が取り巻いている。物語の終盤、これらの事件は一つに繋がるものの、残念ながら、事件自体の魅力に乏しい。
2)物語の展開について ☆半(1.5)
ヴァイオレット・ホイールライトへの殺害予告や殺害未遂等が発生するものの、物語が遅々として進まない。また、ホームズとヴァイオレットの間が恋愛めいた関係になっていき、そのために、ホームズが事件解決に手をこまねいている感じが強く、そういった話が前面に押し出されていて、残念である。
3)ホームズ/ヘンリー/ミッシェルの活躍について ☆☆(2.0)
前作の「オペラ座の天使」と同様に、ワトスンが描くホームズ像は偽りで、本当のホームズ像(人間味にあふれるホームズ像)を描くことを、著者は目的にしているようである。この手法は「オペラ座の天使」の際は成功したように見えるが、本作品の場合、ホームズは事件の真相にある程度肉迫しながら、最後の部分を明らかにできないまま、物語がやや延々と続き、あまり印象が良くない。ある意味、恋愛感情により、ホームズの推理能力が鈍っているように思えてしまう。
4)総合評価 ☆☆(2.0)
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