セントマーティンズ劇場での「ねずみとり」公演25周年を記念して 同劇場に送られた「銀のネズミ」 |
ある土曜日の午後、セントマーティンズ劇場(St. Martin's Theatre)へアガサ・クリスティー作の戯曲版「ねずみとり」を観に出かけた。最前席のストール(Stalls)で観劇。生憎と、夏季休暇期間のためか、お客さんの入りは半分弱という感じであった。
登場人物は、以下の8人。
(1)モリー・ロールストン(Mollie Ralston)
(2)ジャイルズ・ロールストン(Giles Ralston)
(3)クリストファー・レン(Christopher Wren)
(4)ボイル夫人(Mrs Boyle)
(5)メトカーフ少佐(Major Metcalf)
(6)ケースウェル嬢(Miss Casewell)
(7)パラヴィチーニ氏(Mr Paravicini)
(8)トロッター部長刑事(Detective Sergeant Trotter)
当日、モリー・ロールストン、ジャイルズ・ロールストンとボイル夫人の3人は、代役俳優/女優(understudy)による出演であった。
慣れによる演技やマンネリ等を防ぐため、毎年、全員ではないものの、役者や演出家をある程度入れ替えているようである。
ゲストハウスであるモンクスウェル山荘(Monkswell Manor)の居間に舞台が固定され、物語が展開する。
<第1幕第1場ー午後遅く>
モリーとジャイルズのロールストン夫妻が新しく開いたゲストハウスのオープン日当日、雪が激しく降り続く中、予約客4人と途中の道で車がスリップしたという外国人風の男性が次々に到着する。
<第1幕第2場ー翌日の昼食後>
雪で閉ざされて孤立したゲストハウスに警察から電話があり、ある殺人事件の捜査のために、トロッター部長刑事が派遣される。その後、突然、灯りが消えて、真っ暗闇になった居間で、ボイル夫人が何者かによって殺害されたところで、舞台は一旦休憩に入る。
<第2幕ー第1幕第2場の15分後>
ロンドンのパディントン駅近くで発生した殺人事件およびボイル夫人の殺害を行った犯人が明らかにされる。登場人物の多くが、昔ゲストハウス近辺で発生したある事件との繋がりを持っていたのであった。
「ねずみとり」のある一場面 |
舞台には、4つの出入口があり、
・左手奥ー玄関、玄関ホール、キッチンおよび裏階段へと通じている
・左手前(ドア)ー食堂へと通じている
・右手奥ー図書室や上階の部屋へと至る主階段とへ通じている
・右手前(ドア)ー客間へと通じている
左手奥と右手奥は上階経由でつながっていて、また、左手奥と左手前、更に、右手奥と右手前は、それそれ裏側で接続している設定のため、舞台を観ていると、登場人物が右手奥から退場した後、左手奥から現れたり、左手前から出て行った後、左手奥から戻って来たり、また、右手前から姿を消した後、右手奥から出て来るといったように、特に、第1幕第2場以降、登場人物の多くが入れ替わり立ち替わりで舞台から出たり入ったりを繰り返して、これが非常に気になった。
観劇後、「ねずみとり」の公演60周年を記念して出版された戯曲本「ねずみとりとその他(The Mousetrap and Other Plays)」を購入し、「ねずみとり」を改めて読んでみた。文章で読む限りでは、登場人物の移動はそれ程気にならないが、実際に俳優/女優がアガサ・クリスティーの戯曲通りに演技し始めると、印象が180度変わってしまうのである。役者や演出家の全面的なせいではないとは思うものの、この点が気になり始めてしまい、途中からあまり楽しめなかった。
左上から時計回りに、パラヴィチーニ氏、ジャイルズ・ロールストン、 クリストファー・レン、そして、モリー・ロールストン |
アガサ・クリスティーとしても、小説とは異なり、戯曲の場合、限られた上演時間内で話を完結させる必要がある一方、登場人物のそれぞれに一定の見せ場を与えることが必要なので、登場人物が入れ替わり立ち替わりで舞台から出たり入ったりを繰り返すのは、やむを得ないのかもしれない。的を得ているかどうか判らないが、アガサ・クリスティー作品の映像化や舞台化があまり当たらないには、そんなところに理由があるのではないかと思う。
アガサ・クリスティー作品に関しては、何気ない会話の中に真相が隠されていたり、何通りかの解釈があったり、読者のミスディレクションにつながっていたり、また、聞いていた登場人物が全く異なる解釈をしたり等と、文書によるテクニックが冴えていると個人的には思っており、そういった意味では、本質的には、映像化や舞台化には適していないのではないかと考える。
TV版のポワロシリーズの場合、ポワロを演じた俳優デイヴィッド・スーシェ(David Suchet:1946年ー)がポワロとしてはまり役だったこともあって、例外的に評判が良かったと言える。また、脚本も極力アガサ・クリスティーの原作通りだったり、変更を加えるにしても、うまく脚色していたと思う。
左上から時計回りに、ボイル夫人、ケースウェル嬢、 トロッター部長刑事、そして、メトカーフ少佐 |
クリストファー・レンについては、アガサ・クリスティーの戯曲版に従い、子供っぽく落ち着きのない若い男性建築家通りではったが、子供っぽさと落ち着きのなさが非常に誇張された演技で、個人的にはやや鼻についた。
また、トロッター部長刑事に関しては、ロンドン訛の陽気な若い男性という設定であったが、登場した当初から、気難しく、かつ神経質な性格の演技が始まり、物語がずーっと沈んだまま進み、これもまた気になった。設定通りに陽気な演技を続けられても、殺人事件にかかる話なので、それはそれでそぐわなかった気はするが...
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