2015年10月18日日曜日

ロンドン ダチェス・オブ・ベッドフォーズ・ウォーク(Duchess of Bedford's Walk)


アガサ・クリスティー作「安いフラットの冒険(The Adventure of the Cheap Flat)」(1924年ー「ポワロ登場(Poirot Investigates)」に収録)では、物語の冒頭、友人の家で行われたパーティーでの席上、アーサー・ヘイスティングス大尉はロビンソン夫人(Mrs Robinson)と知り合いになる。彼女によると、ロビンソン夫妻はナイツブリッジ(Knightsbridge)にある高級フラットを格安の家賃で借りることができたと言う。


ヘイスティングス大尉から話を聞いたエルキュール・ポワロはこの奇妙な話に興味を示して、調査を始める。ポワロがその高級フラットのポーターにロビンソン夫妻の話題を向けると、ポーター曰く、ロビンソン夫妻はこのフラットに既に6ヶ月間住んでいると言う。しかし、ヘイスティングス大尉によれば、ロビンソン夫妻はこのフラットを借りたばかりのはずだった。話の食い違いに疑問を感じたポワロは早速同じフラット内に部屋を借りるのであった。


一方で、ポワロはスコットランドヤードのジャップ主任警部(Chief Inspector Japp)から国際的なスパイの話を聞きつける。米国海軍の非常に重要な設計図がイタリア人ルイジ・ヴァルダーノ(Luigi Valdarno)によって盗み出され、国際的なスパイであるエルサ・ハート(Elsa Hardt)の手に渡ったと言う。しかも、エルサ・ハートの人物像が、例の高級フラットのポーターがポワロに話したロビンソン夫人の人となりに非常に似通っていたのだ。
一見、関連性が全くなさそうに思える二つの話はどのように繋がっているのか?ポワロの灰色の脳細胞が事件の真相を突き止める。


アガサ・クリスティーの原作では、ロビンソン夫妻が格安の家賃で借りたのは、ナイツブリッジの「モンタギューマンション(Montague Mansion)」となっているが、英国のTV会社ITV1で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「安いフラットの冒険」(1990年)の回では、ケンジントン&チェルシー王立区(Royal Borough of Kensington and Chelsea)の高級地区ケンジントン(Kensington)にある「キャンプデンヒルゲート(Campden Hill Gate)」というフラットが撮影に使用されている。


地下鉄ノッティングヒルゲート駅(Notting Hill Gate Tube Station)の前を通るノッティングヒルゲート通り(Notting Hill Gate)がホーランドパークアベニュー(Holland Park Avenue)と名前を変える手前でキャンプデンヒルロード(Campden Hill Road)へと折れて、サウスケンジントン地区(South Kensington)方面へと南下する。キャンプデンヒルロードを中間辺りまで下ったところで右折すると、そこがダチェス・オブ・ベッドフォーズ・ウォーク(Duchess of Bedford's Walk)で、これを突き当たりにあるホーランドパーク(Holland Park)まで進んだ右手にフラット「キャンプデンヒルゲート」は建っている。


ダチェス・オブ・ベッドフォーズ・ウォークの突き当たりからは、キャンプデンヒルロードに並行して、フィリモアガーデンズ通り(Philimore Gardens)が地下鉄ハイストリートケンジントン駅(High Street Kensington Tube Station)の前を通るケンジントンハイストリート(Kensington Hight Street)まで南下している。ダチェス・オブ・ベッドフォーズ・ウォーク沿いに建つフラット「キャンプデンヒルゲート」へのアクセスは、キャンプデンヒルロード経由か、あるいは、フィリモアガーデンズ通り経由の2ルートしかなく、高級地区ケンジントン内でも奥まった場所にあるため、日中、特に週末はほとんど人通りがなく、非常に閑静な高級住宅街の一角である。そういった意味では、当時も、撮影場所として最適なロケーションだったと言える。

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