ジョン・キーツが生まれたモーゲート通り85番地に建つ パブ「キーツ・アット・ザ・グローヴ」 |
アガサ・クリスティー作「ヒッコリーロードの殺人(Hickory, Dickory, Dock)」(1955年)は、有能な秘書フェリシティー・レモン(Miss Felicity Lemon)がタイプした手紙に、エルキュール・ポワロが誤字を3つも見つけるところから始まる。ポワロがミス・レモンに尋ねると、彼女のタイプミスの原因が、彼女の姉で、今はヒッコリーロード26番地(26 Hickory Road)にある学生寮で寮母をしている未亡人のハバード夫人(Mrs. Hubbard)から彼女が相談を受けていたたためであることが判明する。
パブ「キーツ・アット・ザ・グローヴ」の入口に架けられている看板 |
ミス・レモンによると、姉のハバード夫人が寮母を務めている学生寮では、非常に奇妙なことが連続して発生していたのである。夜会靴、ブレスレット、聴診器、電球、古いフランネルのズボン、チョコレートが入った箱、硼酸の粉末、浴用塩、料理の本やダイヤモンドの指輪(後に、食事中のスープ皿の中から見つかった)等、全く関連性がないものが次々と紛失していた。更に、それに加えて、ズタズタに切り裂かれた絹のスカーフ、切り刻まれたリュックサック、そして、緑のインクで台無しになった学校のノート等が見つかり、盗難行為だけではなく、野蛮かつ不可解な行為も横行していたのだ。
ロンドンの東西にある鉄道網を ロンドンの地下で結ぶクロスレールプロジェクト(Crossrail Project)工事が、 パブの右側で進行中である |
ここのところ、興味を引く事件がなくて退屈気味だったポワロは、これ以上、ミス・レモンのタイプミスが続くことを避けるべく、彼女への手助けを申し出る。ポワロは、まずハバード夫人に自分の事務所に来てもらい、更に詳しい事情を尋ねるとともに、学生寮に現在住んでいる学生達の情報についても、彼女からヒアリングする。ポワロの灰色の脳細胞が、一見平和そうに見える学生寮の内で何か良からぬ企みが秘かに進行していると彼に告げる。そこで、ポワロはハバード夫人と再度話をして、学生寮に住む面々に犯罪捜査にかかる講演を行うという名目で、ヒッコリーロード26番地を訪ねることに決めた。
何ら脈絡がないと思えた盗難事件であったが、学生寮内での恐ろしい連続殺人事件へと発展するのであった。
モーゲート通り83番地に建つパブ「ザ・グローヴ」 |
英国のTV会社 ITV1 が放映したポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「ヒッコリーロードの殺人」(1995年)の回では、ポワロがヒッコリーロード26番地の学生寮で講演を行った後、心理学を専攻するコリン・マックナブ(Colin McNabb)に付き添われて、化学を専攻するシーリア・オースティン(Celia Austin)がポワロの元を訪ねる。シーリアは、「学生寮内でいろいろなものが紛失しているが、それは自分が盗った。」と、ポワロに告白する。ただし、彼女は、「電球は盗っていないし、リュックサックを切り裂いてもいない。」と主張する。それでは、学生寮には、もう一人別の不届き者が居るのだろうか?そんな最中、シーリアがモルフィネの過剰摂取により死亡しているのが発見されるのであった。
シーリアの自殺説に疑問を持つポワロは、学生寮に住む学生達に彼女のことを聞いて回る。英文学を専攻するサリー・フィンチ(Sally Finch)を訪問したポワロは、キーツの詩と見せかけて、シェリーの詩を彼女に暗唱して聞かせるが、彼女はキーツとシェリーの違いが判らず、アガサ・クリスティーの原作には書かれていないサリー・フィンチの素性と目的が明らかになるのであった。
モーゲート通り85番地の建物外壁に架けられている 「ジョン・キーツがここで生まれた」ことを示すプレート |
ジョン・キーツ(John Keats:1795年ー1821年)は英国ロマン派の詩人で、ロンドンの金融街シティー(City)内のモーゲート(Moorgate)に馬丁の長男として出生した。
キーツが生まれた場所は、現在の住所表記上、「モーゲート通り85番地(85 Moorgate)」に該り、現在、「キーツ・アット・ザ・グローヴ(Keats at the Globe)」という名のパブが営業している。非常に珍しいケースであるが、左隣りの「モーゲート通り83番地(83 Moorgate)」にも、「ザ・グローヴ(The Globe)」というパブが並んでいる。モーゲート85番地のパブは、以前、「ジョン・キーツ・アット・ザ・モーゲート(John Keats at the Moorgate)」という名前で営業していたが、その後、現在の名前に変更している。
前のモーゲート通り(Moorgate)を通ってもなかなか気付き難いが、日本の2階と3階の間の外壁の真ん中に、ジョン・キーツがここで生まれたことを示すプレートが架けられている。
なお、モーゲート通り85番地にあるパブについては、ポワロシリーズには出てこないので、念の為。
地下鉄モーゲート駅(Moorgate Tube Station)の構内の壁装飾 |
ちなみに、キーツの詩だと言って、ポワロがサリー・フィンチに暗唱してみせた詩の作者であるパーシー・ビッシェ・シェリー(Percy Bysshe Shelley:1792年ー1822年)は、ジョン・キーツと同じ英国ロマン派の詩人で、彼とは友人関係にあった。
また、シェリーの2番目の妻であるメアリー・ウルストンクラフト・シェリー(Mary Wollstonecraft Shelley:1797年ー1851年)は、ゴシック小説「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス(Frankenstein; or the Modern Prometheus.)」(1818年)の作者として非常に有名である。
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