2024年4月15日月曜日

ジョン・ディクスン・カー作「緑のカプセルの謎」(The Problem of the Green Capsule by John Dickson Carr)- その4

大英図書館(British Library)から2023年に出版された
ジョン・ディクスン・カー作「黒眼鏡(英国版タイトル)/
緑のカプセルの謎(米国版タイトル)」の表紙
(Front cover image : NRM / Pictorial Collection / Science & Society Picture Library)


「緑のカプセルの謎(The Problem of the Green Capsule → 2019年8月3日 / 8月17日 / 8月28日付ブログで紹介済)」は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1939年に発表した推理小説で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)シリーズの長編第10作目に該る。


本作品の場合、ソドベリークロス(Sodbury Cross - 架空の場所)と言う村に3軒ある煙草店兼菓子店のうち、ミセス・テリー(Mrs. Terry)が営む一番人気の店において、何者かにより、菓子の中に毒入りチョコレート・ボンボンが混ぜられ、メイドの少女と子供3人に被害が出て、更に、子供の1人が亡くなると言う惨事が発生する。

続いて、村に住む桃栽培の実業家であるマーカス・チェズニー(Marcus Chesney)が、自宅において行った心理学的なテストの最中に殺害されると言う事件も起きる。彼は、フランス窓から室内へと入って来た「透明人間(The Invisible Man)」のような風体の人物によって、緑のカプセルを飲まされると言う寸劇において、緑のカプセルの中に入っていた青酸カリで殺されたのである。

ロンドン警視庁犯罪捜査部(スコットランドヤード CID)の上司であるハドリー警視(Superintendent Hadley)から命じられて、現地へと派遣されたアンドルー・マッカンドルー・エリオット警部(Inspector Andrew MacAndrew Elliot)は、対処に困り、バース(Bath)に滞在していた知り合いのギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)に助力を求めるのであった。


大英図書館(British Library)から2023年に出版された
ジョン・ディクスン・カー作「黒眼鏡(英国版タイトル)/
緑のカプセルの謎(米国版タイトル)」の裏表紙
(Front cover image : NRM / Pictorial Collection / Science & Society Picture Library)

作者のジョン・ディクスン・カーは、当初、本作品のタイトルを「黒眼鏡(The Black Spectacles)」とした。英国の出版社であるハーミッシュ・ハミルトン社(Hamish Hamilton)は、作者のタイトルをそのまま受け入れて、同タイトルで出版した。一方、米国の出版社であるハーパー社(Harper)の場合、「The Black Spectacles」では、推理小説のタイトルとして判りづらいと考えて、マーカス・チェズニーの殺害に使用された青酸カリ入れの緑のカプセルに焦点を絞り、タイトルを「緑のカプセルの謎(The Problem of the Green Capsule)」へと変更した。日本においては、米国版のタイトルがベースとなっている。


大英図書館(British Library → 2014年5月31日付ブログで紹介済)が2023年に本作品を復刊した際、作者のジョン・ディクスン・カーが付けた「The Black Spectacles」を使用している。

また、本の表紙には、ケント州(Kent)にあるロイヤルタンブリッジウェルズ(Royal Tunbridge Wells → 2023年6月18日付ブログで紹介済)のハイストリートのポスターが使われている。これは、毒入りチョコレート・ボンボン事件が発生したミセス・テリーが営む煙草店兼菓子店が所在するソドベリークロス村のハイストリートを念頭に置いているからではないかと思われる。


2024年4月14日日曜日

英国にあるヴァイキングの遺跡(Viking Britain)記念切手 - その2

2024年2月20日に、英国のロイヤルメール(Royal Mail)から、英国にあるヴァイキングの遺跡(Viking Britain)に関する8種類の記念切手が発行されたので、前回に引き続き、御紹介したい。


< Norse settlement remains, Jarlshof, Shetland >


< Antler comb and case, Coppergate, York >

< Gilded bronze brooch, Pitney, Somerset >

< Hogback gravestone, Govan Old, Glasgow >

2024年4月13日土曜日

江戸川乱歩作「三角館の恐怖」- その1

日本の出版社である講談社から
江戸川乱歩推理文庫の1冊(第25巻)として
1989年に第1刷が発行された
江戸川乱歩作「三角館の恐怖」の表紙
<装画:天野 喜孝
  装幀:安彦 勝博>

イヴリン・ペイジ(Evelyn Page:1902年ー1977年)とドロシー・ブレア(Dorothy Blair:1903年ー1976年)と言う女性2人のペンネームである米国の推理作家ロジャー・スカーレット(Roger Scarlett)による第4作目の長編推理小説「エンジェル家の殺人(Murder Among the Angells → 2024年4月2日 / 4月5日 / 4月8日付ブログで紹介済)」(1932年)について、明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家 / 怪奇・恐怖小説家 / アンソロジストである江戸川乱歩(1894年ー1965年)が、同作品を「三角館の恐怖」(1951年)として翻案している。


「エンジェル家の殺人」を読んだ江戸川乱歩は、翻訳家で研究家の井上良夫に宛てた第二次世界大戦(1939年ー1945年)/ 太平洋戦争(1941年-1945年)中の昭和18年(1943年)2月10日付の手紙の中で、同作品に「感歎したる次第」を、原稿用紙14枚程の長さで述べている。


「一月以来の初読をひっくるめて、巻をおく能わざる興味と興奮を覚えたのは、『僧正(僧正殺人事件(The Bishop Murder Case → 2024年2月7日 / 2月11日 / 2月15日 / 2月19日付ブログで紹介済))』『赤毛(赤毛のレドメイン家(The Red Redmaynes)』『黄色(黄色い部屋の謎(Le Mystere de la chambre jaune))』『Y(Y の悲劇(The Tragedy of Y))』の四作でしたが、『エンジェル』にやはり同じ興奮を感じたのです。この点だけでもベストに入れないわけにはいきません。この作は小生のいわゆる不可能興味が偉大なわけでもなく、他人の悪念が深刻なわけでもなく、『僧正』『Y』『赤毛』などの病的異常性があるわけでもなく、そういう点では感歎するほどではありませんが、筋の運び方、謎の解いて行き方、サスペンスの強度、などに他の作にないような妙味があり、書き方そのものが小生の嗜好にピッタリ一致するのです。(中略)アアなるほどその通りその通り、それこそ私の一番好きな書き方だと、一行ごとにそう感じてよむというわけです。

もっとも初め百七八十頁まではそうはいきません。あとにどんなにいいものが隠れているか全く分らないのですから、その辺までは半信半疑でよみます。靴の包みが川に投込まれる出発点などは、余り好きではなく、ひょっとしたらこれはフレッチャー流じゃないかという疑が去りません。(中略)

第二のエレベーターの殺人から、俄然不可能興味が濃厚になります。サスペンスの出し方の巧みさには感歎し、この辺から巻をおく能わざる興味を生じて来ます。丁度そこまで読んだ頃はもう夜更けすぎだったので、明日にして寝るつもりだったところ、もうとても中途でよせなくなり、夜明けまでかかって全部読み終り、しばらくは感歎の反芻のために眠ることが出来なかったという次第です。(後略)」


講談社から江戸川乱歩推理文庫の1冊(第25巻)として
1989年に第1刷が発行された
江戸川乱歩作「三角館の恐怖」の裏表紙
<装幀:安彦 勝博>

江戸川乱歩は、昭和21年(1946年)に「エンジェル家の殺人」を再読して、本作が大きな独創性に欠けていること、また、作者の文章が良くないことを理由に、ベストテンに準ずると、当初の評価を改めている。


それでも、昭和18年(1943年)の初読時の印象が非常に深かったためか、江戸川乱歩は、「エンジェル家の殺人」のプロットとトリックを借りて、自分の文章による翻案を試みた。

そして、「エンジェル家の殺人」を翻案した「三角館の恐怖」は、昭和26年(1951年)1月から同年12月にかけて、「面白俱楽部」(第4巻第1号ー第12号)に連載された。その後、昭和27年(1952年)9月に、文芸図書出版社から単行本として刊行された。その際、扉裏に、「ロジャー・スカーレット『エンジェル家の殺人事件』に拠る」と記されたのである。 

2024年4月11日木曜日

アガサ・クリスティーの世界<ジグソーパズル>(The World of Agatha Christie )- その42

英国の Orion Publishing Group Ltd. から出ている「アガサ・クリスティーの世界(The World of Agatha Christie)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の生涯や彼女が執筆した作品等に関連した90個の手掛かりについて、前回に続き、紹介していきたい。


今回も、アガサ・クリスティーが執筆した作品に関連する手掛かりの紹介となる。


(90)ドクニンジン(Hemlock)



本ジグソーパズル内において、アガサ・クリスティーが腰掛けている椅子の左側にある窓の外に、「ドクニンジン」が植えられている。


これから連想されるのは、アガサ・クリスティーが1942年に発表したエルキュール・ポワロシリーズ作品「五匹の子豚(Five Little Pigs → 2023年11月9日 / 11月13日付ブログで紹介済)」である。本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第32作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第21作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「五匹の子豚」のペーパーバック版の表紙

物語の冒頭、カーラ・ルマルション嬢(Carla Lemarchant)が、ある事件の調査を依頼するために、エルキュール・ポワロの元を訪れる。彼女は、この世で望み得る最高の探偵を必要としていたのだ。


21歳の誕生日を迎えるに際して、現在、カナダで暮らすカーラ・ルマルションこと、本名カロリン・クレイル(Caroline Crale)は、恐ろしい事実を突き付けられることになった。彼女は、英国の有名な画家であるアミアス・クレイル(Amyas Crale)の娘として、遺産を相続することになったが、16年前、その父親は、彼女と同名の母親カロリン・クレイル(Caroline Crale)によって、ドクニンジンで毒殺されたと言うのだ。その時、彼女は、まだ5歳だった。彼女は、カナダに住む伯父夫妻へと送られ、名前もカロリン・クレイルから現在のカーラ・ルマルションへと変えられたのであった。彼女の母親は、裁判で有罪判決を受けて、終身刑を宣告され、1年後に獄中で死亡していた。


彼女の母親は、自分の娘(彼女)が21歳になった際に読むようにと、手紙を残していた。その手紙は、自分は無実であることを訴える内容だった。手紙を読んだ彼女は、母親が潔白であることに確信を抱いた。

彼女は、ジョン・ラッテリー(John Rattery)と婚約して、結婚を目前に控えていたが、婚約者であるジョンは、時々、自分をどこか疑うような目つきで見てることに気付く。彼女は、夫殺しの女の娘ではないか、と。

彼女としては、16年前の事件が、これからの自分の結婚生活に不吉な影を落とさないためにも、母親の無実をなんとか証明したいと望んでいたのである。


カーラ・ルマルション嬢の話に興味を覚えたポワロは、早速、事件の調査に取りかかる。しかしながら、証拠は、彼女の母親にとって圧倒的に不利な上に、夫を毒殺する動機もあった。ポワロは、事件の重要関係者である5人に会い、事件当時における各自の記憶を辿ることで、事件の糸口を見い出そうとするのだった。


事件の重要関係者である5人は、以下の通り。


(1)フィリップ・ブレイク(Philip Blake)ーアミアス・クレイルの親友で、カロリン・クレイルに振られた過去がある。現在は、株式仲買人をしている。

(2)メレディス・ブレイク(Meredith Blake)ーフィリップの兄で、カロリン・クレイルに秘かに恋愛感情を抱いていた。現在は、隠居して、薬草の研究をしている。

(3)エルサ・ディティシャム(Elsa Dittisham)ー旧姓は、エルサ・グリヤー(Elsa Greer)。事件当時、アミアスの絵のモデルで、彼の愛人でもあった。現在は、ディティシャム卿夫人(Lady Dittisham)となっている。

(4)セシリア・ウィリアムズ(Cecilia Williams)ー事件当時、カロリン・クレイルの異母妹であるアンジェラ・ウォレン(Angela Warren)の家庭教師だった。

(5)アンジェラ・ウォレンーカロリン・クレイルの異母妹。事件当時、クレイル家に同居しており、女癖の悪いアミアスを毛嫌いしていた。赤ん坊の頃、カロリンがカッとなったため、彼女が投げ付けた文鎮により、片目を失明。現在は、考古学者をしている。


タイトルの「五匹の子豚」は、マザーグースの童謡(5匹の子豚が登場する数え歌 → 2023年6月2日付ブログで紹介済)に因んでおり、ポワロが訪ねる事件の重要関係者である5人に対して、5つの歌詞が割り当てられている。


この子豚は、市場へ行った。(This little pig went to market.)

この子豚は、家に居た。(This little pig stayed home.)

この子豚は、ローストビーフを食べた。(This little pig had roast beef.)

この子豚は、何も持っていなかった。(This little pig had none.)

この子豚は、「ウィー、ウィー、ウィー」と鳴く。(And this little pig cried, Wee-wee-wee.)

帰り道が分からない。(I can’t find way my home.)


(1)フィリップ・ブレイク: 市場へ行った(Went to Market)

(2)メレディス・ブレイク: 家に居た(Stayed at Home)

(3)エルサ・グリヤー: ローストビーフを食べた(Had Roast Beef)

(4)セシリア・ウィリアムズ: 何も持っていなかった(Had None)

(5)アンジェラ・ウォレン: ウィー、ウィー、ウィーと鳴く(Cried 'Wee Wee Wee')


「市場へ行った」とは、事件後、フィリップ・ブレイクが株式仲買人になったことを、「家に居た」とは、事件後、メレディス・ブレイクが隠居して、薬草の研究をしていることを、「ローストビーフを食べた」とは、アミアス・クレイルの絵のモデルで、彼の愛人でもあったエルサ・グリヤーが、事件後、貴族と結婚して、ディティシャム卿夫人となっていることを、「何も持っていなかった」とは、事件後、セシリア・ウィリアムズが一人寂しく生活していることを、そして、「ウィー、ウィー、ウィーと鳴く」とは、女癖の悪いアミアスを毛嫌いしていたアンジェラ・ウォレンが、事件発生当時、彼に対して、いろいろと悪戯を仕掛けて、彼を閉口させていたことを指すのではないかと思われる。


2024年4月10日水曜日

英国にあるヴァイキングの遺跡(Viking Britain)記念切手 - その1

2024年2月20日に、英国のロイヤルメール(Royal Mail)から、英国にあるヴァイキングの遺跡(Viking Britain)に関する8種類の記念切手が発行されたので、2回に分けて御紹介したい。


< Iron, silver and copper sword, Temple, London >


< Olaf Guthfrithsson silver penny, minted in York > 

< Silver penannular brooch, Penrith, Cumbria >

< Lindisfarne Priory, Northumberland >

2024年4月8日月曜日

ロジャー・スカーレット作「エンジェル家の殺人」(Murder Among the Angells by Roger Scarlett)- その3

東京創元社から創元推理文庫の1冊として
1987年に初版が出版された
ロジャー・スカーレット作「エンジェル家の殺人」内に付されている
「キャロラス家の客間図」


亡き父の遺言により、相手よりも1秒でも長生きした方が、亡き父が残した全財産を相続できることに定められていた双子の兄弟であるダライアス・エンジェル(Darius Angell)とキャロラス・エンジェル(Carolus Angell)の2人は、チャールズ川(River Charles)沿いに建つビーコンストリート236番地(236 Beacon Street)の邸宅の内部で対角線を引いたように二分して、相手よりも長生きすることに躍起となっていた。

双子の弟であるキャロラス・エンジェルは、長生きするために、若い頃から、健康に非常に気を付けていたが、双子の兄であるダライアス・エンジェルは、そんな弟の生き方を歯牙にも掛けなかった。

ところが、自分の死期が近いことを悟った今、ダライアス・エンジェルは、一文無しで残される可能性が高い長男のピーター・エンジェル(Peter Angell)と次男のディヴィッド・エンジェル(David Angell)のことを心配し、亡き父の遺言の内容を変更して、どちらが先に亡くなったとしても、亡き父が残した全財産を等分に分けることにしようと、キャロラス・エンジェルに対して、交渉しようと考えていた。


3月初旬の火曜日の朝、第一線から既に退いている弁護士のアンダーウッド(Mr. Underwood)に同席してもらった上で、兄のダライアス・エンジェルは、弟のキャロラス・エンジェルをダライアス家の区画へと呼んで交渉を行ったが、兄の体調があまり思わしくないことを鋭く感じ取ったキャロラス・エンジェルは、兄の交渉には全く乗ってこず、ダライアス・エンジェルの思いとは裏腹に、残念ながら、交渉は決裂してしまった。交渉が決裂した結果、更に体が衰弱するダライアス・エンジェルであった。


東京創元社から創元推理文庫の1冊として
1987年に初版が出版された
ロジャー・スカーレット作「エンジェル家の殺人」内に付されている
「キャロラス家の食堂図」


その日の夜、夕食が終わった後、キャロラス・エンジェルは、彼の養子であるカール・エンジェル(Carl Angell)とカレン・アダムズ(Karen Adams)の2人を人払いして、カレンの夫ホイットニー・アダムズ(Whitney Adams)を残らせると、今日の午前中の話を始めた。

その話に加えて、キャロラス・エンジェルは、ホイットニー・アダムズに対して、金庫の中から現金がなくなっていることにつき、助言を求める。しかし、ホイットニー・アダムズは、キャロラス・エンジェルの話にやや上の空だった。何故ならば、彼は、夕食の際、妻のカレンの元へとやって来たダライアス家のディヴィッド・エンジェルと妻の関係が非常に気になるようだった。

なんとか気を取り直したホイットニー・アダムズは、キャロラス・エンジェルの依頼に基づいて、キャロラス・エンジェルの寝室のタンスの引き出しに中から、金庫を持って来た。そこに、キャロラス家の執事であるブラードが、ホイットニー・アダムズに対して、来客を告げる。

来客が通された客間へと、ホイットニー・アダムズは向かうが、「誰も居ない。」と言って、戻って来た。続きの話を始めるキャロラス・エンジェルとホイットニー・アダムズの2人。


暫くして、キャロラス家内に激しい爆発音がしたため、カール・エンジェルが食堂へと向かうと、養父のキャロラス・エンジェルが、テーブルの上に両腕を前に伸ばして、上体を伏せていた。カール・エンジェルがキャロラス・エンジェルに触れると、養父は既に亡くなっていた。銃で撃たれていたのである。

キャロラス・エンジェルの側に呆然と立っていたホイットニー・アダムズは、カール・エンジェルの問いに対して、「キャロラス家に侵入して来た何者かが、キャロラス・エンジェルを銃で売ったんだ。」と告げた。

犯行現場に、ボストン警察(Boston police)犯罪捜査部(Bureau of Criminal Investigation)のノートン・ケイン警部(Inspector Norton Kane)が派遣される。


奇しくも、長生き競争に勝つことになったダライアス・エンジェル。

それを受けて、彼の次男ディヴィッド・エンジェルのカレン・アダムズへの態度が、非常によそよそしくなった。やはり、お金目当てだったのだ。

ダライアス・エンジェルは、逆に、無一文となって、邸から放り出される羽目に陥ったカール・エンジェルとカレン・アダムズの2人を救うべく、弁護士のアンダーウッドに依頼して、なき父が残した遺言を変更することに決めた。


東京創元社から創元推理文庫の1冊として
1987年に初版が出版された
ロジャー・スカーレット作「エンジェル家の殺人」内に付されている
「ダライアス・エンジェルが殺害された時に、
関係者が居た場所を示す図」

ダライアス家の客間において、ダライアス・エンジェルを待つ弁護士のアンダーウッド、犯罪捜査部のノートン・ケイン警部、そして、ホイットニー・アダムズの3人。他の人達は、邸内の思い思いの場所に居た。

車椅子のダライアス・エンジェルは、エレベーターに乗り、3階から1階へと向かう。スペース的には、ダライアス・エンジェルが使う車椅子が入ると、エレベーター内は一杯で、他に人が入る余地がなかった。

1階に到着したエレベーターを下で待っていた人達が鉄の格子ドアを開けると、驚くことに、車椅子に座ったダライアス・エンジェルは、首筋に柄が抜き取られた短剣を突き立てられて、殺害されていたのである。

エレベーター内には、殺されたダライアス・エンジェル以外には、誰も居なかった。エレベーターが3階から1階から降りるまでの間、一度も停まらなかった。


所謂、「密室殺人」である。一体、誰が、どのような手段で、ダライアス・エンジェルを殺害したのか?そして、犯人の動機は、何なのか? 

2024年4月7日日曜日

アガサ・クリスティーの世界<ジグソーパズル>(The World of Agatha Christie )- その41

(89)ベラドンナ(Belladonna)


株式会社廣川書店が出版している
滝戸道夫 / 指田豊編「改訂版 カラーグラフィック 薬用植物」から抜粋。

目:ナス目(Solanales)

科:ナス科(Solanaceae)

属:オオカミナスビ属(Atropa)


学名の「Belladonna」は、イタリア語で「美しい女性」を意味する「bella donna」から由来している。

これは、多くの女性達が、瞳孔を拡大させる散瞳剤として、この実の抽出物を使用したためで、瞳孔の拡大により、瞳が潤んで見えるので、側からは、美しい女性のように思えたのである。イタリアのルネッサンス時代には、女性の化粧法として、かなり流行していた。


原産:西欧


最近では、北アフリカ、西アジアや北アメリカにも分布。


多年生草木


茎:高さは1m位

根:太く肉質、帯白色で、長く分岐。

花:紫褐色で、釣鐘状。

実:花が咲いた後、緑色の実をつけると、1㎝ 程に膨らみ、黒紫色に熟す。猛毒を含む。ベラドンナの実をブルーベリー等と誤認して食した結果、食中毒を起こした例が報告されている。


ベラドンナの化学式(構造式)-
Bloomsbury Publishing Plc から出版された
キャサリン・ハーカップ作「アガサ・クリスティーと14の毒薬
(A is for Arsenic - The Poisons of Agatha Christie by Kathryn Harkup)」の
ペーパーバック版から抜粋。

ベラドンナは、全草に有毒性があり、根茎と根が特に毒性が強い。また、葉の表面にも、油が浮いていて、これに触れると、かぶれがおき、特に酷い場合には、潰瘍になる。

ただし、用法や用量を守って使用する限り、有用であり、ベラドンナに含まれるベラドンナ総アルカロイド成分には、鼻水を抑える効果があることから、多くの市販鼻炎薬に使われている。


ベラドンナを摂取した場合の副作用として、主な毒の成分であるトロパンアルカロイドにより、


*嘔吐

*散瞳

*異常興奮


等を引き起こし、最悪の場合には、死に至るので、取扱いに注意が必要。